辛国にて(其の十)
「ケラケラケラ、ここはミーの研究所デース。ミモザのペットが勝手に出歩いて……これは契約違反デスネェ」
呪物の気持ちの悪さに見入ってしまい、すぐに身を隠すことができなかったシリウス達はいとも簡単にピヨリィに見つかってしまう。
「くっ、しまった!」
「これはもうやるしかないようだね」
「ケラケラケラ! ここにある呪物はまだ生きていマース。封印した瓶が割れたりすると寄生されるため暴れるのは危険デスヨ」
「確かに……悪魔祓いが悪魔になってしまっては元も子もないでござる」
「理解の早い子は大好きデース。少し付き合うデスヨ。春夏秋冬美心の娘達」
ピヨリィは警戒することなくシリウスに背後を見せ歩き始める。
「付いて来いと?」
「そういうことデース」
皆が互いに目を合わせ頷くとピヨリィの後を付いて歩く。
長い廊下の両端にもホルマリン漬けされた呪物や呟憤怒女の残念になった脳が置かれている。
「脳にシワがない……」
「ケラケラケラ、呟憤怒女は獣以下の感情だけで動く生き物デース。考えることなくギャオるのも脳を使う必要がないため。脳を使わないからシワが減り知能が低下する。知能が低下すると更に感情だけでギャオる……悪循環の完成デース」
「ふふっ、なるほど。あの身から溢れ出す残念なオーラはそのためだってことか」
「その悪循環を断つのに難儀しましタ。そして、完成したのが……」
廊下を進むと脳に気持ち悪いミミズのようなものが巣食っているホルマリン漬けされた瓶が目に入る。
「ミーが作り出した改良型呟憤怒女。その名も呟悲壮女Type01。呪物とは実に興味深いものデース。寄生生物であるコレは寄生した宿主の姿までも大きく変化させマース。その変異した姿はまるで悪魔そのものデース」
廊下を更に進むと呟悲壮女の解剖体がホルマリン漬けされた瓶が並ぶ。
肉体の変化だけでなく臓器も変化しているのが見て取れる。
「元は人間だったものが……これではまるで完全な別の生命体だ」
「これが……悪魔の正体?」
「ケラケラケラ、悪魔教の教祖ミストレス様は呪物を使った信者達の洗脳で大成したこの世に1人しかいない極悪人デース。ミーはその可能性を広げるため錬金術で呪物を改良している協力者に過ぎまセン」
「極悪人に協力している時点で貴女も極悪人だわ。平和な日々を守るため私達は貴女をここで倒す!」
「……はぁ、やはりこうなりマスカ。面倒デスネェ」
廊下を進んだ先は何も無いホールのような場所だった。
「ここは実験体の稼働テストをする場所デース。ここでなら大切な呪物を壊すこと無く戦えマース」
「そうね。貴女も初めから戦うつもりだった……と」
シュッ!
シリウスが先制攻撃としてピヨリィに急接近し手に持っていた刀で居合斬りをする。
ブォン
ピヨリィを映し出していた映像が消え声だけが聞こえる。
「なっ!?」
「こ、これは……」
「ケラケラケラ! 引っかかりマシタ―――!」
「マスターが書かれた叡智の書に似たものがあったぞ。確かホログラム……」
「オゥ、知っている人物を初めて見ましタ。流石は春夏秋冬美心の娘デース」
ガチャン
ガガッ
ホールの奥にある鉄扉が開く。
「ケラケラケラ! さぁ、実験開始デース! モルモットちゃん達、すぐにリタイヤしないでくだサーイ!」
ひたっひたひた……
足を引きずり1人の少女が鉄扉の向こう側からこちらにやってくる。
その顔は見慣れた者でシリウス達は血相を変え少女に近付く。
「「ミモザ!?」」
「ごめんなさいネ。貴女達を守れ……うっ……ううっ!」
ミモザの身体が異常なほど熱くなっており身体から蒸気が上がっている。
「貴様ぁ、ミモザに何をしたぁぁぁ!?」
「モチロン実験体に使わせてもらっただけデース。悪魔との契約を守れなかった者に温情など与えまセーン」
「うっ……ううう……うわぁぁぁぁ!」