リゲル④
「……これでみんなを守ることができそうでありんす、お義母様」
「カペラ?」
「単なる独り言でありんし。それより、どの国へ向かうか決める必要がありんす」
「そうでござるな。世界大戦まで時間は無さそうでござる……」
みんなの表情がプロキオンの一声で硬くなる。
さて、ここからは僕も慎重に話さなければ。
下手するとみんなからの評価は一気にガタ落ちしてしまう。
そういう時は口を開かない、これに限る。
口は災いの元とはよく言ったものだ。
「そうね、リゲル。貴女のことだわ。既に分かっているのでは無い?」
!!!
僕に話題を振られた!?
マズい、マズいぞ!
僕の承認欲求は先程の絶賛で満たされているが、ここで評価を下げるのは嫌だ!
くっ、三国協商に三国同盟……どれがどの国だったかはっきり覚えていない。
尼僧が行きそうな国、カペラの出任せな話では他国にも日本人牧場があるという設定だったか?
仲間達が本気で調査任務に出ると小さな国ではあっという間に調べ尽くされて僕の話が出任せだったと思われてしまう。
ならば、ここは最も広大な面積を誇る国……。
世界地図を見るにこのエゲレスから西、日本の北部にある大国……ロセア!
ここならば時間稼ぎができる!
僕は勢いよく指を突きつけ話す。
「ロセア……おそらく、この国の何処かに尼僧は居る!」
「「!!!」」
みんなは机上に広げている世界地図を見て驚きを隠せないようだ。
その面積の広さに物怖じしているのか?
「ロセア帝国ね。日露戦争が開戦された直後、マスターの一撃でロセア軍は壊滅。その13時間後に白旗を上げ全面降伏したのは知っているけれど……」
「例の13時間戦争でござるな?」
そういえば、カペラがこの牧場に来た時、渡された報告書にそんなことが書いてあった。
僕は瞬時にそこから話を作り出し、みんなに話した。
「ふふっ、敗戦国だからこそ悪魔教の魔の手が伸びやすい。恐らく、今のロセア帝国は悪魔の眷属と化しているはずだ」
「「!!!」」
あくまで僕の憶測に過ぎないけどね。
それにしても……ふふっ、みんなさっきから世界地図を凝視して固まったままだ。
「なるほど……リゲルの話は理に適っているわね。けれど……」
コクッ
シリウスとプロキオンが目を合わせ互いに頷く。
何か見落としていたところがあったか?
マズい、このままではみんなからの評価が急落してしまう!
「け、けれど……何だい?」
僕は恐る恐るプロキオンに聞いてみた。
「リゲル、分かっているくせに敢えて聞くでござるか?」
「ふふっ、君の言おうとしていることは分かっている。だけど、他の者が君と同じ考えとは分からない。疑問も共有しておく必要があるのでは無いのかい?」
「……そうね、私が話すわ。ロセア帝国を調べるにしても、この広大な国内に存在するだろう日本人牧場をこの人数で見つけることは物理的に不可能。ここエゲレスでさえ全土の調査に5年かかったのよ」
「人員をもっと増やさねばならぬでござるな」
「訓練の時間も入れるとかなりの時間かかっちゃうよぉ」
えっ、人を増やすって……それはマズい!
僕の話が全て出任せだったとバレてしまうまでの時間が短縮されてしまう。
何とかして、この人数で出来ることをするよう説得しないと……。
「でも、リゲル。貴女のことだわ。きっと人手不足の件も想定済みなのでしょうね。さぁ、みんなに話して不安を和らげてあげて」
えっ……えぇぇぇぇぇぇええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇ!
シリウス、なんてことを言うんだい!
ほら、みんなの視線が僕に集中して……。
「リゲルさん……」
「リゲルぅ」
「星々の庭園でトップクラスの頭脳の持ち主、リゲルさん!」
だ、だから、その期待を込めた視線を僕に送らないでくれ!
僕の承認欲求にクリティカルヒットしてしまうんだ!
くっ、何でもいい……何か、何か話さなきゃ!
「リゲル、拙が話しても? 拙が持ってきた現在の星々の庭園の名簿……人手は十分に足りているでありんし」
カペラが突然、日本に居る星々の庭園隊員の全名簿を机上に広げる。
「名簿? ま、まさか……」
「589名……いいえ、幼い子ども達も入れれば1000人を優に超える」
「そっか、カペラ以外も呼べばいいんだ。リゲル、凄い凄―――い」
日本から援軍を呼ぶつもりか?
僕は名簿に視線を送ると丁度、その下には世界地図のロセアと日本が目に入った。
……日本からの方がロセアに入り込むのは容易そうだ。
ふっ、僕はまたカペラに助けられたようだ。
「ふふっ、カペラ。少しはみんなに考える時間を与えてやってはくれないか? 僕の頭脳を全て頼りにされてはこの人数を纏めることが大変だからね」
「や、やっぱり……援軍を? リゲル、お義母様にどう説明するつもり!?」
「シリウス、何名居ればロセア全土を探れる?」
「そんなの人数が大いに越したことは……はっ!? も、もしかして……」
僕は自信満々に口を開く。
この話が終わった瞬間、僕は最上の愉悦を味わった後だろう。