備前国にて(其の参)
ハダルを抱え山陽道を東に進むケンタウルス。
「離せ! 離すのら、ケンタウルス! アンタ、何故姉を見殺しに……」
「ううっ、うわぁぁぁん! アタシだって助けたいと思ったよぉぉぉ! だけど、ハダルの足がぁぁぁ!」
「……ここまで逃げればいいのら。おいらを置いてすぐに助けに行くのら」
「ぐすっ、うん……そうす……る……」
ドシャァ
「ケンタウルス!」
全速力で走り体力が低下した中で豪雨ということもあり体温が奪われ意識を失うケンタウルス。
「どうしましたの!」
「あっ、お前達……」
薄れゆく意識の中、聞き覚えのある声。
覚えのある巨体に抱えられ近くの宿の中に入る。
「ケンタウルス、大丈夫でごわすか?」
「アル……デ……バラン……ここは?」
「宿の中なのら。ケンタウルスが何も考えず東に走ったおかげでレグルス達と合流できたのら」
「目が覚めたの! ケンちゃん、元気になったの!」
「しかし、既に3人も敵の襲撃を受けていたなんて……凄い込んだ設定ね!」
「そうだ! お姉ちゃん!」
「大丈夫ですわよ。スピカが向かいましたの」
「駄目! 一人じゃ勝てないよ! あいつは水使い……あっ」
フラッ
未だ全回復していないケンタウルスは立ち眩みを起こし再び布団に倒れてしまう。
「ええ、ハダルから聞きましたわ。恐らく、この雨の中じゃ最強。だから、スピカが偵察に行きましたの。戦う時は皆で敵の背後から一瞬で……妾達がお義母様から学んだ暗殺術がありますわ」
「うん、分かった。動く時が来たら起こしてね」
「ええ、今はお休み。ハダルも足を治すことに注力してくださいな」
「そうするのら」
雨は止むこと無く夜を迎える。
夜更け、スピカが戻ってきた。
「どうでしたの?」
「ああ、ハダルから聞いた通り氷漬けの中にリギルがいてな。それが解ける時を待っていたんだが何故か解けなくてな。ありゃ、どういうことだ?」
「この暑い時期に解けない氷って……確かに分かりませんわね」
隊員たちの会話を寝ながら聞いていた比奈乃。
(え―――ナニソレ!? 凄い面白そうな展開になりそうじゃない。そんな込んだ設定にスピカは気付いていない? はぁ、仕方がないわね)
比奈乃はむくりと起きてスピカに話す。
「それって永久氷壁でしょ。南極では中に生きたマンモスが入ってたってお婆ちゃんが書いた叡智の書に書いてあったわ」
「「!!!」」
比奈乃の言葉を聞いて驚愕するスピカ達。
「ま、まさか……」
「その氷の棺の中でリギルはマンモス同様かろうじて生きているのかもしれませんわ!」
「やったぁ! リギルちゃんは絶対生きてるの!」
「ありがとうございます、比奈乃様!」
「ふふっ……ならば、リギル救出作戦を決行します! 今すぐ助けに行きなさい!」
「「はっ!」」
窓から飛び出しスピカの案内のもと豪雨の中を進むレグルス、スピカ、ムジカ、ケンタウルス、アルデバランの5名。
ハダルは捻った右足が未だ完治せず待機となった。
…………数時間後。
「あれが水使いの大造寺。隣には氷漬けになったリギルですわね」
「どうやって奴を殺る?」
「ムジカがコレ(大鎚)で頭上から粉砕してやるの!」
「ムジカ、気が昂るのは分かりますが今は冷静になりなさい。背後は倉庫ですわ。あの中からなら簡単に背後を取れますわね」
「だったら、おいどんがヤツの目を向けさせるでごわす」
「その隙に背後から……殺るのは妾で良いかしら?」
「だったら、アタシと……」
「ムジカで氷漬けになったリギルを奪還するでいいな。某はここから万が一のため待機しておく」
「了解なの!」
コクッ
皆が頷いたことで作戦が始まる。