辛国にて(其の陸)
ミモザはヴェクトリヤハーバーへと赴くとシリウス達の拠点である貨物船へと向かう。
(ピヨリィ様には未だに疑われているネ。ま、それも想定内ネ。敵対している星々の庭園出身の吾輩が今は何を言っても無駄ネ。疑いを少しでも晴らすため新人隊員共だけは駆逐させてもらうネ)
顔馴染みであるシリウス・リゲル・ベガ・プロキオン以外には興味を示さない彼女は貨物船から再び調査へと出ていく隊員達を見る。
(今度の調査ではシリウスのバディはプロキオンみたいネ)
続々とツーマンセルでヴェクトリヤハーバーへと向かう隊員達。
ミモザはその様子を近くの倉庫から覗き見る。
(ベガは新人隊員とバディを組んだネ。つまり、リゲルはカペラと? いや、カペラは調査に出ないと考えたほうが良いネ。ヒーラーである彼女まで動く時は吾輩達、悪魔教の拠点を発見された時と考えるべきネ)
「一刻も早く小夜達をもとに戻さねぇと!」
「急いでしまってすみませぇぇぇん。でも、でも小夜達は友達なんですぅ」
ミモザが隠れている近くを通るジャッバとフーユェー。
2人の会話を偶然、耳にしたミモザは2人の後を追うことにした。
(なるほど、呟悲壮女と化した隊員を助けるための手がかりを探しに……これは丁度良いネ。まずはこの2人を叩き潰すネ)
ジャッバとフーユェーが繁華街へ入ったところで持っていたジュラルミンケースの中から一本の注射器を取り出す。
プス
通行人の男性に針を刺し液体を体内へ注ぐミモザ。
「おぐっ! うぉぉぉ……うぉぉぉ……」
「おい、どうした? 顔色が……銀色? へっ?」
「ギャォォォン!」
ブシュゥゥゥ!
注射された男性は急速に身体を変異させていき肌色はまるで中世騎士のような甲冑を着ているかの如く銀色に変わっていく。
右腕は剣の形に、左腕は盾の形に、頭も甲冑を着ているような形に変異する。
隣を歩いていた友人の胴体を軽々と貫き殺すと周囲の者を片っ端から斬り始める。
(ふふふ、呟憤怒騎士。呟憤怒女のような性悪女に尻尾を振るクソ野郎ネ。だが、パワーは男性だけあって呟憤怒女の20倍。吾輩も危害を加えられる前に距離を取るネ)
「ギャォォォン! 女子スポーツに俺達を出場させろぉぉぉ! ギャォォォン!」
「敵!?」
「はわわわ、急いでいるんですぅ。すみませんが一瞬で蹴散らせていただきますぅ」
フーユェーは短刀を鞘から抜き出すと呟憤怒騎士に向かって斬りかかる。
ジャッバも彼女の後を追うかのように短刀を抜き出しフーユェーと同じ箇所に斬りかかる。
(ふむ、新人隊員共は短刀を使うみたいネ。ならば、おそらく彼女らを指南したのはシリウスと推測されるネ。だが、呟憤怒騎士に斬撃は無駄ネ)
バリィィィン!
「なっ!? 短刀が!」
「すみませぇぇん、折れてしまいましたぁ」
「ギャォォォン! そもそも男が優遇されているから女性枠が出来たんだ! ギャォォォン!」
ジャッバとフーユェーが着地した隙を逃すことなく呟憤怒騎士の右手が2人を襲う。
バシュッ
「きゃあ!」
「フーユェー!? このっ……悪魔がぁ!」
フーユェーの脇腹をかすめ斬られたことに激昂するジャッバは素手で呟憤怒騎士に殴りかかる。
だが、甲冑のような皮膚が打撃を通すことはなく、いとも簡単に反撃されてしまう。
「つ、強い……フーユェー無事か?」
「ぎゃ……ぎゃぉぉぉ……」
「フーユェー?」
(ふふふ、呟憤怒騎士も呟憤怒女と同じネ。彼奴らによって与えられた傷から呪物が侵入し身体を乗っ取るネ。しかも、女性に関しては高レベルの呟悲壮女へと変異するネ)
「ギャォォォン! 私は産まない! 産んだ女はアタオカぁぁぁ! よって私は正しい! はい、論破ぁぁぁ! ギャオオオン!」
「ギャォォォン! よければ俺の汚棒をしゃぶっていただけませんか?」
「ギャォォォン! 私達は買われたぁぁぁ! ギャォォォン!」
性悪女であろうとあわよくばを狙っている呟憤怒騎士は近くに呟憤怒女がいることで共鳴する。
その共鳴とは竿が勃起し一緒にギャオること。
腰を振り呟悲壮女へと変異したフーユェーの叫び声に合わせ上空に向かって吠え続ける。
「くっ、なんてことだ! フーユェーまで……俺は……俺は……」
「「ギャオオオン!」」
呟憤怒騎士とフーユェーが同時にジャッバに襲いかかる。
彼女は抵抗する力も残っていなかった。
大切な友人が残念な性悪女へと変貌したことに戦う気力さえ残っていない。
「俺もそっちに行くよ……フーユェー」
「ギャオオオン!」
噛み付かれたジャッバも呟憤怒女へと変異し周囲の逃げ惑う通行人を攻撃し始めた。
(なんて弱さネ。折角、シリウスが鍛えてくれたというのにこの低レベル。やはり、新人隊員は駄目ネ。このまま他の新人隊員もすべて呟憤怒女へと変えるネ)