辛国にて(其の弐)
伏魔殿、それは悪魔の巣窟を意味する。
ヴィクトリィハーバーで情報を集めまわるシリウス達に最初の悪魔が忍び寄る。
「い、いやぁぁぁぁ!」
突如、悲鳴を上げる街の女性。
それも1人ではなく数人。
ミモザがまるで通り魔のように通行人に呟憤怒女化促進剤を注射していった結果である。
(シリウス、貴女が春夏秋冬邸を飛び出してから長い年月が経ったネ。おそらく戦闘能力も大きく向上していることネ。まずはデータを取らせていただくネ。呟憤怒女の奇怪な行動にどう対処するのか見せてもらうネ)
悲鳴を上げた女性が血の涙を流し姿を変形させていく。
額には恨の一文字。
姿はまるで猪と人間をかけ合わせたような化け物と変わり果てる。
「ギャオオオン! ギャォォォン! 結婚は人身売買! オスが女性を金で買っているぅぅぅ!」
「う、うわぁぁぁ! 化け物だ!」
「逃げろ―――!」
悲鳴のする方向を見るシリウスとリゲル。
人々が呟憤怒女の猪突猛進で空高く吹き飛ばされいる。
「悲鳴?」
「敵よ。まさか、こんな大勢がいる中で仕掛けてくるなんて!」
「ギャオオオン! ギャォォォン! 女性の内9割は痴漢されている! その内、半数は男児から! ギャオオオン!」
シリウスとリゲルに突撃する呟憤怒女。
だが、露店の屋根に飛び上がり敵の攻撃を容易く躱した。
「こいつらは!」
「額に恨の一文字。あの時の攻撃に似ているわ!」
「シリウス、また噛み付かれたら感染するかもしれない! 接近戦は駄目だ!」
「ええ、カペラの指輪のおかげで海外でも陰陽術が使えるし問題無いわ。同じ失敗はしない! 炎!」
ボゥ!
テニスボール程度の火球が呟憤怒女の一体に直撃する。
テカテカと脂ぎった肌のおかげで炎が全身に周り大きく炎上した。
(ほぅ、呟憤怒女の弱点を的確に見定め多くの観衆がいる中でも躊躇わず陰陽術を使うかネ。シリウス、その胆力は認めてあげるネ。でも、その攻撃は失策ネ)
「ギャオオオン! ギャォォォン!」
大炎上した呟憤怒女が暴れまわり火が露店や通行人に飛び火していく。
「シリウス、火属性は駄目だ。こんな人が入り乱れる場所では! 水!」
バシャァァァン!
リゲルが燃え上がる人々や露店に水をかぶせ火を消していく。
「ギャオオオン! 出産は裸で股開いて孕むまでオスに汚棒でシコられ汚液を排泄される最悪な行為ぃぃぃ! ギャォォォン!」
「一体、何を言っているんだ!? この化け物は!」
「うわぁぁぁ!」
「キャァァァ……ア……ア……アァ……ギャオオオン!」
街を行き交う人々は混乱し騒然とする。
呟憤怒女に傷付けられた女性は変異し呟憤怒女化する。
敵の数は増える一方であった。
「くっ、これ以上一般人を巻き込むわけには!」
「シリウス、一度撤退するしかない!」
「でも……悪魔達を放っておくわけには!」
(ふむ、この場はリゲルの判断が正しいネ。リゲルの冷静な判断能力も向上が見られるネ。それにしても相変わらず正義を振りかざすことが大好きなシリウス。このような状況下で貴女は躊躇っていたネ。そこはまったく成長していないネ)
「ギャオオオン! 3歳児のオスガキを睨みつけたら大人しくなりやがった! それはつまり私達にもオスガキのわからせは可能! ギャォォォン!」
「くっ! ゴメン……なさい!」
シリウスとリゲルはその場を離れていった。
大きくフードを目深に被りミモザは次の隊員の居場所に向かう。
(次はベガとプロキオンのデータを取るネ。あの2人はおつむがどうにも弱いネ。でもパワーはあるネ。特にベガの怪力。16歳になった彼女の怪力はどれほどなのか見ものネ)