津和野藩にて(其の壱)
翌日、レグルスらが徒歩で向かった先は石見国津和野藩。
長州藩の隣だが過去の長州征伐には中立を貫いていた。
だが、藩士の中には倒幕運動に身を投じる者も多い。
そのためか藩内は荒れに荒れ宿場町と言えどまるで世紀末の様相をしていた。
「はぁはぁはぁ……レグルスちゃん、ムジカ疲れたの―――」
「おいどんも限界でごわす」
夜中から休むこともなく移動を続け皆疲れ果てていた。
「馬車を破壊されたのは痛手だな」
「ええ、思ったより進みませんわ。この調子では萩城に到着するのは3日後……」
「3日で済めばいいがな……」
ザッザッザッ
レグルスらの前に現れる荒くれ津和野藩士と酒瓶を手に持ち酔っ払っている男の姿。
「むひょひょ、コイツ達が賞金首の?」
「はっ、星々の庭園一派です!」
「むひょ―――、デブ以外別嬪さんばかりじゃぁ。これは捕らえてお楽しみするのも……ぐへへ」
「首さえ渡せば我らもチャーシュー民主主義人民共和国の一員になれます。お楽しみするのも良いことかと……」
「むひょ―――! じゃあ早速……」
レグルス達は接近する津和野藩士に警戒し武器を構える。
「来ると言うなら殺るしかありませんわ」
「ああ、こんなところで倒れるほど某らは弱くはない!」
「や、殺っちゃうの!」
その時だった。
突如、煙幕に包まれる津和野藩士達。
何事かと周辺を警戒するレグルスらに茂みから声が聞こえた。
「お前達、こっちッス!」
「その声は!?」
「行こう!」
声のする方へ一斉に逃げる。
津和野藩士達は涙が止まらず、その場を動けずにいた。
「くそぅ! 逃がすかぁ!」
「むひょ―――、絶対に捕まえてみせるむひょ!」
茂みを抜けるとそこには小さな廃村があった。
村人は皆やつれ今にも行きが途絶えそうな者も少なくなかった。
「酷い……」
「某の幼少期を思い出すな」
「こっちッス」
一軒のボロ家の中に入るレグルス一行。
そこには碧い髪に紫色の瞳をした少女が立っていた。
「久しぶりですわね、フォーマルハウト」
「お久ッス。まさか、皆がここに来ているなんて驚いたッスよ」
フォーマルハウト、星々の庭園内で唯一の鍛冶師である。
至高の玉鋼を探しに旅に出て石見銀山を訪れた後、偶然ここに立ち寄っていた。
彼女のロールはサポーター。
アタッカーばかりのレグルスらにとっては心強い味方だ。
「まったくだ。お前の力も借りたかったところで助かった」
「フォーちゃんなの。これで武器が壊れても直してもらえるの」
久々の再開に喜ぶ中、アルデバランだけは違っていた。
「それより、これは何事でごわす?」
「数ヶ月前、津和野藩主亀井家が蒸発し一部の藩士が好き勝手やった結果ッスよ」
「なるほど……どうりで治安が……」
「いつの世も力なき者が泣きを見るのか……くそっ!」
フォーマルハウトはここに着いた後、村の者達を見捨てることが出来ず可能な限りのことをして村人達の飢えを抑えていた。
それもこれも美心に教えられたサバイバル術のおかげである。
「藩主は何処に行ったでごわす?」
「それが分からないッス。城に潜入し色々調べてみたものの突如、消えたようにしか……」
「人が消える? 誰だって跡を残すだろう? どういうことだ?」
「そのまんまッス。跡が綺麗さっぱりに消えているッスよ」
忍びの術に長けた星々の庭園であっても追跡できないことに皆の謎が深まる。
だが、レグルス達は先を急ぐ身。
レグルスがフォーマルハウトに話す。
「フォーマルハウト、妾達は先を急いでいるんですの。ここで村人の世話をしている暇など……」
「レグルス、村人たちを見捨てるというのか!」
「そう言えば何かあったんッスか?」
スピカがこれまでの経緯を話すとフォーマルハウトは冷静にこう答えた。
「カノープスやコペルニクス、リギルまでやられるとは……相当な使い手ッスね。比奈乃様も心配ッス」
「だからフォーちゃんにも付いて来て欲しいの。一緒に来てくれたら心強いの」
「それにフォーマルハウトもいつ長州藩士に襲われるか心配でごわす」
ガシャァァァン
その時だった。
天井の屋根が突然崩れてきた。