津和野藩にて(其の弐)
「わわっ!」
「ひぇ!」
間一髪でボロ家の外に飛び出すレグルス達。
辺りを見回すと村人達が一か所に集められていた。
近くには巨大な氷の鎌を持った女が村人に刃を向けている。
「おやおや、フォーマルハウトとやらを襲いに来たのですが……」
「まさか、レグルス・スピカ・ムジカ・アルデバランまでいるとはな」
「これは想定外ですぅ」
男二人に女一人。
レグルス達はすぐに長州藩士の襲撃だと理解した。
「みんなの名前を呼んだッス!? まさか……」
「ええ、どういうわけか妾達の情報が漏れているらしいんですの」
相手を警戒し戦闘態勢に移るレグルス達。
フォーマルハウトも背中にかけていた玄能を手に持ち構える。
「あちらは5人、こちらは3人……さてさて、どうする?」
「くふっ、雑魚5人の間違いじゃないですか? 何、弱気になっているんです?」
「け、喧嘩はやめてくださぁい。ここは平和的に凶事ちゃんがフォーマルハウトちゃん、瀬取さんがアルデバランちゃんとムジカちゃん、それであたしがレグルスちゃんとスピカちゃんを殺りましょぉぉ」
「おい、どうして俺が1人なんだ? しかも、最弱じゃねぇか」
「くふっ、それにちゃっかりあの中でそれなりに抗いそうな2名を自分が選んでいるし……」
「じゃんけんだ、じゃんけん! いくぞ、後出し無しよ―――」
「「じゃんけん……ぽん!」」
「「あいこで……しょ!」」
「「あいこで……」」
突然、じゃんけんを始めた3人組。
レグルス達はただ見ているわけいかず、先に手を出すわけにもいかず迷っていた。
「えっと……待てば良いの?」
「今のうちに逃げても構わないのでは?」
「駄目ッス。村人が人質に取られているッスよ」
「くっ、あんな3バカを相手にせねばならないのか」
「それでも今までの長州藩士同様甘くみてると痛い目に遭うでごわすよ」
「「あいこで……しょ!」」
「よっしゃぁぁぁ、俺がレグルスとスピカをもらうぜ!」
「負けてしまいましたぁ……あたしはムジカとアルデバランをいただきますぅ」
「くふっ、ではボクが残り物のフォーマルハウトですね」
レグルスらを見る3人組。
それに警戒し武器を構える。
「あの3人が勝手に決めたメンバーで戦うッスか?」
「でも、それならサポーターのフォーマルハウトは……」
「自分はここでエンチャントの準備をするッス。おそらく、自分の行動を見てかかってこようとは思わないッスよ」
「ああ、なら某とレグルスはあの赤髪野郎だ」
「ムジカとアルちゃんで白い子をやっちゃうの!」
各自、散開し敵の近くへ行く。
「くふっ、フォーマルハウトは動きませんか。ま、戦闘能力が皆無に近いエンチャンターという情報は得ています。あの2人の勝負が着くまで朕は座して待つとしましょう」
フォーマルハウトはその場で陰陽陣を描き両手で印を組む。
「自分は鍛冶師……戦う専門では無いッス。だから、レグルス達の武器を少しでも強くするッス! 付加術式、硬化!」
ブゥン
レグルス達の持つ武器が淡く輝く。
硬化のエンチャントは武器の耐久性を上げる術である。
「はははは! さぁ、行くぜ行くぜ行くぜ! レグルス、スピカ! 俺はチャーシュー民主主義人民共和国独立先行部隊、大奥凶事! 魔炎の凶事様だぁぁぁ!」
ゴゥ
黒い炎を右手から発生させる大奥。
「黒い……炎!?」
「そんなの見たことありませんわ!」
一方、ムジカとアルデバランは……。
「あたしはチャーシュー民主主義人民共和国独立先行部隊、雅致華右京。ムジカとアルデバランの首をもらいますぅ」
「やっぱり長州藩士だったの!」
「気をつけるでごわすよ、ムジカ」
ピキッ……パリッ
地面の違和感に気付くムジカはすぐさま下を向く。
すると霜がたっていた。
「地面がいつの間にか凍ってるの!?」
「むぅ、氷使いでごわすか」
「そうですぅ。絶対零度の右京と皆から呼ばれていますぅ」
「う、動けないの!」
「なんという氷の厚さでごわすか」
「貴女達の大切なお仲間が甚振られる様子をここで大人しく見ているのですぅ。その後は貴女達の出番ですよぉ」
「レグルスちゃん!」
「ぬぅ、スピカ頑張るでごわす!」
今、1つの戦いが始まる。