備前国にて(其の壱)
岡山藩、備前国のとある宿場町。
ここにライブをし小銭を稼ぐリギル姉妹とハダルがいた。
「みんな―――愛してる―――!」
「ブヒィィィ♪ ケンタウルスちゃぁぁぁん!」
「次はこの曲……愛の星!」
「ぶひぃぃぃ♡ リギルちゃぁぁぁん!」
大勢のファンを前にリギル達は歌い踊る。
ハダルは舞台裏で彼女達のサポートにまわっていた。
「お届け物でーす」
「飛脚さん、ご苦労なのら。おや、レグルスから……!」
レグルスからの手紙に目を通すと言葉を失うハダル。
(長州藩が幕府に謀反を……これは大仕事になるのら)
「みんな―――まったね―――!」
「ブヒィィィィ♡ まったね―――♡」
ライブが終わるとハダルは二人にレグルスからの手紙を渡した。
手紙を読み表情が真剣になる。
「なんてこと……」
「お姉ちゃん、なんて書いてあったの?」
「新たな任務よ。長州藩に向かうわ」
「えっ? 京都と真逆の方角じゃない」
「仕方がないわ。長州藩が日本から独立するかしないかの危機なのだから」
「レグルス達が向かっているのら。先行するよりここで合流したほうが良くないのら?」
「アタシもハダルと同じ。みんながいるほうが心強いって!」
「なら暫く待ちましょう。その間はこの辺りで資金集めをしておきましょ」
「了解なのら」
「また夜はライブだね♪」
その日の夜、二度目のライブを始めたリギル姉妹。
裏方でいそいそと働くハダルに一人の不審者が近寄る。
「ここは関係者以外立ち位置禁止なのら。今すぐ出ていくのら」
「ぶ、ぶ、ぶ、ぶひ、ぶひ、ブヒィィィ!」
気持ちの悪い叫び声と共に身体を変異させていく不審者。
肌が銀色になり、まるで西洋の甲冑を来ているような姿に変わる。
呟怨嗟騎士、呟怨嗟女同様に悪魔教徒の強化のため男性信者に取り入れた呪物で強化されている。
「また悪魔教徒なのら? 二人はライブ中。邪魔はさせないのら」
短刀を鞘から抜き身構えるハダル。
先手必勝と言わんばかりに不審者に斬りかかる。
ガキィン!
「! 刃が通らないのら!?」
「ぶ、ぶひぃぃぃぃ!」
グンッ!
不審者が大きく拳を振り上げハダルを空高く上空へ吹き飛ばす。
「くっ、なんて馬鹿力なのら! あ、そっちへ行っては駄目なのら!」
不審者はハダルに構うこと無くステージの方へ足を進ませる。
「な、なんだブヒィ?」
「甲冑を来た……誰だブヒィ?」
「ブヒィ! リギルちゃんの歌を邪魔するな、ブヒィ!」
ファンの男達が真っ先に気付き野次を飛ばす。
「えっと、どなたですか? ステージに上がらないで……」
「ぶひぃ!」
グンッ
注意しに近付いたリギルに拳を振るう不審者。
相手を警戒していたおかげで難なく躱す。
「何をするの!?」
「リギル、悪魔教なのら!」
「そういうこと。ケンタウルス!」
「任せて、お姉ちゃん!」
ブンッ!
不審者に殴りかかるケンタウルス。
だが、身体が異常に硬い不審者に拳は通らない。
「いたたた……なんなの、こいつ! めちゃくちゃ硬い!」
「だったら! 第4境地風陰陽術、鎌鼬!」
ブシュゥゥゥ
不審者の身体に傷を付けるリギル。
異常なほどの血を流し不審者は吠える。
「ぶ、ぶ、ぶ、ぶひぃぃぃぃ!」
「!」
ズガァァァン!
不審者はステージ上で3人を巻き込み自爆してしまった。
「くっ……なんてやつ。まさか、自爆するなんて」
「お姉ちゃん、ハダルが!」
「不覚だったのら」
避ける際、体勢を崩し足を捻ってしまったようだ。
右足が酷く腫れている。
「ブヒィ? 大丈夫かい、ブヒィ」
「リギルちゃん、今日はもう終わるべきブヒィ」
「ワイ達も帰るブヒィ」
「みんな……ごめんなさい。この分は近い内に必ず」
「みんな、ごめんね♪」
「「ブヒィィィィ! L・O・V・E、ケンタウルスちゃぁぁぁん!」」
ファン達はステージ前から散り散りになり帰っていく。
リギルとハダルを背負ったケンタウルスも宿に戻っていった。
「むふ、むふふふ。流石ですね。今日はこれまでにしておきましょう星々の庭園。次の攻撃は明日。さて、次は吾がお相手しますよ、むふふふ」
不敵な笑みを浮かべ建物の壁に身を隠し3人を観察する謎の男がいたことをリギル達は知らない。