辛国にて(其の壱)
モンドンから密航してはや3ヶ月。
辛国、コンコンに辿り着いたシリウス一行は呆然と立ち尽くしていた。
「ここが……魔都コンコン」
「酷い……」
「「うぅぅ……あ―――」」
彼女らの目に映るのは街を徘徊するゾン兵衛と化した生きる屍の大群。
腐敗臭が充満し息をするのも辛い。
「うぷっ……お、おぇぇぇ」
「このままではまずいわね。隊員の士気に関わるわ」
「致し方があるまい。一度、撤退するでござる」
港から再び貨物船に乗り込むシリウス達。
貨物船の従業員達はゾン兵衛に襲われ、今やこの貨物船にはシリウス達しか乗船していない。
「げほっげほっ……うぷっ!」
「いくら何でも衛生環境が劣悪すぎる。こんなところにレグルス達は来ていると思うかい?」
「いるわけがないよ―――。ここにいたらどんな病気もらっちゃうか……」
「じゃ、じゃあどこにいるって言うのよ!?」
コンコンの地図を広げ現在地を再確認する隊員達。
だが、広大すぎて詳しい現在地は分かっていないのが現状である。
「……みんな、おかしいと思わないかい? エゲレスの植民地となっているにしてはここは地獄すぎる」
「たしかに地獄という表現が適切ですます」
「モンドンと比べると確かに……あっちはあっちで瘴気が酷かったけれど……」
「どちらも悪魔の巣窟の様相でござるな」
「……優先すべきものを考えてみるかい?」
リゲルが皆に問いかけるとここで行う最優先事項について皆が意見を述べる。
「レグルス達を見つけることでござる」
「わちもそう思う」
「でも、この辺りにはいないのは確実ね」
「悪魔ではなく人間がいるところに向かうべきですます」
「レグルスさん達のことは後回しにしないと俺達もこんなところじゃ長生きできねぇぜ」
「残りの食料は?」
「まだ、船内にはそれなりにある。節約すれば1ヶ月以上は持つと思うわ」
リゲルは皆の意見を聞き話をまとめる。
「まずは詳しい現在地だ。地名を聞くにしても人が居なければどうしようもない」
「そうね」
「レグルス達も潜伏するとなれば人のいる街でござるな」
「うん。だから、この船を拠点としてアンセルの言った通り人のいるところへ向かおう」
「船に乗って行くということ?」
「コンコンは広い。港ならまだ他にもあるだろう?」
シリウスはリゲルの意見に賛同し皆に告げた。
貨物船の操縦は密航中にジャッバが操舵員の仕草を観察し覚えている。
目指すは人のいる街。
「うっしゃあ、俺に任せておけ!」
小島も多いコンコンで大型船を操舵し港を探すシリウス一行。
翌日、辿り着いたのはコンコン島とキュウロンの間にある巨大な市場。
世界でも有数の港湾都市ヴェクトリヤハーバー。
そこは汚染されている様子はなく多くの人が闊歩していた。
「わぁ、街だ―――。しっかりとした街だ―――」
「ベガ、あまりはしゃぐと目立ってしまうでござる」
貨物船を停泊させ街に繰り出すシリウス達。
集まって行動するには大人数のためツーマンセルでチームを組み情報集めに奔走する。
そしてヴェクトリヤピークから望遠鏡でシリウス達を見る1人の女性。
「ケラケラケラ! 草津以来の邂逅デスネ。星々の庭園の皆サン」
「ピヨリィ様、では計画を先に進めますか?」
ピヨリィに付き従うもう1人の女性は彼女の助手である。
名前はミモザ。
錬金術師を目指し5年前にピヨリィに弟子入りした。
「また失敗してリャンタオ島の二の舞を踏むのは懲り懲りデース。まずは街の女性達を呟憤怒女化させ奴らの気を引きマース」
「了解致しました」
「古巣が気になりマスカ? 星々の庭園が顔バレしているのも貴女のお陰デース」
「いいえ、あそこに吾輩の居場所はありません。これからの時代は日本人しか使えない陰陽術より万人が使える錬金術。その力を示すためシリウス達は良い標的となります」
「それを聞いて安心シマシタ。では、始めまショ―――! 伏魔殿を!」