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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
152/263

リゲル⑤

「絶対に許可できないわ!」


「わちもシリウスと一緒!」


「2人とも落ち着くでござる!」


「えっと……2人は何故、怒っておられますです?」


 やってしまった。

 僕の承認欲求は霧散し星の彼方へと消えてしまったようだ。

 この最悪な状況を招いたのは僕の即興的な計画が原因……。


「シリウス、みんなの前で激昂する必要がありんし?」


「ベガも落ち着くでござる」


 カペラがシリウスを、プロキオンがベガをなだめている。

 僕はどうするべきだ?

 前言撤回……いいや、それだけはだめだ。

 僕の中に微かに残った承認欲求の残滓がそう告げている。

 

「姉様を……姉様を任務に就かせることだけは絶対に駄目よ! お義母様も許可してくれない!」


「そうだよ! 姉様1人で星々の庭園100人分の任務をこなせるけれど、それ以前に姉様は……びぇぇぇん!」


 姉様……星々の庭園内でマスターに救われた娘の中で最古参である1番目の子ども。

 僕が3歳の頃、姉様は14歳だった。

 心優しいお姉さんでシリウスやスピカは姉様を目標としていたほどの立派な方だ。

 ベガはまだ赤ん坊で姉様がずっとおんぶしてくれていたため、他の隊員以上に愛着があるのも知っている。


「プロキオンさん、姉様って誰のことですます?」


「あぁ、実は拙者も会ったことが無い御仁で……ただ、マスターに最も古くから仕える隊員でその実力はマスターに次ぐとか」


 36番目の子どもであるカペラがやって来た翌日にマスターの勅命で任務に就き、そこで瀕死の重傷を負い、今も春夏秋冬邸地下100階の集中治療室で治療を受けているとのことだ。

 面会謝絶の為、40番目の子どもであるプロキオンは顔を見たことも無い。

 

「姉様は戦いに疲れたの! わちはよく知ってるもん。これ以上、姉様を酷使しないで!」


「私もベガと同じよ。姉様は今も怪我と戦っている。そんな状態で悪魔との戦いに駆り出すだなんて貴女に人の心は無いの!? リゲル!」


 くっ、名簿の中で一番最初に目に付いた為、姉様を仲間に加えた設定ならみんなを誤魔化せるかと思ったが……想像以上に2人の姉様への愛は深いようだ。

 どうする僕……考えろ、考えるんだ!


「姉様は既に復帰しているでありんし。2人とも、あの頃から何年の歳月が流れたと思っているでありんすえ?」


「えっ?」


「ふぇ?」


「「!!!」」


 突如、カペラの口から放たれた言葉。

 それは僕の勝利を決定付けるものであった。

 あぁ、星の彼方へと散った承認欲求が僕の中に舞い戻って来るのを感じる!

 全身が承認欲求で満たされていく……。

 んふぅ、早くみんなに認められ愉悦に浸りだいぃぃぃぃ!

 

「ふっ、僕も言葉足らずで2人を怒らせてしまったようだね。姉様は僕達がエゲレスへやって来た時には既に復活していてね……」


「そ、そんな! 報告書の中にはそんなこと一言も書いてなかっ……ああっ!!!」


「ふっ、シリウスもやっと気付いたかい? 僕はその名簿に目を通した時から既に理解していたけどね」


「??? どゆこと?」


「拙も説明が足りなかったでありんすね。この名簿は……」


 !!!

 いけない、カペラに注目が集まっている!?

 だが、この名簿には僕の気付いていないことが書かれているのか?

 

「この名簿には……」


「負傷した隊員や除隊した者は載せていない……つまり、そういうことなのね!?」


 突然のシリウス!?

 しかし、僕も理解できたよ。

 シリウスの言葉を借り僕は続いて口を開く。


「ああ、そういうことさ! 姉様は既に復隊し億を超える悪魔の眷属を斬り伏せているようだね、カペラ」


 カペラ、頼む!

 僕の軽いジョークに乗ってくれ!


「ええ、その通りでありんす。姉様はシリウス達のことを心配してありんした。だから……」


 だから?

 カペラはみんなに伝えたいことがあるのか?

 ……まさか!?

 カペラも自己承認欲求が満たされる快感を得たくて……今までの出任せからそうに違いない!

 星々の庭園内で最弱であるカペラが承認欲求ね……ふふっ、なんて厚かましい奴。

 良いだろう、誰も自己承認欲求に抗うことなどできない。

 けれどね、まずは僕の承認欲求を満たさせてもらう!


「さっきも言った通り姉様と合流しロセアで悪事を働く尼僧を捜索する!」


「「おおっ!」」


 決まった……。

 今回の会議は危なかったが僕はやり遂げたんだ。

 さぁ、みんな喝采せよ!

 僕に承認欲求を満たさせておくれ。


「姉様が誰かは分かりませんがリゲルさんの立てた計画に穴など無いですます!」


「私は賛成します!」


「わ、わたちも……」


「あたいも!」


「ううっ……わちも……姉様と会えるなら……」


「拙者も仲間が増えることは歓迎するでござる」


 隊員のみんなが熱い眼差しを僕に送り賛同してくれている。

 ああっ、枯渇していた承認欲求が満たされていく。


「姉様を加えたとなれば広大な面積を誇るだけのロセア帝国など裸同然。リゲルの効率をとことん追求する姿勢に負けたわ。私も賛成よ」


 最後にシリウスからの賛同を得たことで僕は軽くイッてしまった。

 やはり承認欲求は素晴らしい。

 愉悦に浸りすぎて少し濡れてしまったじゃないか。

 席を外して下着を履き替えたいが……。


「みんな話もまとまったことだし少し休憩にしないかい?」


「わち、喉乾いた」


「拙者も厠に行きたいでござる」


 よっしゃ、流石は低脳なベガとプロキオン。

 僕は足早に食堂を離れ自室へと戻った。

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