二条城にて
二条城の堀の前まで着いたカノープス。
普段と何も変わらぬ警備状況の厳しさだが彼女にとっては朝飯前である。
「にゃふふふ、猫一匹には目もくれぬ警備の緩さにゃ。さてと……遺体を安置しているとなると何処かにゃ?」
まずは二の丸御殿を中心に隈なく探すカノープスだが特に変わったことは無かった。
ただ、ここで働く侍達はいつにもなく忙しなく働いている。
(やっぱり、何かがあったことは確かだにゃ)
本丸御殿に向かい、その中の一室で侍達が集まり何やら口論している。
「くそっ、なんてこったい!」
「大老が殺されたって情報、何処から漏れたんだ?」
「やはり、この中に話を漏らした者が……」
「拙者は違うぞ!」
「俺もだ!」
「犯人探しをしている暇など無い! 幕府をお守りするためにこのことは徹底的に隠すのだ!」
「遺体はすでに焼却済み。欠片も残さず骨も粉々にしました」
「幕府に報告するにしても、まずは影武者の用意をしてからだ」
どうやら幕府に大老が亡くなったことを徹底的に隠すつもりのようだ。
それもそのはず。
今の幕府を支えている大黒柱が何者かに殺されたなど言えるはずもない。
その責任は二条城で務める者達の責任となり最悪、打首になるかもしれない。
自身らの保身を第一に動くことばかりで二条城内は混乱していたのであった。
(遺体は燃やした後だにゃ? ま、ここまで話を聞いた以上はレグルスの言ってたことは真実だにゃ。長州藩の誰かが大老を斬った。にゃら、そのことを調べるため行くしかにゃいにゃ)
本丸御殿を後にし屋敷へ戻ろうとした時であった。
ドゴォォォン!
ふすまをぶち破り乱入してくる謎の男。
「くっくくく、腐っているねぇ。実に腐っている」
「な、何奴!?」
「何処から入った! ここは幕府の直轄地なるぞ!」
突如、現れた漆黒のスーツにサングラスをかけた男。
その姿に見覚えのあるカノープスは驚愕した。
(にゃ!? あいつはあの時の!?)
二条城の近く、御池通りの倉庫で痛い目に遭わされたことを簡単に忘れることは出来やしない。
男の名は銀兵衛。
明治の世に存在しない特徴的なスーツ姿だけでも記憶に残りやすい中、カノープスは恐怖に打ちひしがれる。
(にゃろはあいつには敵わないにゃ。ここで大人しく奴が消えるまで隠れているにゃ……)
天井裏で様子を見続ける彼女。
侍達が銀兵衛のワンパンで次々と倒されていく。
「くくく、くわーっはっはっは! 弱し! 弱し弱し弱し弱し……弱しぃぃぃ!」
「ば、化け物だ……ゴフッ!」
「ゼェゼェ……拙者らの太刀を弾き返す……だとっ!?」
「く、くそぉぉぉ!」
1人の侍が最後の力を絞り出し銀兵衛に斬りかかる。
ガシッ
だが、銀兵衛に刃は通らずアイアンクローで頭部を掴まれてしまった。
「こ、この! 離せ! 離せぇぇぇ!」
「実に五月蝿い。ノイジーハラスメントと言ったところか。理威狩に反する!」
ブンッ
ドゴォォォン!
「にゃっ!?」
大の大人を片手でぶん投げる男。
侍は天井に激突しカノープス共々、床に落ちてしまう。
「ほう? ノイジーハラスメントの次はキャットハラスメントか……どいつもこいつも理威狩に反しよって! 許さん!」
「にゃ……にゃあ」
ガクガクブルブル
銀兵衛を前に全身の震えが止まらず、その場から身動き出来ないカノープス。
それは恐怖から来るものではなく、銀兵衛の放つ禍々しい気によるものだった。
第6感が常人に比べ発達しているカノープスは説明の付かないソレに多大な影響を受けてしまったのだ。
「猫の姿に化けて俺が騙せると思っているのか! 甘し! 甘し甘し甘し甘し甘ぁぁぁし!」
グンッ
ドゴッ!
「にゃふっ……」
情を一切掛けること無くカノープスの腹に一撃を入れる銀兵衛。
(か、身体が動かないにゃ……レグルス、ムジカ、助け……)