備前国にて(其の肆)
倉庫の屋根に登り穴を開け中に入るレグルス、ムジカ、ケンタウルスの3名。
「どすこぉぉぉい! リギルを取り返しにきたでごわす!」
「むふ、むふふふ。こんな夜更けに五月蝿いですね。貴女も星々の庭園ですか? むふぅ、いやはや……そんな豊満なボディを持ってまるで力士のよう」
「おいどんは女力士でごわぁぁぁす!」
張り手を繰り出すアルデバラン。
その威力は大岩を軽く粉砕する。
ドプン
ドゴォォォン!
「むふ、無駄です。吾に水がある限り効きはしません」
水鎧で自身の身体を覆う大造寺。
それを倉庫内の隙間から見ていたレグルスは暗殺の機会を窺っていた。
(あれは何ですの? アルデバランの張り手を防ぎ耐えるほどの鎧? あんなのがあったら妾の鋼糸でも首を縛れませんわ)
「どすこい! どすこい! どすこぉぉぉい!」
「むふふふふ、無駄だと言ったでしょう? 効きはしませんよ。それよりいい加減、鬱陶しいですね。水槍」
ドスッ
「ぐっ!」
アルデバランの脇腹を水で作った槍が貫く。
「むふふふ、これで二人目。吾にかかれば……おや、これはいけませんね」
雨が小雨になってきたことに気付く大造寺。
自身を覆う水の鎧も形態を保てなくなってきたのかプルプルと歪んできた。
「レグルス、今でごわす! どすこぉぉぉい!」
バシャァァァン!
渾身の張り手で水鎧を壊すアルデバラン。
そして、間を置くことなく大造寺の背後の壁をぶち破りレグルスが攻撃を仕掛ける。
「なんとっ! まだ隠れていたか!」
「これで終わりですわぁぁぁ!」
キン
ボトッ……
大造寺の首が綺麗に落ちる。
レグルスの得意武器、鋼糸鉄線に断てぬものは無い。
「やった!」
「さすがだね♪ レグルス!」
「さて、リギルを助けますわよ」
火の陰陽術で氷を解かすレグルス達。
みんなの陰陽力を使ってもなかなか解けず完全に解かすのに数時間ほどかかってしまった。
「身体が冷たい……」
「当然だ。ずっと氷の中にいたんだからな。人工呼吸と心臓マッサージ。レグルス、電気陰陽術を!」
「ええ、分かっていますわ」
「ねぇ、アレ……おかしくない?」
ケンタウルスがアルデバランの脇腹に出来た傷を治療しながら皆に話す。
「斬ったはずの大造寺の身体……倒れないし……血も吹き出ていない」
「みんな! 避けろぉぉぉ!」
突如、待機していたスピカが叫ぶ。
「えっ?」
「むふぅ、気付きましたね!」
ドスッ!
「「!!!」」
ピクピク……
「お姉ちゃん!」
首がない大造寺が水槍を放ち倒れているリギルの身体に突き刺さる。
しかも場所は心臓のある場所。
「むふ、むふふふふ! 今回はここまでですね。ですが一人は確殺できました。また、会いましょう。星々の庭園の皆さん。むふふふふふ!」
不気味な笑い声が消えていく中、首のない大造寺は単なる水へと戻る。
リギルの身体から大量の血が流れ出している。
「あ、ああ……いけませんわ! このままでは!」
「傷を焼くしか無いでごわす!」
「だけど、そんなことしたら体の中に血が溜まってしまうよぉぉぉ!」
リギルのピンチに皆が困惑する。
ただ一人、冷静だったのはスピカ。
皆の下へ行き声を掛ける。
「落ち着け、お前ら! ここであたふたしていても埒が明かぬ。レグルス、糸で傷口を縫合し体内から溢れる血液をできるだけ少なくさせるんだ。ケンタウルス、同じ血液を持つお前の血を姉に分けてやる必要があるかもしれぬ。その時まで少し休んでおけ」
仮死状態だったリギルの身体が功を奏したのか心臓に傷は付いておらず出血も以前の攻撃で体内に溜まったものが流れた程度で済む。
宿につれて戻ると皆がリギルを抱き体温で温める。
トクットクッ……
「あ、これって……」
「蘇生完了だ」
「やった―――!」
リギルの心臓が小さく鼓動するものの彼女が意識を取り戻すことはなく3日が過ぎる。