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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
144/263

謀反にて(其の伍)

「レグルスさんはどうすればいいの?」


 1人の隊員の何気ない一言に歓声が静まる。


「悪魔の器にされた彼女だけはうちでも治療できない……と思う」


「そうね、彼女の魂はもう……この世に無い」


 比奈乃の言葉にカノープスは考えを改める。

 

(比奈乃様、もしかして……レグルスだけをこの世から消したいと望んでいるにゃ? じゃなきゃ、にゃろとムジカを庇うような真似はしないはずにゃ。では、何故レグルスを嫌うのかにゃ? レグルスは主の側付き……にゃ! ま、まさかレグルスの有能さに嫉妬している? そうに違いにゃいにゃ! 星々の庭園内で最高幹部という自分の立ち位置が揺らいでいることに危機感を感じて……にゃんて、にゃんて身勝手な女だにゃ! 悪魔教の残念な連中にそっくりだにゃ! 確実に望んで入信し今回の計画を吹き込まれたんだにゃ!)


 だが、今は何を言っても信じてもらえない。

 悪魔教に洗脳されているという設定を退けなければ仲間の隊員達に真実を告げても無意味なことは分かっていた。

 

「あっ、比奈乃様! 2人が監視カメラ外へ出てしまいました」


「今すぐ2人を追いかけるわよ! デネボラは悪魔に狙われているため、ここで待機。2人の治療をお願いね」


「りょ!」


 新人隊員のみんなを連れて比奈乃は監視室から出ていった。

 部屋に残ったのはムジカに拘束されているカノープスとデネボラの3人。


(チャ―――ンスにゃ! レグルスを殺らせるわけにはいかないにゃ!)


「ふぇぇぇ、レグルスちゃんごめんなの……」


「ムジカ、あんたは操られていただけっしょ。今は洗脳を解くのが先」


「はいなの! きっと、洗脳のせいでムジカの頭が悪くなってるの!」


(もとからにゃんだよにゃぁ……)


「カノープスも良い? うちの治療を受けること。そうしないとずっと悪魔の眷属のままで本当に殺すことになる……うちらに仲間殺しなんてさせないで」


「分かってるにゃ。大人しくしてるにゃ。だから、ムジカいい加減に馬鹿力で締め付けるのやめるにゃ」


「わわっ、カノちゃん痛かったの? ごめんなの」


 拘束を解くムジカ。

 次の瞬間、カノープスは猫の姿に化け一目散に監視室から飛び出る。


(レグルスを絶対に殺らせないにゃ!)


「ちょっ、カノープス!」


「きっと、レグルスちゃんの下へ向かったの!」


 デネボラは悩んだ。

 自身が悪魔に狙われている今、屋敷から出るわけにはいかない。

 だが、カノープスを逃してしまったと比奈乃に知られることは絶対に避けなければならない。

 美心の血族である比奈乃に嫌われるということは美心に見放されることと同様。

 

(秒でカノープスを捕らえないとマジでやばたにえん!)


「ムジカも手伝って! 悪魔の下に行かせてはならない!」


「でも、カノちゃん隠れるのが上手なの。2人では手が足りないの」


「あんた、カノープスが殺されてもいいわけ!? 今、レグルスと組まれて誰か犠牲になったら……」


 デネボラの言葉を聞いてムジカは心に決める。

 これ以上、誰も殺らせないと。


「デネボラちゃん、カノちゃんが隠れた以上絶対に見つけられないの。だから……ムジカにアレを使わせてほしいの」


「アレって……あんた、まさか!?」


 デネボラは即断するしかなかった。

 カノープスをレグルスの下に行かせなければ、後は何とか誤魔化せる。

 兎に角、比奈乃にカノープスを逃したと知られなければ良い。


「ああっ、もう! 信濃条さんや秘書達を退避させっから自分で取ってきて!」


「了解なの!」


 デネボラは春夏秋冬邸で勤務する執事や秘書を屋敷の外に逃すため使用人室へ、ムジカは薩摩藩での潜入任務でも使用を禁止されていた自身の得意武具を取りに自室へ向かった。


(にゃふぅ、思った通り部屋から離れたにゃ。相変わらず単純な奴らにゃ)

 

 カノープスは監視室から少し離れた別室に隠れ身を潜ませていた。

 2人が後を追ってくるのことは確実。

 追う者と追われる者ではどちらが有利なのかはスニーキングミッションの達人であるカノープスは身に染みて理解している。

 それを除く手段は2人を先に向かわせること。

 後はレグルスの下まで先行する隊員達に警戒して向かえば良いだけである。

 部屋を出たカノープスは廊下に備えられている監視カメラに映らぬよう玄関へ向かう。


「ほらっ、みんな急いで!」


 玄関の近くまで来たところでデネボラが秘書や執事を屋敷の外に出していた。


(何をやってるにゃ? まさか、にゃろを捕まえるため秘書や執事にまで協力を仰いだのかにゃ? デネボラにとってはよく考えたにゃ。けれど、絶対に捕まってやるわけにはいかにゃいにゃ……にゃ! 背後から誰か来たにゃ! 急いで隠れるにゃ)


「みんなを助けるのはムジカなの!」


 玄関に来たムジカが手に持つのは大鎚。

 カノープスは急激に血の気が引いた。

 そして、ムジカが何をするつもりなのか即座に判断する。


「あ、あの脳筋馬鹿! にゃんてことを……!」


「予想通り、カノープスはまだ屋敷内に居る! サイコーにやっちゃいなムジカ!」


 ブンッ!

 カッ……ドォォォン!


 ムジカの一振りで春夏秋冬邸が一瞬にして粉々になる。

 彼女の考えは至って単純だった。

 迷路のような屋敷内でカノープスを発見することなど不可能。

 ならば、それらをすべて壊すことで……。


 ガラガラッ!


「あっ、見つけたの!」


 瓦礫の中から這い出るカノープス。

 2人で取り押さえるのは簡単だった。


「ムジカ、にゃんてことをしてるにゃ!」


「さてと……カノープス、あんたから真っ先に治療しないとね。でも、今度こそ逃げないように先に眠ってもらおうかなぁ」


 ニタァ


 怪しげな液体が入った注射器を数本持ち不気味な微笑みを放つデネボラ。

 

「デネボラ……注射にゃんて必要にゃいにゃ。眠らせるにゃら陰陽術で……」


 プスッ


「ひにゃぁぁぁ!」


 デネボラとムジカは見事にカノープスの逃亡を阻止した。

 全壊した春夏秋冬邸の修理費に驚愕した美心の姿は言うまでもない。

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