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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
147/263

謀反にて(其の捌)

 数十人はいる新人隊員達の攻撃、そのすべてがレグルスには遅く見えた。

 避けても避けても攻撃を仕掛ける隊員達の姿に仕方なく鋼糸で全員の動きを封じる。


「無理に動いては危険ですわよ」

 

「くっ、この!」


「悪魔ァァァ、比奈乃様の敵―――!」


 スピカだけでなく新人隊員達も怒り狂っているその姿にレグルスは不安を感じた。


(妾が居なかった間に一体、何が……お義母様は何も仰っていなかった。となると屋敷が全壊していた現状やこの子達の様子から思うに……まさか!)


「コペルニクス……」


「ん、呼んだ?」


 びくっ!


 何の気配も感じさせずにレグルスの背後に立つ少女。

 振り向くと両目を包帯で覆い鉄パイプを手に持つ姿がそこにはあった。


「貴女……今まで何処に」


「コペルニクスさんだ」


「やった! 私達の勝ちだ」


 ごくっ……


 互いに向き合うレグルスとコペルニクス。

 まったく気配を感じさせないコペルニクスを前にレグルスは緊張を隠せないでいた。

 彼女はコペルニクスの特性をよく理解している。


(コペルニクスは目が見えない。さらに幼少期から喜怒哀楽の感情も無く、まるで動く人形のような不気味さが妾には感じられましたわ。そして、何よりも恐ろしいのは……この子は……)


「ん、喧嘩してたの?」


 ビクッ


 レグルスは咄嗟に誤魔化す。


「ち、違いますわ。そ、その……皆さんと夜間特訓をと……」


「コペルニクスさん、助けてください!」


「その者は悪魔です! レグルスさんはもうこの世にいないんです!」


「へっ!?」


「ん、悪魔?」


 新人隊員の言葉にレグルスは驚きを隠せなかった。

 自分がこの世にいない?

 レグルスは軽く混乱しながらも隊員達に声をかける。


「妾がいないってどういうことですの!?」


「黙れ悪魔! お前がレグルスさんを殺したんだろ!」


「妾は生きてますわ! それに悪魔って……」


 ダンッ!


 互いの言葉をかき消すかのように鉄パイプで地面を強く叩くコペルニクス。

 因みにコペルニクスは目が見えないため人の気配を察する能力に長けている。

 気配とは生きていることを漠然と感じられる第6感のようなもの。

 レグルスが本当に亡くなったのなら彼女にはレグルスを感じることができない。

 つまり、この場ではレグルスが生きていることを理解している唯一の隊員である。


「ん、やっぱり喧嘩だったんだね。星々の庭園金科玉条を破り暴力沙汰にまで発展してるなんて……」


「ち、違いますわ! コペルニクス、本当にこれは……」


 ヒュッ

 ダァァン!


 レグルスが言葉を発するよりも先にコペルニクスは鉄パイプをレグルスに向けて振り下ろしていた。

 覚醒していないレグルスでは捉えることも不可能なほどの一撃。

 なんとか鋼糸で受け止めるも蹴りを腹に喰らい吹き飛ばされる。


「ぐっ!」


「言い訳無用」


「すごい……流石はコペルニクスさんだ」


「あの方なら悪魔を退治できる!」


「「いけぇぇぇ! やっちゃえぇぇ!」」


 ドゴッ

 バキッ

 ガン!


 レグルスの鋼糸で身動きを封じられていた新人隊員がコペルニクスの一撃で気を失っていく。

 御情など無い彼女の愛用している鉄パイプで痛めつけられる隊員達。

 その鉄パイプは今まで粛清した人々の血と油で赤黒く染まっている。


「五月蝿い。星々の庭園金科玉条第3条、喧嘩両成敗……あんたらも同罪」


 コペルニクスの姿を見てレグルスは恐怖する。

 

(やはり、会話ではどうにもならない。この子は制裁のコペルニクス……お義母様の定めた金科玉条を厳正に遵守し、犯した者には手心を加えず処罰することを許された唯一の娘。でも、その厳粛さ故にシリウスやスピカとも度々相対してしまうほど融通の利かない厄介者でもあった……)


「成敗」


 ドゴッ!


 レグルスはコペルニクスの一撃を潔く受け気を失う。

 

「やはり……やはり納得できませんわ! 妾だって何がなんだか分かっていませんのに!」


 ……つもりだったが納得できないことはどうしても受け入れられないレグルスは身体が先に反応しコペルニクスの攻撃を受け止める。


「まだ抗うつもり? 他の子はみんな罪を受け入れたよ」


「手を出したのはあちらが先です。妾は仕方なく……」


 ダンッ


 玄関からスピカとムジカが飛び出てきた。


「何の音かと思ったら……悪魔がコペルニクスと」


「ムジカもやっちゃうの! カノちゃんを洗脳したレグルスちゃんの遺体を操る悪魔を許さないの!」


(す、凄い! ここでスピカとムジカが参戦!? でも、この状況……ちょっとマズいかも)


 当然のようにレグルスに襲いかかるスピカとムジカ。

 それを止めるようにコペルニクスが鉄パイプをスピカに振るい、同時に足技でムジカを転ばす。


「コペルニクス、そいつは悪魔だ! 何故、悪魔を庇う!」


「コペちゃん、邪魔しないでなの!」


「あんたたちもレグルスと喧嘩? だったら成敗するだけ」


「妾ももう我慢の限界ですわ! 悪魔、悪魔、悪魔って! 妾はコペルニクスのように厳しくしたつもりはありませんわよ!」


 誤解だらけの三者が互いに牽制しあう、正に三竦み状態と陥る現状。

 最早、比奈乃でさえ止めることは不可能だった。

 4人の戦いで庭は傷つき寄宿舎も半壊してしまう。


「やめんかぁぁぁ! お、俺の屋敷をこんなにしよって……うわぁぁぁん!」


 4人の戦いを止めたのはパパ渇からご満悦で帰ってきた美心の一声。

 その後、誤解が解けたのは翌日のことだった。


(髪の色が元に戻っている。瞳の色も……でも、右目の瞳孔だけは変わらない)


 ドクン


「うっ!」


「レグルス、今度のパーティーに……ど、どうしたんだ!?」


「右目が……疼きますの」


 美心は右目を押さえ話すレグルスの姿にすべてを理解した。


「ふっ、右目が疼くか。それはな中二病というやつだ。ほら、眼帯。これを付ければお前も立派な拗らせ女子だ」


「お、お義母様……お義母様ぁぁぁ!」


 バンッ!


「レグルス……マスターの技で本当に生き返った……のか!?」


「うわぁぁぁん! レグルスぅぅぅ、良かったの!」


「んもう、超心配したんだかんね」


「皆さん……何のことか分かりませんが妾も大人気なかったですわ。ごめんなさい」


 美心は昨晩、比奈乃から設定を聞いた後、隊員達にあることを告げたのだった。


『レグルスは俺の秘術で生き返る。悪魔も払おう。お前達、今日はもう解散しなさい』


 昨晩の美心の言葉を信じて疑わないスピカ達はレグルスに熱い抱擁を交わし涙する。


 ニヤニヤ


(んはぁぁぁ、尊い! みんな、可愛すぎて尊いよぉぉぉ!)


 途中、想定外のことがあったが最終的に比奈乃の思う展開になったことで今回のごっこ遊びは幕を閉じたのだった。

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