窮地にて(其の陸)
(どこに行ったのでしょう? 先ほどまで近くにいたはずですが……)
ヒュゥゥゥ
ズガァァァン!
カペラの近くの地面に何かが激突した。
目を向けるとそこにいるのは全身がボロボロになったベガの姿。
「ベガ! しっかりするでありんす!」
「カ……カペ……ラ……しゃ……ま……あ……あいつは……危険……」
そう言うとベガは気を失ってしまった。
カペラはベガを地面に寝かせ吹き飛んできた方向を見る。
森の入口の木々が何本か倒れていることを発見したカペラは考察した。
(ベガが吹き飛ばされた方向とあの大木が折れている感じからして森の中へ? リゲルの主な戦闘スタイルは弓を使い後方からの支援です。1対1の戦いでは遮蔽物が何も無い平原では力を十分に引き出せない。自ら森の中へパープルを誘ったのでしょう。急がなければリゲルが危ないです)
素早く移動し森の中へ入るカペラ。
何やら煙臭い。
(これは……屋敷に放った火が想像以上に広がって森林火災に? まずいです。この煙は有毒ガス。あまり長く森の中にいると酸欠になり死に至ってしまいます。早く……早く……リゲルを見つけないと)
ガガッ
バキバキバキ
火に炙られ燃える木々の音が森の中に響き渡りリゲルの気配を掴みにくい。
口をハンカチで塞ぎたいがそのハンカチはリゲルに貸している。
(けほっけほっ。煙の回りが早いです。リゲルは呼吸器が弱い傾向にある。こんな中にいると彼女は誰よりも早く……いけませんね。最悪の想定ばかりしてしまいます。絶対に死なせることはしません)
ドシュッ
それを目撃したカペラは時間が止まったかのように思考を停止してしまう。
燃える木々の向こう、パープルのアイアンクローで頭部を持ち上げられ胸に大穴が空いたリゲルの姿。
パープルの右手は真っ赤に染まっており何をされたのか理解するのは簡単だった。
「おほほほ、これで残り1人。おやぁ? やっといらしたざますか」
「ごぼっ! げほっげほっ! カペラ……様……逃げ……」
ブンッ
ドシャア
瀕死のリゲルを投げ捨てるパープル。
カペラの中に怒りが込み上がるもすぐに冷静さを取り戻しリゲルのそばに寄る。
「リゲル! リゲル! しっかりするでありんし! ああっ……死んじゃだめでありんす!」
「ご……ごめんね……僕……はじめて……計算ミスを侵してしまったよ……ごほっごほっ!」
口から吹き出す血液と傷口から溢れ出す大量の血液。
リゲルの身体の温度が急速に下がっていく。
「おーほっほっほっ! その自称雌豚、森の中で気配を隠すも咳込んで気配丸わかりでございましたのよ。まったく、これほど舐められたのは初めてざます。だから、ちょーっと本気を出してさしあげたざますのよ」
「……黙るでありんし」
「んんっ? 今なんと? 黙れ? おほほほほ、星々の庭園といえども所詮はガキの集まり。おおっと、そうざました。まだまだメスガキを飼ってらっしゃる春夏秋冬財閥ざんした。メスガキ一匹くらい減ったところでは何とも思わないざましょ?」
ポウッ
カペラの両手から優しい光が放たれる。
リゲルの傷口が急速に塞がっていく。
「ふむ、治療陰陽術『癒』の中でも最高難易度の術でございましょ? ミストレス様以外で使用しているのを初めて目にしたざます」
「ひゅー……ひゅー……けほっけほっ!」
傷口を治してもリゲルの呼吸は細く弱い。
この煙の中では酸素も十分でなく危険な状況に変わりはない。
カペラはリゲルを抱きかかえパープルに背を向ける。
「ほぅ? ああた、尻尾を振って逃げるつもり?」
「……黙れと言っている」
「おほほほ、あてくし獲物は逃さない主義ざます。だから、ああたも……」
ヒュッ
高速移動でリゲルの頭上に移動し右手の手刀を振り下ろす金鶴。
防ごうと手を出すと待っていたかのように手を捕まれ投げ飛ばされてしまう。
「おほほほ! あてくしの合気道に隙は無いざます!」