備前国にて(其の弐)
「みんな―――ありがと―――!」
「最後は茶器会やるよ―――♪」
「ブヒィィィ! キタ―――!」
茶器会、チェキ会とはまるで異なる二人が淹れた抹茶をファン達に配り一緒に飲む、ただそれだけの会である。
「それじゃ乾ぱぁぁぁい!」
「ブヒィィィ!」
その日のライブは終了しファン達は帰っていく。
「お姉ちゃん、今日は何も無かったね」
「ええ、またライブ中に襲ってくるかもしれないと思っていたのに……」
「ま、来ないなら来ないで良いのら。二人共、お疲れ様なのら」
「ハダル、足は……まだ腫れがひかないわね」
「宿で休んでいれば良かったのに」
「今は一人になる方が危険なのら」
暫く3人で話をしながらステージを片付け次のライブを行う場所まで荷車を引く。
ポツ……
ポツポツ……
「あ……」
「降ってきてしまったのら」
雨宿りを近くの建物の軒下でしている時だった。
豪雨の中、傘を指さず歩く人影に3人が気付く。
「むふ、むふふふ。星々の庭園の方々とお見受けします」
「「!」」
戦闘態勢を取るリギル達。
「吾はチャーシュー民主主義人民共和国独立先行部隊の一人、大造寺灰斗。仲間達からは水使いの大造寺と呼ばれております」
「チャーシュー民主主義人民共和国!? 長州藩の者が私達に何のよう?」
「むふ、この雨を待っておりましてね。水牢」
ドプン
「むぐっ!」
一瞬の出来事だった。
水塊の中へ入れられるケンタウルス。
「ケンタウルス!」
「むぐっ……むぐぐ……」
必死に中から壊そうと殴りかかるが水牢を破ることができない。
「外から斬るのら!」
ヒュッ
ハダルが短刀を取り出し必死に斬るが大造寺が作り出した水塊を破壊することはできなかった。
「くっ、氷陰陽術……氷霜!」
カチン
一瞬でケンタウルスを閉じ込めた水塊が凍る。
バキン!
「けほっけほっ……お姉ちゃん、ありがとう」
「むふ、やりますね」
「次はお前なのら!」
「ハダル!」
間を置くこと無くハダルが大造寺に斬りかかる。
「むふ、水鎧」
ドプン
大造寺の周りを水塊が覆い刃が通らない。
「吾に物理攻撃は無駄です。水牢」
ドプン
ドプン
次は一気に3人を水塊に閉じ込める。
「ごぼっ……」
「!」
「むぐ、むぐぐぐ!」
リギルが印を結び再び氷陰陽術を使おうとするが当然ながら大造寺は見逃さない。
「させません。水槍」
ドスッ
「!」
水塊ごと水で作り出した槍でリギルを貫く。
『お姉ちゃん!』
『二人は……やらせ……ない……。ケンタウルス、ハダルを連れて逃げなさい。こいつは強い。氷霜!』
『そんな! 駄目だよ、お姉ちゃんも!』
カチン
一気に3つの水塊が凍る。
ケンタウルスは自慢の腕で氷の塊を破壊しする。
「むふ、またですか。いやはや、貴女と吾は相性最悪といったところですね」
バキッ
「ハダル!」
「何をしているのら。姉を救うのら!」
自力で氷の塊を壊し出てきたハダルを前にケンタウルスは迷う。
(お姉ちゃんは重傷でハダルも足を怪我しているから早く動けない。どっちを助けたら……ああ、迷っちゃ駄目! お姉ちゃんに言われたことをアタシは守る!)
ガシッ
ハダルを抱え土砂降りの雨の中を駆け抜けるケンタウルス。
「むふ、むふふ。なるほど、自身の命を重視する方でしたか。いやはや、ああいったタイプは殺り辛い。まぁ良いでしょう。一人は確殺……む?」
大造寺はリギルが入った赤い氷塊を見て気付く。
(この氷塊、ただ凍っているだけではない? 周囲の温度も下げ解けないように……なんと複雑な陰陽式だ。この短時間に設定したというのか。低杉様が危惧されていた通り。春夏秋冬美心の私設部隊は幕府軍よりレベルは数段上ということか!?)
「むふ、むふふふふ! こちらもこちらで考えますねぇ。自身を氷漬けにし仮死状態となることで命を永らえますか? 面白い、気に入った! 吾はここで奴らが取り返しに来るまで待っているとしましょう。むふふふふふふ」