悲しみにて
カペラの想定通り自身の命を犠牲にしてリゲルは息を吹き返す。
そして、皆が意識を失ったまま数刻が経った。
「う……ううん……あら? 私は……」
「拙者らは何を……」
先に目を覚ましたのはシリウスとプロキオン。
近くには意識を失った隊員達の姿。
「起きて。みんな、ほら」
シリウスは倒れている皆の目を覚ます。
「う……ううん……あれ? 僕は……」
「リゲル、良かった」
「ふわぁぁぁ。わち、意識を失って……ああっ!」
突如、大きな声を上げるベガに注視する隊員のみんな。
「敵は! リゲルが危ない……あれ?」
「僕ならここに居るけど……えっと……あれ? 何をしていたのか思い出せない」
「森の中へパープルを追い込んだはずじゃ? わちも一緒に入って……それから……それから……そうだ、カペラが来るまで戦っていたんだよ!」
「だとするとカペラはまだ森の中で!?」
「急いで助けに……ってカペラならそこに居るじゃない」
両手を合掌させ立ったまま動かないカペラ。
立ったまま息途絶えていることを皆はまだ知らない。
「カペラ、カペラ! 敵はどこに行ったでござるか?」
「カペラ?」
当然ながら何も答えないカペラ。
「カペラ、どうしたの?」
シリウスが近寄る。
「えっ?」
カペラは目を閉じたまま微動だにしない。
その姿に違和感を感じるシリウス。
「カペラ、敵はどこかと答えるでござ……」
ドサッ
次いでやって来たプロキオンがカペラの肩を叩き尋ねるとカペラは倒れてしまった。
「「カペラ!」」
「ど、どうしたんだい? ね、ねぇ……カペラ……えっ? 息を……して……いない……」
皆の顔が一斉に青ざめる。
胸に耳を当て心音を確認するリゲル。
「ね、ねぇ……カペラ……嘘だよね? 嘘だと言ってよ! カペラ様ぁぁぁ!」
彼女はカペラの胸元で泣き叫ぶ。
それに釣られシリウスやプロキオン達も涙を流す。
「何故? カペラが……カペラ……うっうぅぅ……」
「最弱のカペラだけで悪魔であるパープルと相対せるはずがない……おそらく……即死……」
「違うもん! カペラしゃまは最強だもん! この前だって悪魔を一撃で屠って……びぇぇぇん!」
暫くした後、シリウスが言葉を放つ。
「ここで悲しんでいても先には進めないわ。コンコン行きの貨物船に乗らないと……リゲル、せめてカペラが安らかに眠れるようお墓を立ててあげましょう」
「うっ……うぅぅ……カペラ様、カペラ様、カペラ様ぁぁぁ……うん? これは……」
カペラが着ているボディスーツにあるポケットに一通の手紙が入っていた。
封書には遺書の二文字。
「遺書……まさか……カペラは自害を?」
「そんなはずがない! きっと、きっと何か理由があるんだ!」
封筒から取り出した遺書を読み上げるリゲル。
「先に誤っておきます。パープルには逃げられました。ダメージも対して与えられなく、また戻って来るかもしれません。一刻も早くその場を離れてください」
「逃げた……ということは追い返したということでござるか? あの最弱のカペラが……」
「だから違うもん! カペラしゃまは最強だもん!」
「2人とも静かに。リゲル、続きをお願い」
「おそらく、この手紙を読んでいるということは拙はこの世にはいないでしょう。でも、こうするしかなかったのです。えっ? リゲルを……蘇生……させるために……拙の命を……使いました? ど、どういう……こと……? ぼ、僕のために……」
再び大粒の涙を流すリゲル。
続きを読み上げようとするがうまく声が出ない。
「リゲル、代わるわ。私が読む」
リゲルから手紙を受け取ると皆に聞こえるように読み上げるシリウス。
「リゲルを蘇生させるために拙の命を使いました。みんなに内緒にしていましたが拙は蘇生陰陽術が使えます。その名の通り死者を蘇らせることができる術です。ですが、この世の理に反する術はそれなりの代償も必要です。死者の命には生者の命数人分が必要。でも、みんなの命は使えません。本来ならパープルの命を使おうと思ったのですが化け物の姿と変わった奴には逃げられてしまいました。あ、生者の生命力が強い場合は代償は1人でも事足ります。なので拙自身の命を使うことにしました。星々の庭園発足時からのメンバーであるリゲルの死はみんなの士気を大きく下げることになる。それはこれからの戦いに大きな足枷となるでしょう。拙の死とは比べようが無いほど意味が大きく異なる以上、こうするしかなかったのです。リゲル、蘇生したばかりで記憶が曖昧でしょう。ですが、徐々に回復し思い出していきます。不安にならなくても良いよ」
「うわぁぁぁぁ、カペラ様! カペラ様! カペラ様ぁぁぁ!」
「シリウス、みんなの士気が一時的に下がるでしょうがその士気を取り戻すのもリーダーの仕事。上手くやってくださいね……ええ、貴方の言う通り上手くやってみせるわ。続きを読むわね。プロキオン、タンクとして先陣を切ってみんなを守ってください」
「くっ、カペラ……この期に及んで他人の心配を……武士の鑑でござる!」
「ベガ、怖がらないで君は強い。君の怪力はこれからの戦いに必要です」
「びぇぇぇん! ガベラじゃまぁぁぁぁ!」
「アンセル・フーユェー・ジャッバ・ジーシュイ、それと隊員のみんな短い間だったけれど楽しかった。悪魔との戦いはまだ始まったばかり。貴女達と同じ境遇の者をこれ以上増やさないため力を貸してください。思ったより長くなっちゃったかな? ばいばい、みんな」
「「うっ……くっ……」」
「ふふっ、馬鹿。最後に明るく振る舞うなんて無茶しちゃって……ぐすっ」
悲しみが過ぎることはなく、ただただ時間だけが過ぎていく。