辛国にて(其の漆)
「ギャオオオン! ギャオオオン!」
次々に呟悲壮女へと変異させられていく新人隊員達。
30名近くいたシリウスの部隊はほぼ壊滅状態となり、残るはシリウス・リゲル・プロキオン・ベガ・アンセルの5名だけとなった。
ヴェクトリヤハーバーは既に呟憤怒女・呟憤怒騎士の巣窟となり外へ出ることさえ命がけの状態となっていた。
5人は貨物船を放棄し繁華街にあった空き倉庫の屋根裏部屋を新たな拠点としていた。
「くっ、さすが魔都と言われることだけはあるでござるな」
「うっ、ううっ……ジャッバ、フーユェー、ジーシュイ。他のみんなも悪魔へと姿を変えてしまいましたですます」
「レグルス達が見つからないのももしかして……」
「シリウス、確実に手紙は送ったんだよね?」
「え? ええ、プロキオンに港まで行ってもらって……」
「ああ、拙者が確かに受け取り協力者に渡したでござるよ」
リゲルは目を閉じ心の中でカペラの人格と話す。
『カペラ様、あのレグルスが未だに来ていないなんてこと無いと思うんだ』
『来ていないではなく来られない状況にあると考えを変えたほうが良いでありんす』
「……レグルス達はもしかして来られない状況じゃないのか?」
「えっ?」
「来られない状況って……もしや!」
「ああ、僕も同じことを考えたよ。京都も悪魔の奴らによって壊滅状態に追い込まれているのではないのかってね」
「「!!!」」
「よく考えてみれば僕達がコンコンへやって来て間もなく悪魔の襲撃に遭った。僕達は既に目を付けられていると考えたほうが良い」
「そう言われると確かに……」
「えっ? えっ? えっ? だったら、ここも危険なんじゃ……」
「ベガ、慌てふためいてもどうしようもないですます」
「ああ、落ち着くでござる。だが、レグルス達が来ていないとなると……」
シリウスは歯を噛み締め口を開く。
「……私達だけでやるしかないようね」
「わぁぁぁん、そんなの無理だよぉ!」
「わたくしもベガと同じですます! 5人だけじゃ無謀ですます!」
「まだ奴らの拠点も分かっていない状況である以上、下手に出るのは危険でござる」
「京都にはお義母様がいる。もう少し待てば来てくれるさ、シリウス。今はまだ手が離せない状況なんだと僕は思う」
「いつまで待てばいいの? 食料は捨てられた露店に沢山あるから待つ時間は十分にあるわ。けれど、それもいずれ限界が来る……」
皆、黙り込み静寂に包まれる。
遠くで呟憤怒女達の鳴き声だけが聞こえる。
「ギャオオオンと叫び、それに続いて意味の分からぬ言葉……奴らは何を伝えたいでござる?」
「言葉に意味などないよ。ギャオるとはお気持ち表明。奴らはただ吠えてるだけだ」
「「………………」」
コンコン
ガタッ……
倉庫の扉を開ける音が響く。
皆が一同に目線を合わせると頷きシリウスだけが屋根裏部屋からゆっくりと出て下を見る。
「ケラケラケラ! 星々の庭園の皆サン、お初にお目にかかりマース」
「誰?」
「しっ、静かに……シリウスが応対する。僕達は姿を隠しているんだ」
「私がここにいることはやはりバレバレのようね?」
「もちのろんデース、シリウスサン。それとまだ屋根裏にいるリゲルサンにプロキオンサン・ベガサン」
「名前まで知られているなんて……」
「でも、わたくしの名前だけ呼ばれていないですます」
「大人しく投降するデース。さもないと皆サンもギャオギャオ五月蝿いだけの残念な化け物のお仲間入りデース」
「「ギャオオオン!」」
「ギャオオオン! 男児ママが性犯罪の裁判員をすると量刑を軽くしやがるぅぅぅ! ギャオオオン!」
「ケラケラケラ! こいつら達も早く来いって言ってマース」
「くっ……みんな降りてきて」
いつの間にか倉庫の周囲に大量の呟憤怒女や呟憤怒騎士の姿。
とてもではないが逃げられる状況では無い。