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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
142/263

謀反にて(其の参)

「にゃ、にゃふぅ?」


「あっ、気が付いたの! カノちゃん、カノちゃん、カノちゃん―――! 良かったの!」


 ガバッ!


「んにゃっ! む―――む―――む―――!」


 カノープスの顔を包み込む柔らかいムジカの胸に彼女は窒息死の危機に陥る。


「こらこら、ムジカ。目が覚めたばかりの怪我人を早速、あの世に行かせるつもり?」


 抱きつくムジカを引き剥がしデネボラはカノープスに問いかける。


「カノープス、ここが何処だか分かる?」


「にゃ? ここは……監視室だにゃ」


 カノープスの即答によって安堵の表情を浮かべるムジカ。


「今の時間は暮れ六つ時。それまで何処で何をしていたか覚えてる?」


 比奈乃がカノープスに質問する。

 彼女を警戒しているカノープスだが目覚めたばかりでいつも通りに接してしまう。


「いったい、にゃんにゃのにゃ?」


 カノープスはやけに真剣な眼差しのデネボラとムジカに違和感を感じていた。

 監視室の扉を見ると廊下で新人隊員がこちらを警戒している。

 さらにカノープスの超感覚により天井裏や窓の外、足元の床下にも隊員が隠れている。

 そして、比奈乃……彼女だけは表情がよく読めなかった。


(にゃろを包囲するように隊員が展開されているにゃ? もしかして、にゃろがレグルスと接触したことを比奈乃様に知られたにゃ? ここに居る皆は比奈乃様に騙されているにゃ。レグルスも戻って来ているのは確実だし本当のことを話してやるにゃ!)


「カノちゃん、大切なことなの。話して欲しいの」


「その前にレグルスに会い……」


 !!!


「やはり! みんな、注意して!」


 比奈乃の一声で皆の表情が厳しくなる。


「ムジカ!」


「カノちゃん、ごめんなの!」


 ガシッ!


 一瞬の出来事だった。

 カノープスは脳筋なムジカの馬鹿力で拘束され身動きができなくなってしまう。


「ム……ジカ、離すにゃ!?」


「駄目なの! 今、カノちゃんはおかしくなってるの! 大人しくするの!」


 デネボラが今の状況をカノープスに話す。


「レグルスに愛って……比奈乃様の仰った通りじゃん。カノープス、あんたは悪魔に操られている」


「操られて? そんな術をレグルスは使えにゃいにゃ! 早く離すにゃ!」


 比奈乃は皆が真剣に演技する様を見て緩む表情が抑えられなかった。

 だが、ここで笑みを浮かべてしまうと全てが台無しになるため、自身も演技することで気分を紛らわせようと試みる。


「カノープス、今の貴女はレグルスのことが愛おしくて愛おしくて、どうしようもない気分なのでしょう? けどね、それは悪魔が相手を眷属化する常套手段……いわゆる魅了なのよ。貴女は今、悪魔に魅了されている!」


(そんな事あるかにゃ! レグルスはただの仲間だにゃ! 勝手に死んだことにされているレグルスが不憫に思っただけにゃ!)


 カノープスはいずれ隙が訪れることを期待し、ここは冷静に対処する。


「悪魔? ここにも来たのかにゃ?」


 デネボラがモニターに映る屋敷前の様子をカノープスに見せる。

 モニターにはレグルスとスピカが戦っている様子が映っていた。

 

「さすが悪魔じゃん。スピカの攻撃を全て躱せるなんて、レグルスならそうはならないわけ」


「レグルスちゃんはスピカちゃんに勝ったことがないの。カノちゃん、あれを見てもレグルスちゃん本人だって確信できるの?」


 カノープスはモニターを横目に知恵を絞る。

 何故、レグルスにスピカが襲いかかっているのか。

 何故、自分はムジカに拘束され皆から警戒されているのか。

 ……全ては眼の前にいる比奈乃の仕業であることは今までの経緯から見ても確実。

 そして、今までの状況からカノープスは比奈乃が悪魔教信者であると確信する。

 どちらから歩み寄ったのかは問題ではない。

 星々の庭園をよく理解している者が悪魔教へ入信したということが問題なのである。


(なんてことにゃ! 星々の庭園が内部から崩壊してしまうなんてこと、あってはならないにゃ! しかも悪魔教のような残念な集団にゃんぞに! 今の状況を打破するには……)


「ムジカ、薩摩から帰ってきた時のこと覚えているかにゃ?」


「もちろん覚えているの。ムジカは記憶力が良いの」


「だったら、あの日、主と一緒に夕食を取った時のこと覚えているにゃ?」


「主と一緒にご飯! とても楽しかったの!」


「他にも大事なことがあったにゃ。言ってみるにゃ!」


「えぇ? そんなの無かったの」


 カノープスはムジカのおつむが弱いことを熟知している。

 ムジカに言わせることでデネボラや新人隊員にも聞き入れてもらえる確率が高い。

 カノープスがムジカに思い出させるように話を誘導する。


「あの日、主からシークレットミッションを受けたことを覚えてにゃいのかにゃ?」


「シークレットミッションですって!?」


 比奈乃の驚愕する様子に内心、笑みを浮かべるカノープス。


「ちょっ、ムジカ! それってマジ!? 羨ましすぎん?」


「そう言えば……奉行所に潜入したような気がするの」


 ニヤリ


 カノープスはムジカに問い続ける。


「そのシークレットミッションの内容を思い出してみるにゃ」


「えっと……奉行所に潜入した目的は……レグルスちゃんを……」


 !!!


「貴女だったのね!」

 

 比奈乃はムジカの言葉を遮るかのように大声を上げる。

 比奈乃の今回の設定にとって美心からの勅命であるシークレットミッションなどあってはならないこと。

 美心がレグルスに休暇を言い渡したものだと思っている比奈乃は、ムジカの言いかけた内容から脳をフル稼働させ新たな展開を設定する。


(奉行所に潜入、レグルス……そうか! そういう展開を望んでいるのね、お婆ちゃんは。きゅふふ、これはこれで良い!)


「比奈乃様?」


「急に大きな声を上げてビックリしたの」


 比奈乃を見つめる隊員達。

 比奈乃は演技で冷静に言葉を放つ。


「貴女だったのね……レグルスを殺したのは……ムジカ!」


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