窮地にて(其の弐)
「ギャォォォン! 男はおしゃべり◯玉! ギャォォォン!」
「くっ、アンセル! フーユェー! 止めるでござる!」
「チー牛から告白されたら性加害! 視線が合うだけで性加害! ギャォォォン!」
「一体、何のことを言ってるんだ!?」
言葉の意味を理解しようとするリゲルだが、襲いかかる隊員達の猛攻を防ぐことも注視しなければならない。
以前ならばシリウス達だけで取り押さえることもできたが、日々の訓練で隊員達の運動能力も飛躍的に向上しており、30人もの隊員達から自身の身を守るだけで精一杯の状況。
「おっほほほほ! さぁ、早く呟憤怒女の妄言を聞き入れるざます! ああた達も同族になれるざますよ」
「意味が分からない単語の連発を聞き入れられるか! パープルがみんなを操っているのかもしれない! 誰か……誰か奴に攻撃を……」
隊員達の猛攻を防ぎながらリゲル達の状況を確認するシリウス。
みんな手が埋まっているようで金鶴に攻撃を加えられる者は居ない。
影の実力者であるカペラも最弱を演じるため、やられているふりをしているが隊員達から指一本触れられることなく、すべて紙一重で躱している。
それだけでなく襲い来る隊員に治癒の陰陽術をかけ状態の変化を確かめていた。
(これは……治癒陰陽術をかけているのに改善の兆候が見られない? ということは状態異常攻撃ではないみたいです。精神攻撃にも治癒陰陽術の効果があることは検証済み……となるとシリウスの言う通り大元であるパープルの術中に嵌まっている可能性もありそうです。でも……最弱を演じる拙が真っ先にパープルに手を出すわけにはいきません。ここはシリウスに行ってもらうとしましょう)
「シリウス、行くでありんす!」
隊員達の猛攻からシリウスを守るかのように身を投げ出し、自身が狙われていた隊員数名とシリウスを狙っていた隊員数名を引き受けるカペラ。
もちろん、単にやられたふりをしているだけで自身の身を覆うように防御陰陽術を展開し隊員達に触れられていない。
「カペラ……ありがと! 貴方の犠牲を無駄にはさせない!」
シュッ!
素早く金鶴との距離を詰め鞘に納めていた剣を抜き斬りかかる。
ガキィィィン!
「あの子達をもとに戻せ!」
「おほほほ。ああた1人であてくしの相手は務まらないざますよ」
グンッ
ドゴォォォン!
「かはっ!」
何が起こったのか理解ができないシリウス。
いつの間にか天地が逆転し背中から地に激突させられていた。
「今って力が物を言う時代ざましょ? あてくしも自身の身体を守るために合気道を少々嗜んでいてね……ああたのようなメスガキにどうこうできるほどやわじゃねぇんざます。おんどれが気安く触れんじゃねぇぞ、ゴラァ!」
ガシッ!
地に伏せられたシリウスの顔面を片手で掴みアイアンクローのように力を込める金鶴。
「う、うわぁぁぁ!」
「シリウス!」
「ああたにも悪魔信徒の細胞から培養した呪物をくれてやるざます。これでああたも……ぎゃははは!」
眼の前が真っ暗になるシリウス。
金鶴の手から何かが脳に直接流れ込んでくる。
『穴モテ期の20代。キモいおじさんから大金を頂くのは簡単だった。だが、30代後半、モテ期は過ぎ男に相手にもされなくなった。私は二毛作をするため今までに関係を持ったキモいおじさんすべてを奉行所に訴え賠償金を回収。なんとか贅沢な暮らしはまだできている。しかし、40代後半……私はまだ独身。婚期を逃しただけでなく、友人達は既に結婚し子供を授かっている。私だけ無産!? なぜ私が!? 嫉妬の念が頭から離れない。悪いのは私ではない。悪いのはすべて男! それと結婚し幸せな家庭を築いているメス共! あああ、キモいキモいキモいキモい! キモくてキモすぎるマックスキモキモな奴らを私は許さない!』
「うわぁぁぁ!!!」
「注入成功。おほほ、さぁ泣くざます! 新たな呟憤怒女!」
「ギャ……ギャォォォン! ギャォォォン!」
シリウスの額には『恨』の文字が浮かび上がり奇怪な叫び声を上げる。
「そ、そんな……シリウスまでも?」