四国にて(其の肆)
戦闘準備に入ったリギルは相手の隙を窺っている。
その時、屋台をしていた1人の淑女が本堂に入ってきた。
(あれはあの時のおばさん! じゃぁ、あの袋に入っているのはケンタウルス!?)
ドサッ
「う……うう……」
「先ほど、宿場町にて捕らえた女子です。ずっと目を付けられていたので捕らえました」
「ぎひ? ほぅ、忍び装束を纏った娘……悪魔教で危険視されておる春夏秋冬美心の私設部隊星々の庭園の者かも知れぬな」
「なんと! それではすぐに殺し……」
「ぎっひひひ。待つのじゃ。そいつもチー牛にしてみるのじゃ」
「娘をチー牛に? チー牛とは男の最底辺ですが……」
「誰がそのようなルールを決めたのじゃ? 女でも最底辺は作らないとねぇ……人はいつでも差別する対象が必要なのじゃ。ぎっひひひ!」
「なんと素晴らしい! では、この娘を……」
ボトン
大量の溶けたチーズの中へケンタウルスを沈める悪魔教徒。
それを見ていたリギルはブチギレ本堂に飛び込む。
「お前らぁぁぁ! 私の妹に何をぉぉぉ!」
「ぎひっ!?」
「五十部殿、ここは私達が……」
「任せたのじゃ!」
一目散へとその場を去る五十部。
ボゴッボゴゴゴ……
本堂内に残った悪魔教徒達は姿が変異していく。
「ギャオオオン! 奥さんって呼ばれたぁぁぁ! 未婚の中年女性に配慮出来ていない! ギャオオオン!」
「ギャオオオン! 良いお母さんになりそうと言われた! それはつまりオスの良い奴隷になりそうと同義ぃぃぃ! ギャオオオン!」
「な……何っ!?」
呟悲壮女へと変異しギャオる悪魔教徒達。
リギルは一瞬戸惑ったが意味の分からないことを叫ぶ敵に情をかける暇などない。
「このっ邪魔よ! 第4境地風陰陽術、鎌鼬!」
バシュッ!
ボトッ
風の陰陽術である鎌鼬を発生させ呟悲壮女を切り刻むリギル。
「ギャオオオン! 一度でもオスと関わった奴は二度と陽の目を見ることを許してはいけない! ギャォォォン!」
「このっ! さっきから意味の分からないことを!」
ザンッ!
バシュッ!
数分後、本堂内は肉片と化した呟悲壮女の残骸と血しぶきにより地獄のような光景へと変わり果てていた。
「くっ、このチーズ……すでに固まって!? ケンタウルス!」
手に持っていた短刀の刃が通らないほど硬質化しているチーズにリギルは焦りを覚える。
(一刻も早くケンタウルスを助けないと酸欠で死んでしまうかも知れない!)
「このっ! このっ! このっ!」
『ケンタウルス、聞こえる! 返事をして! お願い!』
心の声をケンタウルスに届けるリギル。
だが、返事はない。
「こうなったら、もう一度溶かすまで! 第3境地炎陰陽術、火炎!」
ボッ!
ジュワッ……
熱でチーズを溶かすリギル。
層がかなり熱く数分ほど溶かし続けるが未だにケンタウルスの姿は見えない。
「早く早く早く! ケンタウルス、お願いだから返事をして!」
さらに数分後、ケンタウルスの胸が見えた。
忍び衣装は呪物の影響で溶かされ変異の初期段階に至っていた。
「例え悪魔になっても貴女は私の大切な妹! ケンタウルス、お姉ちゃんが助けてあげるからね!」
数十分ほどかかりケンタウルスを助け出すことが出来たが呪物により身体の半分が醜い牛のような姿になっていた。
「ケンタウルス! ケンタウルス!」
「ん……お姉……ちゃん……チ―――」
「ああっ、良かった!」
ケンタウルスを抱き寄せ大粒の涙を流すリギル。
ケンタウルスは状況が飲み込めず辺りをキョロキョロとしていた。
「お姉……ちゃん……アタシは……チ―――」
「ごめんね。でも、絶対に治してみせるわ」
変異したケンタウルスの手を握るリギル。
「えっ……何? この手……それに身体の半分が……い、いやぁぁぁぁ!」
自分の変異した半身を知り驚愕するケンタウルスは泣き叫ぶだけであった。