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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
139/263

乱入にて(其の参)

 武士達が男に追い詰められている時、美心はというと……。


(げっへへへ、なんたる幸運! そして、不幸な奴ら! 俺から目を逸らしたのがお前等の最大の失策だ!)


 皆が美心から目を離した瞬間、彼女は二条城の屋根に飛び乗り逃亡を図ろうと画策する。


(さて、ここからどうやって逃げるか? 騒ぎを聞きつけて武士が次から次へと集まってくる。あの正義ヅラ野郎に瞬殺されるとも知らずに……待てよ? それって……)


 美心はふと思いつく。

 ジャップ・ザ・リッパーとして男の前に姿を現し、正義の味方として武士達を助ける展開も良いのではないかと。

 ヒーローごっこは何度やっても実に爽快なものであることを美心は知り尽くしている。

 だが、問題は登場シーン。

 颯爽と格好良く華麗に登場するか、それとも豪快に力強く姿を現すか、もしくはそれ以外のパターンがないか美心は思考を巡らせる。


(くっ、どうすれば良い……颯爽と姿を現しモブから称賛の声を浴びせられる展開は何度も経験し少々飽きている。だが、派手な登場も場所が場所だ。力の入れ方を誤れば二条城の半分が消し飛んでしまう。何か……何か、格好良い登場の仕方はないか? 意外な方法でも良い……ここが最も重要な場面である以上、手を抜くわけにはいかないんだ!)


 パァン


「ぎゃぁぁぁ!」


 ドゴッ!


「うぐぅ!」


 バキッ!


「ひぃぃぃ!」


 武士達が次々とワンパンで倒されていく。

 美心は武士達の悲鳴など全く気にせず、登場シーンの設定を考える。

 

「くくく! 弱し弱し弱し弱し弱ぁぁぁし! 切り裂きジャップ以外など相手にならぬわ!」


「く、くそぅ! ジャップ・ザ・リッパー殿……我らでは敵わぬようだ。やはり援護を……ジャップ・ザ・リッパー殿?」


 武士の顔が青ざめる。

 美心が吐血した場所に残るのは血痕のみ。

 武士は切り裂きジャップが逃げるための囮にされたのではないかと錯覚する。

 

「……居ない……我らの英雄……ジャップ・ザ・リッパー殿は逃げた!?」


「な、な、な、なんだってぇぇぇ!?」


「くくく、切り裂きジャップに見捨てられるとは何と哀れな。プアーハラスメントとして俺が断罪してやる。貴様らは臆せず先に逝け」


「くそうっ、うわぁぁぁ!」 


 武士数人が一斉に男に斬りかかる。


「くくっ、最終手段が无駄亞悪ンダァオとは……なんと憐れか! 无駄亞悪は発動した者が必ず負ける諸刃の剣! 貴様らの死は確定した! 潔く俺の理威狩を受け入れるのだぁぁぁ!」


 武士達は死を覚悟し恐れず男を斬る。

 だが、その刃は男の肉を裂くこともなく目の前が暗闇に包まれた。


(拙者は死んだのか……くっ、なんと惨めな最後だったか。信じた者に裏切られ素手の維新志士に殺られるとは)


 しかし、何処か違和感を脱ぎされない武士。

 暗闇なのは自身が目を閉じているためだと気付き目を開ける。

 

「な……なんと……拙者は夢でも見ているのか!?」


 武士は隣で意識を失っている仲間の姿に安堵した。

 さらに辺りを見回すと謎の男が無惨にも切り裂かれ倒れている姿が目に焼き付いた。


「この斬り方はジャップ・ザ・リッパーの……そう……だったのか!?」


 武士は全てを察する。

 切り裂きジャップはただ逃げのではない。

 逃げたふりをし男の油断を誘ったのだと。


「逃げたと我らが騒げば自ずと敵も油断する。そこまで計算を見越して……敵を欺くにはまず味方からと言うが……ふっ、まんまと我らが彼に欺かれ最強の維新志士を討ち果たしたのだな」


