伏見にて
京都、伏見、ここにわずか1代で巨万の富を築き上げた春夏秋冬財閥の屋敷がある。
だが、ひょんなことからムジカの超打撃ハンマーにて全壊。
その反省としてレグルス、スピカ、デネボラ、カノープス、ムジカの5名は工事現場に駆り出されていた。
「まったく! 壊したのはムジカなのですからムジカだけが責任を取るべきですわ。なんで妾がこのような力仕事を……」
「まぁ、そう言うな。元はと言えばレグルス、お前が悪魔に1人で立ち向かったのが原因なのだぞ」
「そ、それは……ええ、そうですわね。反省しておりますわ」
黙々と春夏秋冬邸の基礎工事をする2人。
新たな屋敷となる間取り図は美心の知り合いの大工に書いてもらい、その人をリーダーとして5人は工事に参加していた。
「はっはっはっは! いやぁ、流石は美心さんの娘さん達だ。陰陽術の使いが上手い。これなら工期も短縮できよう」
「ふっふ―――ん、力仕事なら任せるの! ムジカがここでは最強なの!」
「ムジカ、無駄口叩いていないで早く木材持ってくるにゃ」
「みんな―――、お昼ご飯よ。今日はあっしが得意な……」
「わぁ、クロワッサンだ」
「デネボラ……なんでこんな時に作り方が面倒なものを?」
「ふふふ、いつもなら27層なのを今回は80層にしてみたの! だから、もちもち感がいつにも増してるのよ! ほら早く食べてみて!」
「明らかに工事をサボる口実作りだな」
「まったく、ここにコペルニクスがいたら、貴女断罪されていますわよ?」
「美味しいの―――。ほら、カノちゃん、あ―――ん」
「パンくらい1人で食べれるにゃ」
バターをたっぷりと使ったクロワッサンの香りが優しく漂う。
工事現場で働いている大工の方々にも配るデネボラを放ってクロワッサンを頬張りながら談笑する4人。
「愛想を振りまくって……今までのサボりを帳消しにする気だにゃ」
「そうね、星々の庭園は一蓮托生。デネボラには後でみっちりと働いてもらうとしましょう」
「ま、まぁ……そうカッカするなって。カノープスもレグルスも……」
「あっという間に食べちゃったの。ムジカ、まだまだ食べたりないの!」
なんだかんだと言って仲の良い者同士で楽しくやっているその時だった。
「キャァァァ」
デネボラの悲鳴が突如として工事現場に響き渡る。
その声に驚きレグルス達は視線をデネボラの声がした方向に向けた。
「ごっつぁんです!」
デネボラが手に持っていたバスケットの中が空になっていた。
その横にはまるで力士のような巨体と両手に掴むクロワッサン。
「アルデバラン!? 帰ってきたんですの?」
「ムシャムシャ……琉球での調査任務を記した報告書でごわすよ、レグルス」
そう言うとレグルスに一つの巻物を渡す。
彼女の名はアルデバラン。
星々の庭園の中では最も肉付きの良い女性力士である。
彼女は美味しいものには目がない。
バターの香りに釣られ、ついデネボラから奪ってしまったのが今回の経緯である。
「ハハッ、変わりが無いようで安心したぞアルデバラン」
「アルちゃんなの! カノちゃんが大好きなアルちゃんのぷよぷよお腹なの!」
「にゃ!? にゃろは良い枕代わりになるから気に入っているだけにゃ!」
「はっはっはっ! ムジカも帰っていたでごわすか。久しぶりに腕相撲でもどうでごわすか? 調査任務で力を振るうことがなく鍛錬不足だったでごわすからなぁ」
「モチのロンなの! ムジカ、次は負けないの!」
突然、腕相撲を始めようとするアルデバランとムジカ。
腕力では星々の庭園内でずば抜けている2人が行うとなると周囲もただでは済まない。
幼少期にも2人が腕相撲で春夏秋冬邸を半壊させたことがある。
すぐに止めさせるレグルスの声も届かず2人は腕相撲を始めてしまった。
「ふんすっ!」
「おりゃぁなの!」
ズンッ!
ズガァァァン!
バキィ!
数分後……。
「あ……あ……あ……ああ……」
「にゃぁぁぁ、せっかく建てた支柱が……」
呆然とするレグルスとカノープス。
基礎工事も終わりかけの中、春夏秋冬邸の土台となる部分が半壊してしまう。
「はぁ、やっぱりこうなってしまったか……」
「マ!? ちょ……あっしら頑張ったのに……」
コンクリートはひび割れ鉄筋は折れ曲がり一からやり直すことは必須になるのだった。
工期の延長2週間、費用の追加600万。
シリウスが書いた手紙はまだ届いていない。