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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
146/263

謀反にて(其の漆)

 比奈乃の背に隠れながら屋敷へと向かうレグルス。

 

(どうして、比奈乃様がここに? それにスピカは何処へ?)


(レグルス……なんで下着姿なんだろう? そんな姿じゃ単なる露出狂設定になってしまうじゃない)


 2人とも思うところがあったが口を開かずにいた。

 比奈乃にとってはこれ以上、自分の望んだ展開を壊されるわけにはいかないため。

 そして、レグルスはスピカが消えて比奈乃が河川敷に居たことに考えを集中していた。


 ヒソヒソ


「あの娘、あんな格好で……」


「きっと男に言い寄られたい年頃なのよ」


 通り過ぎる人の目が痛い。

 レグルスは気にもしていないようだが近くに居る比奈乃自身まで変人扱いされるのは嫌だった。

 その状況に耐えられず先に口を開いたのは比奈乃だった。

 

「レグルス……その……」


「ち、違うんですの比奈乃様。その……色々あって……」


 レグルスも実際には物凄く気にしていた。

 川に飛び込む際、河川敷で落とした被り笠を深く被り顔を隠している。

 そのおかげで落ち着いていられただけである。


(色々ですって? なるほど……この先の展開をいくつか考えているがどの展開が最適か悩んでいるのね。私が望む展開は唯1つ! 実はレグルスが生きていた! 熱い抱擁を交わす仲間達! んはぁ……早く見たい! そうよ、そのためにどんな手段を持ってしても、この展開をさせてみせるわ! レグルスには絶対負けないんだから!)


 勝手に対抗心を燃やす比奈乃。

 レグルスが星々の庭園内で最も大成した者であることを比奈乃自身はよく知っている。

 見目麗しく人との接し方も上手い。

 そして、多くの従業員がレグルスに絶大な信頼を寄せている現実。

 何より美心の秘書になってからは春夏秋冬財閥を更に強大にした。

 その手腕は比奈乃自身も学生ながら見習っていたほどだ。

 故にある程度の自由が春夏秋冬財閥内で許されていることを危惧していた。


(レグルスはきっと悪魔退治ごっこの重要なキーパーソンを狙っているのは確実。そうでなければ、わざわざ髪を染めカラコンを付けたりはしない。きっとアレだわ。えぇっと何だっけ……叡智の書に書いてあった超野菜人間? それになったように見せているのね。ふふっ、面白いじゃない。戦闘能力では私と引けを取らないほど大したことないはずなのに……バトルで活躍したいだなんて。だったらこんな展開はどう?)


「レグルス、先に屋敷へ戻っていて」


「? はぁ……分かりましたわ。クシュン!」


「ほらほら、そんな格好じゃ風邪引くでしょ。私の羽織を貸してあげる。屋敷に帰ったらお風呂に入って身体を温めなさいよね」


 比奈乃が着ていた葵紋の羽織を借り屋敷へ向かうレグルス。

 すでに日は暮れ日が当たっていた場所の痛みも消えていた。


「悪魔ぁぁぁ! 某らの思い出が詰まった場所を!」


 スピカの怒声が屋敷の方向から聞こえてくる。


(スピカったら……まだ怒っているんですの? これで臭いって言われたら流石に滅入りますわね、はぁ)


 早足で屋敷へ戻るレグルス。

 

「えっ……屋敷が……」


 眼の前に広がるのは瓦礫と化した春夏秋冬邸。

 先程まで聞こえていたスピカの怒声も聞こえなくなり困惑するレグルス。

 半壊した塀をくぐり庭に向かうと、屋敷の離れにあたる寄宿舎は無事だった。

 明かりが灯り星々の庭園の皆が中に居ることは明白。

 

「今の時間なら夕食ですわね。妾も手伝わないと……」


 寄宿舎の方へ足を運ばせるレグルス。

 

「きゃははは……」


「うわぁん、返してぇ」


 幼い隊員の2人が玄関から飛び出してきた。


(あの子達ったらまた……確かリリィとクレアでしたわね。)


 この数年で星々の庭園もメンバーが増えすぎたため星の名前を与えられるのは美心に認められた者のみとなった。

 その他の子ども達は外国風の名前を与えられる。

 何故なのか、それはすべてなんだかカッコいい気がするからと言った美心の我儘に過ぎない。


「クレア、リリィ。2人ともお家に戻りますわよ」


 どうやらクレアが悪ノリをしてリリィが大切にしている縫い包みを返してくれないようだ。

 レグルスが2人に声をかけると、次の瞬間……。


「き……きゃぁぁぁ!」


「悪魔め、あっちいけ!」


 リリィがレグルスの顔を見ると同時に悲鳴を上げ、クレアは足元に落ちていた小石を投げつける。


「ちょっ……クレア、おやめなさい!」


 人に向けて石を投げることなど決してしてはいけないことである。

 レグルスは躾の意味も込め鋼糸でクレアを縛り身動きを封じた。

 それと同時に玄関から飛び出てくる新人隊員達。

 

「クレアァァァ!」


「うわぁぁぁん、悪魔が……悪魔がぁ!」


 全員が戦闘態勢を取っていることに違和感しか感じないレグルス。


「また、レグルスさんの遺体を操って……おのれぇぇぇ!」


 新人隊員の1人がレグルスの姿を見て驚愕し声を上げる。


「あの羽織は……比奈乃様の!」


 隊員の皆が瞬時に理解した。

 悪魔がレグルスに引き続き比奈乃にまで手をかけたと……。

 

「悪魔ァァァ! 比奈乃様まで……うわぁぁぁ!」


 新人隊員達が一斉にレグルスへ攻撃を仕掛ける。

 レグルスはまったく現状が理解できずにいた。

 

「ちょっ……本当に何なんですの―――!」


 ニチャア


(計算通り!)


 再び誤解から始まるバトルパートを影から見ている比奈乃の姿がそこにあった。

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