伏見にて
口から大量の血を吐き苦しむ彼女の頭を掴み持ち上げさらなる連撃を加える銀兵衛。
ドゴッドゴッボゴッ!
「にゃぁぁぁぁ! ガクッ……」
何度も何度もカノープスに腹パンを食らわす銀兵衛。
あまりの痛さに気を失い幻術が解け人間の姿をさらしてしまう彼女を前に銀兵衛は攻撃を止める。
「くくく、なるほど……その姿を見て俺は理解したぞ。貴様、星々の庭園の者だな? 春夏秋冬美心の私設部隊がこんなところまで入り込んでいるとは……何故だ? 分からぬ! 俺の想定では長州藩へ向かっているはず! くそっ、何たることだ! 俺の想定外の動きをした貴様はアネックスペクテッドハラスメントだ。許せん!」
ブンッ!
ドゴォォォン!
勝手にキレてしまい気を失ったカノープスを痛めつける銀兵衛。
彼は自身が想定した通りに事が運ばないことが大嫌いな性格だった。
それはすべて他責思考により近くに居た者に当たり散らす。
「くそっくそっくそっ! いつまで気を失っている!? コーマハラスメントのつもりか! 目を覚ませぇぇぇ!」
ドゴッバキッバキッ!
ズガァァァン!
「はぁはぁはぁ……」
ピクピク……
すでに虫の息の状態になっていたカノープスを目にした銀兵衛は落ち着きを取り戻し攻撃をやめる。
「おっと、理威狩をやりすぎたようだ。くくく、春夏秋冬美心に伝えておけ。長州藩に早く来いとな。くくく、くーっくっくっく……」
不気味な笑い声を上げながら二条城を後にする銀兵衛。
異変が去ったが二条城で働いていた者は皆殺しに遭っており誰も気付くことなく翌日を迎える。
………………。
「遅い! カノープスは何をしている?」
「立花様の死を確かめるだけでこれだけの時間がかかるなんて……」
屋敷の工事現場で作業をしながら待つレグルス達。
新しい屋敷の完成も間近に迫っていた。
「みんな―――出立日が決まったよ」
比奈乃が工事現場にやって来た。
友人の毛利静も一緒のようだ。
「明後日、馬車を3台用意することが出来た。これで行程1週間ほどで長州藩に到着するだろう」
「静様、ありがとうございます」
「何、気にするな。比奈乃が私の故郷を見たいと言うのだ。友人の友人なら歓迎しよう」
「ところでみんな、あまり楽しそうに……ああ、設定か。こんな時までしなくてもいいのに。ところでカノープスは?」
「それが……」
スピカが比奈乃に大老が死んだかもしれないことは伏せ二条城にとある問題を調べに行ったと言葉を濁し説明をする。
「ふーん」
(二条城に……ねぇ? これも第三次長州征伐に必要な展開なのかな? それで帰ってこないカノープス……!!!)
「だったら、こんな展開はどう? カノープスは二条城で会敵し争ったが力及ばず……」
「「!!!」」
比奈乃の言葉は真実の言葉。
星々の庭園の者ならば誰一人として疑うものはいない(ただしカノープスは除く)。
その比奈乃が放った言葉にムジカが走り出す。
「カノちゃんが……カノちゃんが大変なのっ!」
「待ちなさい、ムジカ」
「比奈乃様、だけど……カノちゃんが!」
「ええ、分かってるわ。でも、貴女1人で向かったところで謎の敵には敵わない。スピカ、コペルニクス、ムジカの3人で二条城へ至急向かいカノープスの救出を命じるわ!」
(んはぁ、決まったぁぁぁ! 久しぶりにごっこ遊びをするのも楽しいわね)
「はっ!」
「ん、行ってくる」
「カノちゃん、待ってるの! ムジカが助けるの!」
各々、武器を手に取り二条城へと向かっていった。
「比奈乃、良いのか? あの子達、目がマジだったぞ」
「良いの良いの。みんな、遊び慣れてるから……じゃ、あたしらは寮へ帰るね」
「比奈乃様、静様、2日後に……」
比奈乃と静は仲良く寮へと戻って行った。