伏見にて
春夏秋冬邸を建設中のスピカ達を集め事の顛末を話すレグルス。
「長州が独立宣言だと……なんと言うことか!」
「へぇ、面白そうじゃん。で、うちらが長州に潜入するわけね? 昨夜、カノープスと出かけて美味しいもの食べた裏でそんな話してたんだ? ふーん」
「デネボラ、遊びじゃにゃいにゃ。げっぷぅ……」
「カノちゃん、にんにく臭いの」
「ん、カノープス断罪されたいの?」
「おいどんも高級ステーキ食べたかったでごわす……」
何処か緊張感がない隊員達。
それもそのはず。
レグルスには隊員たちを新たな任務に就かす権限を持たない。
彼女達が現在、最も最優先すべき事項は屋敷の建設。
美心からの命令をこなすことで精一杯なのである。
(このままではいけませんわ。やはり、お義母様が戻ってくるまで何もしない方が……いいえ、時間が経てば経つほど事態が悪化していくのは目に見えている。何も全隊員を導入する必要などありませんわ。話を真剣に聞いてくれたスピカ、それとカノープスも昨夜の話を聞いていたため動いてくれそうですわ。妾を足せばスリーマンセルの連携は取れる。比奈乃様と毛利静様も付いて来てくださるらしいし5人もいれば後続してくださるお義母様の助力にはなりますわ)
「それじゃ解散して皆、屋敷の建設をお願いしますわ。スピカとカノープスは残ってくださいまし」
ザワザワザワ……
寄宿舎から出て工事現場に向かうデネボラ達。
残ったスピカとカノープスに話をするレグルス。
「スピカ、カノープス、お願いしますわ。どうか妾に付いて来てくださいまし」
「長州へか?」
「にゃろは行かないにゃ。大老が頼んだのは主にだにゃ。それににゃろ達が介入するとかえって事態をややこしくする可能性もあるにゃ」
「ふむ、そういうものなのか? だったら某も行かないほうがよかろう」
カノープスには他の誰もが持たない野生の勘、第6感がある。
それにこれまでの経験から迂闊に今回の事件に首を突っ込むことに対しては否定的だった。
「そんな! 立花様が低杉の手の者に殺されたかも知れないと言うのにのんびりとしていられませんわ」
ピク
「どういうことにゃ?」
レグルスは今朝の話をし怪しい雰囲気を放つ者からの言葉もそのまま話した。
「大老が……これは大事ではないか!?」
「にゃふぅ、大老が殺されたかどうか調べる必要があるにゃ。まだ町人の噂程度なら真実性は低いにゃ。少し時間をもらうにゃ」
「何処へ行きますの?」
「二条城だにゃ。大老の遺体があれば行くしかにゃいにゃ長州藩に」
「相わかった。某達はすぐに出立できるよう準備して待っていよう。ただし、大老が生きていればお義母様の帰還を大人しく待つ。それで良いか、レグルス?」
「分かりましたわ。比奈乃様にもそのように伝えておきますわ」
比奈乃の名前を口に出した途端だった。
ピク
「何故、比奈乃様の名前が!?」
ピクピクピク
「え―――! 比奈乃様も長州藩へ行くの!? なら、うちも行くしぃ!」
「おいどんも行くでごわす!」
「カノちゃんが行くならムジカも行くの!」
デネボラ、アルデバラン、ムジカの3人は部屋の外で盗み聞きをしていたのだ。
比奈乃の名前を出したことで美心の力に間接的になれることを即座に理解し話に食いついたのであった。
「お前達ぃ! 屋敷の建設をサボって何を!」
「スピカがキレたし! みんな、逃げるよ!」
「ひゃ―――なの」
「おいどんも長州藩へ行くでごわすよぉ、レグルス!」
スピカと共に部屋の外へ出ていった3人。
「はぁ、まったく……あの子達は」
「ま、兎に角にゃろが探ってからにゃ。暫く待っているにゃ」
「ええ、お願いしましたわ」
猫の姿に化け颯爽と屋根伝いに二条城を目指すカノープス。
有能な彼女、全天21星の第2位を担っているだけのことはある。