邸宅にて
エゲレス、モンドン近郊にあるジャッピングフォレスト。
その森の所有者である死産家ブレッド・ダン・ダォ。
彼の趣味は盆栽である。
エゲレス人の父と日本人の母の間に誕生した彼は和の心を非常に気に入っていた。
「ふふふ、今日も良い景を表現できた」
彼の行う盆栽はあまりにも非常識であった。
悪魔教から譲って貰った日本人少女、その顔を鉢に見立て呪物を植え付ける。
勿論、呪物も悪魔教から高値を払い買ったものである。
「だ……だじゅけ……て……」
「……ここも切ってと」
「だ……だじゅげ……」
少女の悲鳴など気にせず呪物を剪定していくブレッド。
「ふむ……良い! やっと、満足のゆく作品が完成したぞ! おっと、作品名を考えねば……」
剪定していくうちに少女の顔は何も無くなっていた。
呪物は完全に少女の脳内に侵入し、少女の顔はまるでのっぺらぼうのように変化していた。
「何も無い表面にうっすらと生える産毛……こ、これはまるで草原のようだ!」
窓から降り注ぐ太陽の光によって細かく生えている産毛が目立つ。
「……草原……顔が草原……これだ!!!」
彼はとてつもない作品名を思い付き歓喜に震えた。
「顔面大草原! ふは、ふはははは!」
彼の解釈する和の心とは……それは彼だけにしか理解できないものである。
「さて、呪物が女の身体を乗っ取る前に息の根を止めねば……切腹も和の心」
ザンッ!
少女の首は斬り落とされ呪物が彼の足元に転げ落ちる。
「顔面大草原に身体は不必要。ふふふ、首から上さえあれば良い」
斬り落とした少女の首に防腐処理を施し邸宅内にあるコレクションルームに飾るブレッド。
「ふふふ、朕の作品も多く集まってきた。そろそろリューブル美術館がこの素晴らしい作品を展示したいと懇願してきても良いのではないか? うむ、そうだ。朕の作品は歴史に残る大作ばかり。これら作品を朕だけが満足するわけにはいかない。何故、リューブル美術館は朕に連絡をしてこない? 全く、失礼な奴……いや、凡人共だ。こちらから伝手を辿って連絡を入れてみるか」
美術室から自室へスキップをしながら戻るブレッド。
そして、自室の扉を開けた時、彼の表情は一瞬にして凍りついた。
「お邪魔していますよ」
「ミ……ミストレス様!? それと……ホワイト様にブラック様!?」
「あてくしも居ましてよ」
「パープル様までっ!」
悪魔教四天王の内、3人が教祖と共にダォ邸に訪れた理由。
彼は一瞬、頭が真っ白になった。
「嫌やわぁ、何でそんな顔をしてるん?」
「まったく失礼な奴ですじゃ」
悪魔教の頂点に君臨する者達の機嫌を損ねる訳にはいかない。
彼の脳内にあるのはただそれだけだった。
「事前にご連絡を頂ければ、しっかりとしたおもてなしが出来たところなのですが……」
「ふふっ、大した要件ではありませんよ。ただ、貴方に許可を得る必要があるだけです」
「許可? な、何の……」
「あんたが所有しとる森や。うちらに管理を任せてたやろ」
森の管理もただではない。
ドケチ氏の伝手で森の管理を格安にて悪魔教に一任し、すでに十数年。
当然ながら悪魔教は森の管理など一切せず、さらに牧場を報告無しに作る始末。
その牧場も牛や豚ではなく拉致した日本人少女達を飼う場所である。
そして、出荷先はエゲレス陸軍の極秘部隊。
血液を搾り取られ賢者の石の素材とされていた。
当然ながらブレッドが毎月、報告を受けていた内容にそのことは書かれていない。
「一任していますが……まさか、委託費をまた上げてほしいと?」
「いいや、もう委託費はもう必要ないですじゃ」
「必要無いって……まさか、ただで森の管理を!?」
「んなわけあるかい。もう、あの森に用は無いねん」
「シアンがしくじりましてねぇ……実に残念ざますが貴方からチュゥチュゥするのはお終いなんざます」
ブレッドは呆気に取られながらも話を聞く。
契約を終了するというのならそれは仕方の無いこと。
彼は潔く引き受けた。
「ほな、この書類にサインしてくれたらお終いや」
「はぁ……ええっと……」
スッ
パープルが片手で書類に目を通そうとするブレッドの視線を遮る。
「読まなくても結構ざます。ああたはただこの書類にサインするだけで良いざます」
「し、しかし内容を確認しないと……」
「あ―――うちらも忙しいねん。はよサインしてや。もし、次の仕事に遅刻したら責任取ってもらうで」
「そのようなことを申されても……」
「……仕方が無いですね、ホワイト」
「はいですじゃ」
ピッ
ホワイトがブレッドの腕を掴み親指の先を少し切る。
そして、ブレッドの親指を書類に無無理矢理押し付けてしまった。
「な、何をするのですか!」
「さ、これで書類は完成や」
「ああたのこの邸宅はこれであてくし達のものざます」
「えっ?」
その書類に書かれていた内容はあまりにも理不尽極まりないものであった。
1つ、森の管理委託終了と同時に4京6兆49億ドルの契約終了金を支払うこと。
2つ、今までに売り渡した日本人少女の返却。もし、その者が死亡していた場合、慰謝料として1兆ドルを支払うこと。
3つ、呪物の返却。もし、破損していた場合当人が呪物の生成者となること。
「な、なんて法外な! 朕は絶対に受け付けないぞ!」
「血印を既に頂いておりますじゃ」
「そんなもの無効だ!」
「……パープル」
「ブレッド、ああたミストレス様の御前で无駄亞悪いたしたざますね?」
「ンダアオ? そ、それって……銀兵衛殿の……」
「天誅!」
シュッ
「おぶっ……」
一瞬の出来事だった。
ブレッドの腔内に何か大きな塊を詰め込まれ、つい飲み込んでしまった。
「呪物の生成には大きな憎悪が必要となるざます。ああたは今、あてくし達を憎んでいるはず……おっほっほ」
ブレッドはすぐに理解した。
自分の中に呪物を埋め込まれたと。
すぐさま吐き出そうとするが時既に遅し。
「う、うぎぁぁぁぁ!」
彼の身体が呪物に侵食され形を変えていく。
急激に体毛が生え伸び、白と黒の2色の体毛が全身を覆う。
「うが……うががが……ミストレスサマ……ゴメイレイヲ……」
「あっははは、これは滑稽や。どっかで見たことのある動物そっくりやん」
「このような変化が起こるとは……呪物の研究に役立ちますじゃ」
「では、貴方に命じます。ジャッピングフォレストにとある牧場があります。そこに居た者をすべて処分しなさい。その後、森ごと全てを焼き払うこと。ただし……この者だけは必ず生かし捕らえてください。良いですね?」
1枚の写真をブレッドに手渡すミストレス。
「お……オォ……オオセノママニ゙」
呪者となったブレッドが向かう先は勿論、シリウス達の居る牧場。
「ミストレス様、あいつ1人で殺れるやろか?」
「特に問題は無いざます。どうなろうと春夏秋冬美心の私設部隊である星々の庭園は森を去らねばならないざんしょ」
「??? パープル、あんた……何か仕掛けよったな?」
「何のことざます?」
「2人共、船へ戻るですじゃ」
3人はミストレスの生み出した陰陽術で拠点へ戻っていった。
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