四国にて(其の捌)
大日寺の山門にて再びハダルに質問するリギル。
「悪魔教、それじゃマスターの仰っていた悪魔って……」
「その宗教団体で製造されているのら。結局のところ、悪魔より恐ろしいのは人間だったというオチなのら」
「そんなことどうだって良いよ、チ―――。それよりもお姉ちゃん、お遍路を続けるためにも悪魔の発生元を叩かないと……チ―――」
ケンタウルスの問いかけに2人は頷く。
そして、ハダルを先頭に土佐藩の関所へと差し掛かる。
すると何やら騒がしい。
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
「うわぁぁぁ!」
「なんだ、この化け物共は!」
「化け物がお遍路の白衣を着ているぞ!?」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
「ぎゃあ!」
関所にいる役人に襲いかかるチー牛達。
焼山寺に襲撃しにきた者達とは違うことは、その服装だけで判断できた。
「悪魔化される人々が増えていっている?」
「土佐藩は既に壊滅状態なのら。あまりの数においらが攻めあぐねていたところへリギルからの手紙を受け取り会いに来たのら」
「そうだったのね……あいつらの目的は何?」
「残念な人間の思考など知る必要は無いのら。おいら達はただマスターが望む通り悪魔を屠るのみなのら」
「あはは、ハダルらしい答え方だね。チ―――」
「そうね、どちらにしても指名手配犯の五十部を捕らえれば何とかなると思うの」
「おいらも同じなのら。じゃ、行くのら」
ヒュッ
関所を襲撃しているチー牛を無視し土佐藩へと入る3人。
至る所にチーズの残骸が残り、まるで地獄絵図のようだった。
「臭いよぉ……チ―――」
「我慢なさい。別に毒ではないのだから」
「喋ってないで急ぐのら。五十部は逃げ足だけが早いクソ野郎なのら」
「ええ、以前思い知ったわ。次は逃さない!」
風を纏い夜闇の土佐藩を疾走するリギル・ケンタウルス・ハダル。
夜明けになると村の様子が鮮明に映し出される。
「チぎゅ?」
「チぎゅ」
「チィィぎゅ」
村の男性はチー牛に変わり果て女性の姿は見当たらない。
「これって……」
「悪魔教は自分たちの考えに賛同しない女性をねぇよ男性と称し、まるで奴隷のようにこき使っているのら。だから連れて行かれたのら」
「どこへ? チ―――」
「分からないのら。敵の警備が厳重で深く追い込めていないのら」
引き続き走るものの目的地まではかなり距離がある。
お遍路をしながらの行程では焼山寺から金剛頂寺まで徒歩で1週間はかかる距離である。
「ひぃひぃ、お姉ちゃん……もう足がパンパン……チ―――」
「流石に1日では無理のようね。今日はここらでキャンプをしましょう。それよりハダル、五十部が金剛頂寺にいたことを確認できたのは何日前?」
「何故、そんなことを聞くのら?」
テントを淡々と張りながら会話を続ける2人。
「あいつは逃げ足が早い。私が奴に会ったのは2日前なの、それも安楽寺で。そこから金剛頂寺まで馬車を使ったとしても4日はかかると思うのだけれど……」
ピタッ
ハダルの手が止まる。
リギルは視線を離さず、ゆっくりとケンタウルスの近くへと寄る。
「お姉ちゃん? チ―――」
「まったく……これだから勘の良いガキは」
ヒュッ!
「ケンタウルス!」
ドンッ!
ケンタウルスを両手で引き離し、ハダルが投げた苦無を陰陽術で弾き落とすリギル。
「貴女、何者!? ハダルでは無いわね!?」
「ぎっひひひ! 流石は春夏秋冬美心の私設部隊……星々の庭園だけのことはあるのじゃ」
「この声……五十部餅実!? まさか、陰陽幻術!?」
ブォン
ハダルの姿が五十部の姿へと変わる。
「ぎっひひひ! そのまさかなのじゃ」
「チぎゅ」
「チぎゅ」
「「チィィィィぎゅぅぅぅ!」」
「お姉ちゃん! チ―――」
いつの間にか多くのチー牛に囲まれていた2人。
ケンタウルスは両腕両足をチー牛に拘束され身動きが取れなくされていた。