姫路にて(其の壱)
姫路藩、コペルニクスが悪魔教の一派を姫路城ごと壊滅させて3ヶ月が経っていた。
シンボルである姫路城は改修工事中でその資金は春夏秋冬財閥から出資されている。
「ん、ここにまた来るなんてね」
「そう言えば、コペルニクスの隠密任務は姫路藩だったよね?」
「ん、悪魔と関わりのある者が多くて苦労した」
「悪魔教か。奴らの目的は何なのだ? 行動を起こせば起こすほど残念な思考の連中だとしか思えないのだが……」
比奈乃と静が月夜に照らされる姫路城を見ながら語り合う。
(そうか、静は悪魔教が妄想の産物であることを知らないんだ。星々の庭園がごっこ遊びで倒すべき敵なんだけど、何故か設定が残念なおばさんの集まりってことになっているのよね。エキストラに来てくれる暇人がおばさんしか居なかったのかもしれないけど、もうちょっと何とかならなかったのかなぁ)
比奈乃は悪魔教が本当に存在するヤバい連中の巣窟であることを知らない。
彼女にとって敵はごっこ遊びに付き合ってくれる優しいエキストラだとしか思っていないのである。
逆に静は悪魔教が本当に存在するものだと信じ切っている。
「ん? なんだか向こう側、煙が上がってない?」
「本当だな。もしかして火事か?」
「比奈乃様と静はここに居て。あたしが見てくる」
「面白そう。あたし達も行きましょ、静ちゃん」
窓から飛び出ると屋根伝いに煙が上がっている方向へ進むコペルニクス。
比奈乃と静は玄関から出て現場に向かった。
煙の上がっているところに行くと長屋の一角が激しく燃え上がっていた。
「に、逃げろぉぉぉ」
「ああ、うちの子が! まだ中に!」
泣き叫ぶ母親らしき人物。
子どもが激しく燃える長屋の中にいるようだ。
比奈乃は泣き叫ぶ母を見て思う。
(なんてテンプレな展開! これは救出すべきね。でも、服が燃えるのはやだなぁ。お気に入りだし……そうだ!)
「コペルニクス、助けて上げなさい」
「ん、了解」
コペルニクスは比奈乃の命令で陰陽術で出した水を頭から被ると長屋の中へと踏み込む。
「おい! 誰か火の海に入ったぞ!」
「ああ……ああ……ひろしぃぃぃ!」
しばらくすると赤子を抱えたコペルニクスが出てくる。
「ん、助けたよ。まだ息はしてる」
「ありがとう! ありがとうございます!」
「自分の子供ならあんなところに置いてちゃ駄目だよ」
「いいえ、この子はオスのYカスを受け継いだ失敗作なので……」
「え?」
グンッ!
赤子を渡そうと母親に近付いた次の瞬間、赤子がまるで岩のような重さに変わる。
「コペルニクス!?」
「ん、重い……手が離れない?」
ジュブジュブジュブジュブ……
手に持った赤子が姿を変えていく。
その姿は石像の魔物ガーゴイルのようだった。
「きゃははは、引っ掛かった! さすがお人好しの集団星々の庭園だミ」
「ん、失策……比奈乃様、ここは危険だから逃げ……」
自身は動けないが比奈乃を最優先に守るため、ここから離れるよう伝えるコペルニクス。
だが、比奈乃は感極まり無い展開に身震いしていた。
(しゅ、しゅごいぃぃぃ! 何々!? 何なのよ、あの赤子……まるで悪魔のような姿に……そうか、悪魔教! 悪魔の子は勿論ながら悪魔。きっと、あの母親も人間に化けた悪魔という設定なんだわ! んもう、エキストラなんて馬鹿にしていたけど、やる時はやるじゃん。そうそう、こういう展開を待ってたのよ! だったら、あたしがすべきことはただ一つ!)
ずかずかと高笑いをしている赤子の母のもとへ近付く比奈乃。
「比奈乃様、危ない。逃げて」
「ちょ、ちょっと比奈乃ぉ?」
(ふふん、見てなさい)
パァン
「へ?」
母の顔を平手打ちする比奈乃はこう告げる。
「悪魔教徒、貴女の子どもでしょ! それを悪魔に変えるなんて親として最低ね! すでに正体は分かってるわ! 真の姿を見せなさい!」
「こ、このあまぁぁぁぁぁ!」
突然のことで呆気に取られている母は我に返るとブチギレ自身の身体も変異させる。