 美心の姿は何処にも無い。

 武士は皆を起こし戦いで亡くなった者を弔い荒れた庭園を片付ける。


「そうか……俺達はジャップ・ザ・リッパー殿に助けられたのだな」


「裏切られたと感じた時は怒りで頭が真っ白になったが……」


「彼は未だに燻り続ける尊皇攘夷派と戦っているのだ。倒幕運動が収まり40年経った今でも……」


 武士が目を覚ます前……。

 美心は二条城の屋根で設定を考えていた頃、それは起こった。


 グゥゥゥ


「!!!」


 美心は辺りを見回し誰も居ないことを確認する。

 突如、自身の腹の音が鳴ったことを恥ずかしく感じたこともあるがそれだけではない。


(そうか、せっかく食べた昼食の蕎麦を吐いてしまったから……マズい、マズいぞこれは!)


 グゥゥゥ


 美心の腹の音は治まることなく鳴り続ける。

 空腹と腹の音が気になって正義のヒーローごっこどころではなくなる美心。

 

(腹が減ってはごっこ遊びはできぬ! 先に何でもいいから食べたい……だが!)


 ドゴッ!


「ぎゃぁぁぁ!」


 バキッ!


「ぐわぁぁぁ!」


 美心にも最低限のプライドというものがある。

 外食の際は必ずATMであるパパを捕まえ食事代を奢らせることが美心にとっての日常である。

 それをしくじり初めて自分の財布から蕎麦代を支払うことになった数刻前は正に美心にとって屈辱を受けた瞬間であった。

 再び同じ過ちを犯すわけにはいかない。

 例え眼の前で惨劇が起きていようとパパ渇は必須!

 屋根から北の丸太町通り、南の御池通り、西の千本通りを見る。


(何処かに良いATMは……むむっ! あいつは昨晩、高級料亭でたらふく食べさせてくれたパパ!)


 美心は即座に貢いでくれそうな相手を見つけ二条城の屋根から飛び降りる。

 急がなければパパを見失ってしまう。


「貴様らの死は確定した! 潔く俺の理威狩を受け入れるのだぁぁぁ!」


「急がなければっ……パパを……ATMを……見失ってしまう!」


 超高速で本丸庭園に集まる者に峰打ちを食らわし気を失わせる美心。

 食事の後で正義のヒーローごっこをする予定なので殺してしまう訳にはいかない。

 だが、男はそのような美心の都合など関係なく襲いかかってくる。


「くくく、味方もろとも无駄亞悪するとは貴様はやはり理威……ぶっ!」


 ドシャァ


「邪魔すんじゃねぇぇぇ! 俺のATMがぁぁぁ!」


 武士の刀も通らなかった男を手刀で惨殺する美心。

 常人が見れば男の横を美心が走って通り過ぎただけのように見えてしまうが、瞬時に100万回の手刀を男を浴びせている。

 そして、そのまま二条城を離れ丸太町通りでパパに声をかけた美心は……。


「おやおや、ちみは昨晩の? ほっほっほ、そこの茶屋で何か食べるかい」


「やったぁ、丁度お腹が空いてたところなの。パパ、大好き~」


「ほっほっほ、ワシも遅めの昼食のついでじゃ」


 見事、ATMことパパを捕まえ食事を奢ってもらうことに成功する美心。

 たらふく食べて満足な彼女はパパと別れた後、屋敷へと戻っていった。


 二条城近くのとある寺、そこに今回の騒動で亡くなった者が安置されている。

 深夜、皆が寝静まった頃……男の遺体がゆっくりと動き出す。


「くくく、俺が切り裂きジャップに理威狩されたと? 違うな、あれはノーカンだ。決してカウントハラスメントをしているのではない。ヤツの无駄亞悪に屈する程度の俺ではないことから証明しているに過ぎない……」


 ブツブツを独り言を放ちながら寺を後にし何処ぞへと去って行く。

 まだ、男との決着は付いていない。

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