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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社再結成編1
178/263

湯釜にて(其の参)

「アルタイル!? お前……何を……」


 一歩、間に合わずやって来た美心はアルタイルの変わり果てた姿に愕然とする。


「ギャオオオン! 子持ち女だ! 子持ち女の臭いがする!」


「ギャォォォン! 羨ましい! 恨めしい! 飯炊き肉便器ぃぃぃ!」


「うるせぇぇぇ! この負け女共がぁぁぁ!」


 カッ!


 全身から強烈な光を放つ美心。

 その光に観光客達に寄生した呪物は一瞬で蒸発していく。


「あ、あら? 私、どうして?」


「いつの間にこんなところに?」


 多くの観光客は意識を取り戻し、いそいそと白根山を下山していく。


「ずらぁぁぁ! クソオスジャップは海外オスより品質最低!」


 だが、ロールがタンクであるアルタイルに寄生した呪物は十分に浄化できず、彼女は未だ妄想に取り込まれた状態で美心に襲いかかる。


「アルタイル……この馬鹿たれぇぇぇ!」


 バチィィィン!


 美心の渾身のビンタが炸裂する。

 だが、既に体験済みの痛みは無効化される特殊体質故、アルタイルは動じることなく美心に噛みつく。


「くっ! アルタイル……やるしか……無いのかっ!」


(おっ、なんか、このシチュエーション良い! 仲間が敵に操られ俺に戦いを挑む。だが、仲間を傷付けるわけにもいかず何も出来ない俺! んほぉ、良い! なんか良いぞ、これ!)


 今の状況を気に入った美心のごっこ遊び好きの癖が出てしまった。

 彼女は湯釜にゆっくりと沈んでいくレイドボスのことなどすっかり忘れ、アルタイルとタイマンでバトることに全力を注ぐ。


「ギャオオオン!」


「いい加減に目を覚まし……やがれぇぇぇ!」


 ドゴッ!

 バキッ!

 ガガガッ!


 打撃をまったく受け付けないアルタイルと良い勝負をする美心。

 すっかり日も暮れ闇夜の中、2人の攻防は続く。


「ギャオオオン! 命より女性への配慮をするずらぁぁぁ!」


 アルタイルの攻撃を避けながら美心は考える。

 攻撃を無効化されるアルタイルの体質に守られ彼女に寄生した呪物を完全に取り除くことが難しい。

 しかも明かりのない山深く、近くには湯釜へと真っ逆さまに落ちてしまう崖がある。

 さらに所々、硫化水素が吹き出す噴出孔もある。

 いくらチートの美心とはいえ硫化水素の毒ガスの中に入ってしまえば動きが鈍り、数十分後にはあの世へ逝ってしまう。


「くっ! この暗闇の中、かつての仲間とのバトル! しかも足場が非常に悪く付近には自然のトラップがてんこ盛り! くぅぅぅ! 良い! 良いぞ、これは! オラァ、アルタイル臆してないでかかってこいやぁ!」


「ギャオオオン! 男子トイレを狭くして女子トイレを拡充しろ! ギャォォォン!」


 アルタイルの無駄な咆哮で相手の位置をしっかりと見定める美心。

 背後から噛みつこうと襲いかかるアルタイルを左ストレートでぶっとばす。


「ぶごぉ!」


 彼女にダメージは無いが衝撃波で吹き飛ばされる。


 ガッ!


「ギャオオオン!」


「しまっ! アルタイル!」


 うっかり勢いがつきすぎたため思ったより吹き飛び湯釜へと落ちていくアルタイル。

 

 バシャァァァン!


「ギャオオオン! ギャオオオン! ぎゃぁぁぁぁ! ぉぉぉぉん!」


 熱湯の硫酸の中で暴れまわるアルタイル。

 皮膚は大きくただれ重度の火傷を負っていく。

 アルタイルの意図していたことが結果として起きてしまったのだ。


「あちっ! こら、暴れるなアルタイル! 助けてやるから! いででで!」

 

 空中浮遊のできる美心はゆっくりと湯釜へと降りていきアルタイルの手を掴む。

 未だ呟憤怒女つゐふぇみの呪縛の中にいるアルタイルは手を掴んだ美心の腕に噛みつく。

 その痛みに耐え引き上げるとアルタイルは重度の火傷を負い皮膚がひどくただれていた。

 ダメージの負った肉体から美心に取り付こうと呪物が美心に侵食していく。


「くっくくく! やっと見せやがったな! この寄生蛆虫が!」


 バシュッ!


 美心の光属性陰陽術で蒸発する呪物。


「ふぅ、危なかった―――。でも、これで万事解決だな」


 相変わらず湯釜の底へと沈んでいくレイドボスの爺さんのことなど忘れている美心であった。

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