表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
140/263

謀反にて(其の壱)

 レグルスとカノープスが春夏秋冬邸へと戻る道中。

 校外学習で鍛冶師の仕事を見学していた比奈乃が2人の姿を目撃する。


「あれ?」


「ヒナちゃん、どうしたん?」


「なんか、レグルスらしき子を見かけたのだけど……」


 比奈乃は友人の巴と静に訳を話し、こっそりと列から離れレグルスの後を追う。

 

「にゃいたたた……レグルス、下ろしてほしいにゃ。どうやら肋骨もやられていたみたいにゃ。おんぶされると痛むにゃ」


「仕方ないですわね。あそこの茶屋で少し休憩しましょう」


 比奈乃は2人に気付かれないよう物陰に隠れ耳を澄ませる。

 2人の会話から比奈乃は髪の色こそ違うがレグルス本人だと確信する。


(やっぱり、レグルスとカノープスだわ! レグルスが自慢げにしていた桃色の髪を薄く染めるなんて……もしかして、何かの設定かしら? 亡くなった仲間が生き返る演出を狙っている?)


 比奈乃は引き続き2人の会話を盗み聞いた。


「あ、あの……酷い怪我ですが、よければどうぞ」


 茶屋の娘がカノープスの姿を見て傷薬と布切れを持ってくる。


「助かりますわ。えっと、妾はあんみつを、カノープスは草餅で良いですわね?」


「にゃ」


 レグルスが貰った傷薬をカノープスの顔に塗り布切れで血を拭き取る。


「染みるにゃぁぁぁ」


「我慢なさい。屋敷に戻ればデネボラに陰陽治療術をかけてもらいますわ」


「ちくしょぉ……あの悪魔、とんでもない強さだったにゃ。レグルスもやられていたけど大丈夫なのかにゃ?」


「そう言えば……妾も直撃を喰らい動けぬほど痛んでいたはずなのに、いつの間にか痛みが消えていますわね?」


「にゃろの血を飲んだからおかしくなったのかにゃ?」


 比奈乃はカノープスのその言葉を聞き全てを悟る。


(仲間の死、悪魔、血、なるほどレグルスの考えが読めたわ。レグルスは悪魔として蘇った。そして、単独行動をしていたカノープスを襲い首を噛み眷属にした……次の狙いは屋敷に居るデネボラね? でも、屋敷は星々の庭園の本拠地。スピカやコペルニクスが彼女の目に立ち塞がることになる。それって……レグルスが敵として蘇る悲劇の設定!? 良い、良いわその設定! でも、何も知らないデネボラ達は普通にレグルスを迎い入れてしまいそうよね? それなら面白くない。だったら……)


 比奈乃は茶屋を後にし、急いで屋敷に戻る。

 

「比奈乃様? 今日は早いお帰りですね? まだ、昼過ぎなのに……」


「学校は早退したの! 大変なことが判明したわ! スピカ、皆を講堂に集めて!」


 比奈乃の急ぐ様を見てスピカは何か良く知らせなのだと錯覚する。

 彼女の言う通り、皆を講堂に集め比奈乃の話を聞くことにした。


「比奈乃様! 一体、何があったのですか!?」


「コペルニクスは今、帰路に着いたばかりだってぇ」


「比奈乃様、カノちゃんが何処にもいないの。きっと、お外に散歩しに行ったの」


 比奈乃は一呼吸置き隊員に知らせる。


「カノープスは……いいえ、先にレグルスことを話すわ。彼女の死体が見つかったの……」


「レグルスの……何処ですか!? 急いで回収に行かなければ!」


 比奈乃は辛い表情を演じ話を続ける。

 

「彼女の死体は悪魔のものになったわ……ううっ!」


「悪魔のものになった?」


「まさか、食べられちゃったの!?」


「ちょっ、マジ!?」


 言葉足らずで皆に伝わらなかったことを悟り詳しく話す。

 勿論、すべて出任せである。

 それはごっこ遊びをよりリアルな演出に仕上げるためだと信じて疑わない比奈乃。


「そ……んな! レグルスが……悪魔になっただとっ!」


「悪魔教ぉぉぉ! うちらの仲間を殺すだけでなく、遺体さえも使うなんてマジ最悪なんですけど!」


「彼女の次の狙いはデネボラ……貴女だそうよ」


「どえっ、うち!?」


 含みのある比奈乃の言葉にスピカが察し話しかける。


「次の狙いって……比奈乃様、まさか!?」


「ええ、カノープスがやられたわ。彼女は今、レグルスの眷属になっている……」


「そ……んな! カノープスまで!?」


「うわぁぁぁん! カノちゃんが、カノちゃんが死んじゃったの―――!」


「安心なさい。カノープスはただ悪魔に操られているだけ。主であるレグルスを倒せば元に戻るはずよ」


 その言葉に隊員達は苦悩する。

 レグルスの遺体に宿る悪魔を倒すということは、レグルス本人に攻撃するも同等であると。


(くっ、思考を切り替えろ! レグルスはもう居ない。これから目の前に現れるレグルスは敵なのだと!)


(ううっ、うちが狙いなのってヒーラーだからよね? 星々の庭園の内情を知り尽くしているレグルスなら考えそうなことだし……)


「カノちゃんを助けたいけど、レグルスちゃんに酷いことなんて出来ないの……ムジカ、どうしたら良いか分からないの」


 ニヤァ


 比奈乃は皆が思った通り苦悩する様を見て心の中で歓喜する。

 

(やったわ、これで味方同士の争いという悲劇的展開が迎えられる! この設定を思い付いたのはレグルスだし、きっと面白い結末を迎えることになるんだろうなぁ)


 それから1時間後……。


「やっと着きましたわ。カノープスも顔色が悪化していっておりますし、きっと内蔵にもダメージを? 早く、デネボラに回復術をかけてもらわなければ……あら?」


 普段なら開放されている門扉が固く閉じていることに気付くレグルス。

 鍵もかけられており開く様子はない。

 門扉の横に備えられている監視カメラに顔を近付かせ扉を開くよう頼むが反応もしない。


(どういうことですの? 監視室に人が居ない……なんてことはありえませんわ。あそこは常に3人体制で務めることになっておりますし)


「妾ですわ。今、帰りましたの。お願いだから開けてくださいまし―――」


 監視室でモニター越しにレグルスを確認したスピカは決心する。


(比奈乃様の仰った通りだ。髪と瞳の色が変化している。それにしても……悪魔めぇぇぇ! マスターと酷似した瞳に変化させるとは度し難き愚行! レグルスには悪いがその死骸に宿した悪魔もろとも討ち果たさせてもらうぞ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