四国にて(其の十弐)
「それで、その笛はどこに?」
「あの女性……五十部だったか? その者が持っているはずだよ」
リギルとハダルが互いに目を見て大きく頷く。
「奪ってきます。住職はここで身を隠していてください」
そう言うと金剛頂寺を後にして次の霊場へと向かう。
「五十部の居場所が霊場とは限らないのら。どうするのら?」
「ええ、そうね。でも、奴は必ず霊場に姿を現すはず!」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
ズガァァァン!
「「!!!」」
大木に縛ったケンタウルスが大木を根っこから引き抜き大木を背中に抱えたまま2人に襲いかかる。
「ケンタウルス、もう止めて!」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
ズガッ!
ズガガァァァン!
まるで暴れ牛のように止まることをしないケンタウルス。
「牛笛がなければ命令を聞かないのら。このまま走り続けるのら」
「そうね!」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
だが、状況は刻一刻と悪化していく。
2人を追うケンタウルスを目にしたチー牛達がその後を追いかけるようになってしまったのだ。
「もう、後ろに100以上のチー牛なのら!」
「振り返る暇はないわ! 兎に角、前に!」
海岸沿いをひたすら西へと目指す2人。
そして、それは突如として起こった。
「ぎひっ! 鬼ごっこもここまでじゃ」
前方の砂浜に五十部が100を超えるチー牛を従わせ待ち受けていた。
「挟まれたのら!」
「これはこれで運が良いわ! 他は放っといて最優先すべきは五十部が持つ牛笛!」
「ぎっひひひ! 悪魔教は勝ち確の時は逃げも隠れもしない! だが、ンダオされれば一目散に逃げる! それが教義なのじゃ!」
「卑怯なやつね! まるで声と態度だけがでかい乞食のよう……」
「ぎひっぎひひひ! いつまでも吠えるな! アイドルなどというオスに身体を売る売女がぁぁぁ!」
「アイドル活動はそんなのじゃない! 視野の狭いアンタには分からないだろうけどね!」
ガッ!
ガガガッ!
リギルと五十部が衝突する。
互いに短剣と杖を武器に攻防を繰り広げる。
「こっちは任せるのら!」
「「チィィィィぎゅぅぅぅ!」」
ケンタウルスを先頭に100ものチー牛を自身に引き付けリギルから離れるハダル。
「ぎひっ! お前達、奴らもお仲間にしてやるのじゃ!」
「「チィィィィぎゅぅぅぅ!」」
プシュ―――
口から糸状のチーズを上空に向かって一斉に吹き付けるチー牛達。
「くっ、まずい! 身動きが封じられるまでに何とか奪わないと!」
「ほーれほれ! これが欲しいんじゃろ? ほいっ!」
五十部が手に持った牛笛を背後に控える100のチー牛の群れの中へと放り捨てる。
「! なんてことを!」
「ぎっひひひ! さぁ、貴様に取ってくる勇気はあるかえ?」
「舐め……るなぁぁぁぁ! 風縛陣、絶!」
カッ!
風が100ものチー牛の動きを遅くする。
その隙に群れの中へと突入するリギル。
「くっ! どこ!? どこにあるの!?」
「「チィィィィぎゅぅぅぅ!」」
ブンッ!
姿勢を低くすることでチー牛の攻撃が近くのチー牛に当たってしまう。
「間隔を開けずに配置したのは間違いのようね! あった! これだ!」
ピィィィ
牛笛を拾うと口につけ笛を鳴らすリギル。
「ぎひ!」
「「チぎゅ?」」
「「チぎゅぎゅ」」
「「チぎゅっ!」」
「「チィィィィぎゅぅぅぅ!」」
「? なんかおかしいのら?」
チー牛達が互いにチーズを吹きかけあい巨大な繭を作る。
1つの繭の中には10体ものチー牛が入っていた。
「ぎっひひひ! かかったのじゃ! こっちが本物の牛笛! そっちは最終形態に変異させるための笛なのじゃ!」
「チぎゅ」
プシュ―――
ケンタウルスも近くのチー牛にチーズを掛けられ自身も吹き掛ける。
「最終形態!?」
「金剛頂寺で見た巨大な繭と同じほどの大きさなのら!」
「チー牛同士が呪物によって融合し1つの巨大な呪物へと変異するのじゃ! ぎっひひひ! 貴様の妹も他のチー牛と融合してしまっては2度と元には戻らないのじゃ!」
「き、貴様ぁぁぁ!」