備後国にて(其の弐)
二人は竜兵衛から距離を取るとすぐに戦闘態勢を取り武器を構える。
スピカは日本刀、アンタレスは特注の手甲。
右手人差し指全体を金属が覆い指先に長い爪が具えられている。
「早速、敵さんかよ。まったくよぉ……」
「アンタレス、気をつけろ。奴と同じ部隊の者にリギルがやられている。もしかするとカノープスも奴らと同じ部隊に……」
「ほぅ、俺の大事な仲間をやってくれるたぁケジメ付けないといけないねぇ……」
「そくそく……そぉぉぉっく! 喰らえ、雷速斬!」
カッ
プシュッ!
竜兵衛が激しく輝いたと気付いた瞬間、アンタレスの左肩に大きな切り傷。
背後を取られた二人はすぐに竜兵衛の方を向き武器を構える。
「くっ、早いな」
「スピカ、今のを目で追えなかったのだとしたらお前には無理だ。こいつは俺がやる!」
「そく!? 貴様は儂の動きが見えたというのか! そぉぉぉっく! そんなこと断じて有り得ない! 雷速斬!」
カッ……
ガキィィィン!
竜兵衛の攻撃を人差し指一本で受け止めるアンタレス。
「何っ!?」
「かろうじて見えてる程度だがな……だが、見えていれば貴様の攻撃は防げる!」
竜兵衛はアンタレスから距離を取ると再び雷速斬を放つ。
ガッ!
カカカッ!
「どうしたどうした?」
そのすべてが防がれると竜兵衛は二人から距離を取り視線をスピカに向ける。
「そぉぉぉっくそくそく! ならば……」
不気味な笑みを浮かべ雷速斬を放つ。
カッ!
「!!! 野郎!」
ドシュッ!
「アン……タ……レス……」
「ははっ、まったくよぉ。俺としたことがなんてザマだ」
アンタレスの背中に大きな切り傷。
「そぉぉぉっくそくそく! 儂の動きが見えないそいつを狙ったつもりだったがまさか身を投げ出して庇うとはなぁ! そぉぉぉっくそくそく!」
「ふざっ……」
シュッ!
竜兵衛は再び二人から距離を取り武器を構える。
「その傷なら儂の攻撃を防ぐことも無理だろう? そくそくそく、ならば貴様から殺ってやろう」
「ははっ、願ったり適ったりだね。ぐぅ! かかってきな」
「アンタレス、その傷じゃ無理だ! ここは某が!」
「馬鹿野郎! さっきの攻撃も避けることさえ出来ねぇ用無しが! ここは戦場なんだぞ! お前はさっさとここから去りやがれ!」
スピカに向かい声を荒げるアンタレス。
それは仲間を大切にする彼女なりの優しさだった。
「くっ……某は……用無し……。アンタレスの戦いを邪魔するわけにはいかないのは事実……くっ、御免!」
スピカは河川敷から離れ城の方向へと向かっていった。
「さぁて、殺ろうか……おっさん」
「そぉぉぉっくそくそく! 良いだろう、貴様さえ殺せば一人一殺の契約は果たされる。だから……とっとと死ねぇ!」
カッ
雷速斬を繰り出す竜兵衛。
アンタレスも同時に攻撃を仕掛ける。
「スコーピオンニィィィドル!」
…………ブシュゥ!
アンタレスの左肩の傷が更に深くなり血が吹き出す。
「そぉぉぉっくそくそく! なんだ、貴様の攻撃は痛くも痒くも……」
「スコーピオンニードル……サソリの毒針だ。お前に打ったのは神経毒。そいつは徐々にお前の身体を蝕み、その自慢の速さを奪う。悪いな、俺の勝ちだ」
「そぉぉぉっくそくそく! 勝利宣言をするのは儂のほ……」
ビリ
「へっ?」
ドサッ
竜兵衛の身体に毒が回り自慢の足が動かず、その場に倒れてしまう。
彼の傍によるアンタレス。
「勝利宣言が何だって? お前は念仏を唱えるのが先だろう」
「ひっ……ひぃぃぃ、許……して……」
グシャ
アンタレスは躊躇うこと無く竜兵衛の頭を踏み潰す。
「へっ、終わったか。けれど、これほど手強いとはな。俺としたことが……まさ……か……相……打ち……な……んて……」
ドサッ
アンタレスも出血多量で竜兵衛の死体の隣に倒れてしまう。
だが、長州藩士の一人を倒せたのは大きな功績であった。