辛国にて(其の肆)
シリウスが密航してきた貨物船の近くまで接近するミモザ。
ヴェクトリヤハーバー内で調査任務に出ていた隊員達が帰ってくる。
(うっかりしていたネ。シリウスがエゲレスで仲間にしたという新隊員のデータを得ていないネ。約30名ほど……ふむ、あの筋肉の付き方や動きから大した脅威にはなりそうもないネ。データを得る必要性を感じないネ。それよりもカペラ。彼女は星々の庭園で最弱と評価されているが吾輩は知っているネ。能ある鷹は爪を隠す。そう、彼女は実力を隠していると。その実力は恐らくシリウスよりも上であることは確実。どうにかして船外へ出すことは……そうネ、呟悲壮女を導入してみるネ)
ミモザは一度、港から離れ繁華街で適当な通行人の女性に呟悲壮女化促進剤を注射する。
「ア……あァあァ……いやぁぁぁぁ!」
「なんだ?」
「母ちゃん?」
「ギャォォォ! オスガキに見られたァァァ! 視線でレイプされたぁぁぁ! ギャオオオン!」
ガシッ!
「痛い! 痛い! 母ちゃん、何するの!?」
「ギャオオオ……見つハラ成敗ぃぃぃ」
グシャ!
注射された女性は涙を流しながら意味不明な言葉を吐き続け自分の子どもの顔を片手で軽々と掴み上げ頭を握り潰す。
「う、うわぁぁぁ! 人殺しぃぃぃ!」
再び繁華街はパニックになり人々は逃げ惑う。
(呟悲壮女は呟憤怒女の弱点を克服したアップデート版ネ。弱点とは知能の低下。怒りのあまり命令を聞くことなく叫び暴れまわる呟憤怒女と違い、呟悲壮女はある程度の知能が残っているのが特徴ネ。だから……)
変異した女性に近づき耳元に囁くミモザ。
「港に行ってそこにいる男を殺しまくるネ」
「ギャオオオン! ギャォォォン! 漁師オスに捕まった女は〆鯖の如く身体を弄ばれるぅぅぅ! ギャオオオン!」
叫びながら港へ向かう呟悲壮女。
ミモザはもう2~3体、通行人女性を変異させ港へ向かわせた。
「こいつら、悪魔ですます!」
「みんな、絶対に噛み付かれては駄目よ! 距離を取って戦いなさい!」
「「了解!」」
既に星々の庭園との戦闘は始まり港は混乱していた。
船に暮らす人々は逃げ惑い、ある人は船を出し海上へ、またある人は船が壊され泳ぎ陸へと上がる。
呟悲壮女はそのような人々を狙い襲い殺していく。
男性は酷い殺され方をされ、女性は新たな呟悲壮女へと変異する。
「ギャオオオン! ギャォォォン! 女だけの街はいつ出来るのぉぉぉ!? ギャォォォン!」
「くっ、相変わらず何を言っているですます!?」
「こいつら、俺たちを無視して一般人ばかりに攻撃してきやがる!」
(呟悲壮女は自分より強い者には集団で牙を向け、自身が危険になると一目散に逃げるという特徴を持つネ。けれど、自分より弱い者には個々で襲いその命を奪っていく。エゲレスで新たに加わった隊員達も呟悲壮女以上の戦闘力があるということがこれでわかるネ)
周囲に一般人がいなくなったところでシリウス達30名弱の星々の庭園と約100体の呟悲壮女だけが港に残った。
「はぁはぁはぁ……」
「ギャォォォ……」
2つの集団が睨みを利かす。
波の音だけが静寂な空間に流れてくる。
(カペラはまだ出てこないネ。怪我をしている隊員も少なくないというのに……もしかして、自身が出るまでもないと言うことネ?)
先に動いたのは呟悲壮女達。
先頭に立つ1体がギャオると後ろに隊列を組む者達も天を仰ぎギャオる。
「ギャオオオン! ギャオオオン! 日本は女性武士も女性商人も少なすぎるぅぅぅ!」
「ギャオオオン! もっと増やせぇぇぇ! ギャオオオン!」
「ギャオオオン! でも、私達はしたくないけどぉぉぉ! ギャオオオン!」
一斉に動き出し狙いを付けたのはモブ隊員の1人。
彼女は足に怪我を負い動きが鈍っていた。
「小夜子!」
「こいつら、弱い奴を集中的に!」
100体もの呟悲壮女が他の隊員には一切構わず小夜子にのみ襲いかかる。
「やっ! いやぁぁぁ!」
「小夜子、下がれ!」
あまりにも数の差で不利なシリウス達。
小夜子を庇い続けるにも徐々に押されていき彼女の全身が呟悲壮女に噛み付かれていく。