四国にて(其の壱)
四国にある徳島藩、ここに2人の隊員が潜入調査と称しやって来ていた。
「みんな―――! お遍路2ヶ所目極楽寺でライブしちゃうよ―――!」
「「うぉぉぉ! リギルちゃぁぁぁん!」」
「1曲目はみんなの大好きな―――!」
「「うぉぉぉ! ケンタウルスちゃぁぁぁん!」」
星々の庭園に所属する双子のアイドル。
それが彼女らリギル・ケンタウルスである。
星々の庭園内でも歌と踊りの技術は一級品。
その特技を活かしアイドル活動で全国各地を周り、悪魔に関するものを調査していた。
「「みんな―――ありがと―――! 次は金泉寺で会おうね―――!」」
「「うおぉぉぉ! 愛してるぅぅぅ! リギル・ケンタウルスちゃぁぁぁん!」」
ライブ後、極楽寺の住職に挨拶を済ますと忍び衣装に着替え周囲を探索。
その後、夕餉を食べ就寝。
日中はお遍路をしながらアイドル活動で資金繰り。
彼女達が四国にやって来てからの日課である。
「お姉ちゃん、お遍路しながらアイドル活動って楽しいね」
「そうね。何か悪魔に関する情報は集まった?」
「特に何も……お姉ちゃん、悪魔ってほんとにいるのかなぁ」
ふと疑問を呟くケンタウルス。
その言葉に反応してリギルは彼女の肩を抱き寄せる。
「いなくたっていいのよ。私達はみんなに歌声と笑顔を届けることさえできれば……ね」
「うん!」
その日の夜は極楽寺に泊めてもらい翌日、金泉寺へと向かう。
「みんな―――愛してるぅ♡」
「うぉぉぉ! リギルちゃぁぁぁん!」
「それじゃ早速1曲目! いっくよ―――!」
「うぉぉぉ! ケンタウルスちゃぁぁぁん!」
彼女達のファンが曲に合わせヲタ芸をする。
彼らがペンライトの代わりに振るうのは陰陽術で指先に発生させた火や水。
火がリギルで水がケンタウルスの色を示している。
「みんな―――ありがと―――!」
「明日は大日寺で会おうね―――!」
「「待たね―――リギル・ケンタウルスちゃぁぁぁん!」」
この日のライブも無事終わると握手会をしファン一人一人と交流をする。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼ僕、リギルちゃんのこと……いつも応援しているからね!」
「うふふ、隼人君いつも見に来てくれてありがと」
「ぶひぃ♡」
「ケンタウルスちゃん、お、おで……今日作ってきたんだ! 受け取って!」
「わぁ、可愛い! 私を象ったぬいぐるみ? ありがと―――!」
「ぶひぃ♡」
中には濃いヲタクもいるものの皆が2人のことを真剣に応援していた。
だが、この日は違った。
「チーチーチーぎゅぅぅぅ」
「??? えっと……外国の方……かな?」
その者は目深なフードを被り何やら意味の分からない言葉を呟いている。
「いたっ!」
「チーチーチーぎゅぅぅぅ!」
「離して! 痛い! 痛いって!」
ケンタウルスと握手を交わしたまでは良いが、その後も手を離さず力を込め続ける謎の男。
「お、お前! ケンタウルスちゃんから手を離……」
ケンタウルスを守ろうと次の列に並んでいたファンが謎の男の肩を叩く。
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
ブンッ!
すると謎の男は拳を突き立てファンを殴る。
「痛い! もう、離してよ!」
「おい! あんた、何やってんだ!」
「ケンタウルスちゃんから手を離せって!」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
ファン数人が謎の男を取り囲むもいとも簡単にファン達を殴り飛ばす。
「貴方、いい加減にして! 私の妹に何するの!」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
相手がリギルだろうと構わず殴りかかる謎の男。
だが、幼い頃から訓練を受けてきたリギルは相手の拳を流れるような動きで躱しフードを外す。
「えっ?」
「ば……化け物?」
「チィィィィぎゅぅぅぅ!」
リギルが謎の男のフードを外すとそこにいたのは人間ではなく牛の頭を持つ怪物だった。