津和野藩にて(其の参)
大奥の出す黒い炎に警戒し先制攻撃を見送るレグルスとスピカ。
「来ないか? だったら、まずは俺からだ! 魔炎球!」
黒い炎の球を撃ち出すが単発であるため容易く躱す。
そして、先に斬りかかったのはスピカ。
「でぇい!」
「あめぇ!」
ガシッ!
「なっ!?」
スピカの刀を黒い炎を纏う右手で受け止める。
「斬れていない!? どうしてですの!?」
「あの炎に謎があると思うッス! 2人共、注意するッス!」
「おらぁ!」
ヒュッ
大奥が近接戦を繰り出す。
黒い炎を両手に纏いボクシングのような動きでジャブを放つ。
スピカは刀で彼の攻撃を受け止め相手の隙を伺う。
「くっ、こいつ……陰陽術だけでなく近接戦闘力も高い!」
「はははは! おらおらおらぁ!」
「後ろがガラ空きですわよ!」
クンッ
背後からレグルスが鋼糸鉄線を大奥の首に巻く。
「殺れ、レグルス!」
「あめぇって!」
ボゥ!
大奥が首に黒い炎を纏う。
「そんなもので妾の糸は防げませんわ!」
ピンッ
糸に力を込める。
「やったか!?」
「いや……切れてないッス!」
「ははは、だからあめぇって言っただろ! おらぁ!」
ブンッ!
「きゃあ!」
裏拳でレグルスを吹き飛ばす大奥。
首に巻いた鉄線も解かれてしまった。
「ははは、やっぱ2人でかかってきても弱ぇぇぇ!」
「くっ、某達を舐めるなぁ!」
煽り耐性の無いスピカはすぐムキになり大奥に突きを放つ。
ヒュッ
ドゴッ!
「ぐふっ!」
その攻撃を躱し燃える右手でブローをスピカの腹部に直撃させる。
その一連の流れを見ていたフォーマルハウトはとあることに気付く。
(今、スピカの突きを避けたッス。レグルスの糸すら耐える強靭な体を持ちながら? ……おや、スピカの刀身に付いてるアレはもしかして。試してみる価値はあるッス!)
「付加術式、澎湃!」
レグルスとスピカの武器から滴る水滴。
澎湃は水属性を武器に付与させる効果を持つ陰陽術である。
「フォーマルハウト、奴の弱点は水なんですの!?」
「そうッス! 黒い炎は単なる見せかけ。それは炭素を多く含んだただの炎ッス!」
「!!! 野郎!」
「くふっ、凶事の黒い炎をこの短時間で見抜くとは……なかなかの洞察力ですね」
「自分、鍛冶師ッスから。スピカの刀に付着した黒い煤……余程の炭素を含んでいないとあんなに付かないッス。それに炭素を一か所に集めると金剛石以上の耐久性を誇るッス。刀を素手で受け止めたのもレグルスの糸を防いだのも自身の身体の一部分に炭素を集中させた結果ッス。つまり、その男は炭素を自在に操れる能力持ちッス!」
「くふ……くふふふ、だそうですよ。完全に見抜かれてしまいましたね、凶事」
「五月蝿ぇ! お前もフォーマルハウトを何故攻撃しない!?」
「いやいや、戦う能力を持たない彼女など1秒もかからず瞬殺できますので。ほら、よそ見をしていると危ないですよ」
スピカとレグルスが瀬取の方を向いている大奥に同時に攻撃する。
バシャァァァ
「くっ、俺の炎が消される!?」
「ただの炎というのは本当だったようだな。どりゃあ!」
「ここで終わらせていただきますわ!」
再び2人同時に大奥を攻撃する。
だが、ニヤリと笑みを溢す彼は叫ぶ。
「だから、あめぇって! 金剛装身!」
ブワッ!
「きゃっ!」
「ぬぅ!」
大奥の周囲を漆黒の炭素が覆う。
やがて、それは半透明の物質と化し鎧の様相を現す。
「炭素を自力で金剛石に変えたッスか!?」
「くくっ、くわーっはっはっは! これが世界最強硬度を誇る俺だけの鎧! 金剛装身だぁ!」
「くふっ、奥の手を見せるのが早いですよ凶事。追い詰められているのでは?」
「ちげぇって! 女2人に火を使うのを止めただけだ。これで甚振ってやんよぉ!」
シュッ
ジャブをスピカ相手に繰り出す大奥。
それを刀で受け止めようとしたスピカだったが……。
バキッ
「!!!」
「刀が折れた!? エンチャントを受け耐久性が上がっているのに!?」
「金剛石の拳を刀で受けた結果ッス! いくら耐久性が上がっていても細い刀身で金剛石の塊の前では壊れて当然ッス!」
「おらぁ!」
ドゴッ!
「かはっ!」
金剛石のジャブを腹に決められ意識が飛びかけるスピカ。
その隙を大奥は見逃さなかった。
「スピカ!」
「くくっ、ここから……だぁ!」
ドゴッ
バキッ
ドドドドドド……
まるでサンドバックのように連撃を食らわせられるスピカ。
レグルスは鉄線では相手に傷一つ与えられないと考え腰にいつも巻いている鞭を取り出す。
「おやめさない!」
バチッ
だが金剛石の鎧の前では少々の打撃など大奥の身体に振動すら許さなかった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
バキッ!
スピカの胸部から聞こえる鈍い音。
レグルスとフォーマルハウトはすぐに理解した。
「肋骨が折れたんですの!?」
「オラァ!」
ドゴッ!
ヒュゥゥゥ……
ズガァァァン!
トドメのストレートでスピカは吹き飛ばされ起き上がることはなかった。