最強にて
ホール全体に広がる閃光が徐々に収束していくと、そこには元の姿に戻ったミモザとベガ・プロキオンが意識を失い倒れている。
「ば、馬鹿ナッ! なんてことデース! どうして春夏秋冬美心がここに!?」
「貴様かぁぁぁ! 俺の中華料理を食べられなくしたのはぁぁぁ!」
今から10分前……
ヴェクトリヤハーバーに到着した美心はその様変わりした繁華街に開いた口が塞がらないでいた。
「ギャオオオン! チー牛がずっとこっちを見ている! 私達はセクハラされているぅぅぅ! ギャオオオン!」
「ギャオオオン! よければ僕の竿をしゃぶっていただけませんか?」
「ギャオオオン! 私達は買われたぁぁぁ!」
「「ギャォォォン! 買われたぁぁぁ!」」
「な……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
繁華街を所狭しと彷徨う呟憤怒女と呟憤怒騎士。
普通の人の姿はどこにもなく店の中も大きく荒れ果てている。
「ギャオオオン! オスガキを産んだ女の臭いだ……」
「ギャォォォン! お前のオスガキが女子トイレに入ってきているゥゥゥ!」
「やかましいわぁぁぁぁ!」
ブンッ!
パァァァァン!
美心を発見し集団で襲いかかる呟憤怒女達。
美心の怒りが怒髪天を衝く中、ギャオり攻撃はただただ美心の怒りのボルテージを上昇させるだけである。
結果、数分と持たず繁華街に蔓延る呟憤怒女や呟憤怒騎士は全滅した。
「くっ……俺のチャーハン、俺のラーメン、俺の餃子、俺の酢豚を食わせなくした張本人は誰だぁぁぁ!」
美心は収まらない怒りを発散させるためヴェクトリヤハーバーを彷徨いギャオる呟憤怒女をワンパンで瞬殺していく。
そして、いつの間にかヴェクトリヤピークに到着していた美心はその地下でもギャオる不快な声を聞きつけやって来たのである。
「ま……マスター……」
「許さん! 許さんぞぉぉぉ!」
美心の怒りに満ちた目を見てシリウスとリゲルは察する。
(お義母様はミモザをあのような醜い姿にした悪魔に怒っているんだわ! お義母様は遠い日本の地でも私達のことを見てくれていた……ああっ! お義母様、お義母様、お義母様ぁぁぁ♡)
(ふふっ、なるほどね。マスターにとって僕達の行動はすべて掌の上の出来事に過ぎなかったというわけか。僕の計算もすべて見越した上での今回の登場。マスターも何かお考えがあるはずだ。僕はその考えを予想し待つとしよう)
美心の姿に安堵し思考が0になるシリウスとリゲル。
もはや、彼女達の瞳にはピヨリィが滅ぶ結果しか見えていない。
「くっ、冗談ではないデース! 折角の実験がこれじゃ台無しデース!」
「いつまでも隠れていないで出てこいや! ごらぁぁぁぁ!」
ドゴォォォン!
怒りに我を忘れたかのようにホールの壁を破壊し奥に進む美心。
シリウスとリゲルは互いに見つめあい軽く頷く。
「私がお義母様について行くわ!」
「何を言っているんだい? 君は既にボロボロだったろ。ミモザ達の介抱を頼む。僕が悪魔の最後を見てくるよ」
「何を言ってるの! 私は皆のリーダーなのよ。ここは私が……」
「はぁぁぁ? あんなに泣き崩れていた今の君にリーダーは相応しくないね。良いから、ここで3人の介抱を……」
「「ギャ―――ギャ―――ギャ―――!」」
珍しく喧嘩を始める2人。
これもミモザ達を見捨ててこの場を離れるわけにはいかないという優しさからの結果である。
ガガガッ
「きぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁかぁぁぁ」
「ひぃぃぃ! 自らトンネルを作ってここまで直通で来るなんて非常識デース!」
「俺の八宝菜、俺の回鍋肉、俺の青椒肉絲……俺の、俺の、俺のぉぉぉぉ!」
ブンッ
ズガァァァン!
「ぺぎゃ!」
殴り上げられ天井に顔から埋まるピヨリィ。
「なんだ……呆気ないな。もう、終わりか?」
ガガッ!
「ふ、ふざけるなデース! ミーは野蛮な戦いはしないのデース! それも負けると分かっている戦いになど……」
ポイッ
「!」
カッ!
咄嗟に閃光グレネードを投げ美心の視界を奪うピヨリィは緊急脱出用出口から外に飛び出る。