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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
137/263

乱入にて(其の壱)

「……正義ヅラ野郎、約10年ぶりじゃねぇか」


 聞き覚えのある声が背後からする。

 レグルスは誰か1人でも生存者が居たことで安堵し、男に反撃を仕掛けようと目論む。

 だが、町人が倉庫扉を全開にしてしまったため倉庫に入る光量も多くなり、日が当たるだけで皮膚が焼けるように痛む。


(何故だが分からないけれど真夏の太陽以上に日差しが強い? これもあの男の仕業ですの?)


「くくく、切り裂きジャップか! 会いたかったぞ! ここにイヴィルハラスメントを犯した第一号まで現れるとは! 何たる強運! これこそ理威狩に従い続けた結果!」


「また訳の分からんことを……」


「くはははは! 理威狩バトル再開だ!」


 今までに見せたことのない笑みを溢し、男は目にも止まらぬ速さで第3者に攻撃を仕掛ける。


 ガキィィィン!


 男が動いたことでレグルスも視線を移すことが出来た。

 振り向くと、そこに居るのは左手に丼ぶりを持ち、右手で持つ箸で男の攻撃を受け止めている少女。

 星々の庭園のボディスーツを身に纏っており、目深のフードで顔は確認し辛い。

 だが、レグルスには分かる。

 太陽に光に反射する美しき赤い瞳……それは美心に他ならない。


(お義母様……お義母様が助けに……来てくれた? どうしてですの……はっ!?)


 レグルスは瞬時に気付いた。

 カノープスから伝えさせた今は耐えろとの言葉。

 そこから全てを察する。


(そういうことですのね。謎の男が悪魔教関係者というのは話の通じない時点で明白。きっと、お義母様も独自路線で悪魔教を追い男の存在を知ったけれど、男の居場所までは把握することが出来なかった。しかし、お義母様はあの男が妾をターゲットにしていることを何処かで事前に知った……そうか、だからこそのパパ渇! きっと、パパ渇で情報を手に入れたのですわ! なんという先見の明……。そして、男が妾に近付くのを待った。しかし、ここで予想外のことが置きてしまった。妾と男が相対する場所はお義母様の予想ではきっと東町奉行所だったはず! 妾が耐えきれずに脱獄なんかしてしまったから……お義母様の救出が遅れてしまい、カノープスは……なんてことですの! 妾の……妾のせいでお義母様の計画を崩し、カノープスは傷付けてしまった!)


 勘違いしていることなど勿論、レグルスは知らない。

 彼女は深い後悔の念に捕らわれ大粒の涙を流す。

 そして、同時に美心が助けに来てくれたことに歓喜し叫んだ。


「うっ、ううっ……お義母様……申し訳……ありません。お義母様、お義母様、お義母様! がんばえぇぇぇ!」


 美心が声のする方向を向く。

 レグルスを姿を見て美心は空いた口が塞がらなかった。


(えっ……誰? なんとなくレグルスに似ているが髪の色も瞳の色も違う……レグルスのそっくりさん? でも、俺のことをお義母様と言った……ああ、星々の庭園の新しいメンバーかな。俺だって全員の名を覚えていていないし。きっと、この辺りで潜入ごっこをしていたのだろう。カノープスが頭を地面に埋め込んでやられたふりをしているし……間が悪いことにこの正義ヅラ野郎に見つかり、いちゃもんを付けられたってところか。まったく、パパ渇中に近くでドンパチを始めやがって……おかげでパパに逃げられてしまったではないか! ATMであるパパに逃げられたせいでかけ蕎麦の代金を俺が払ってしまう羽目になってしまったんだぞ!)


 約10分程前……捕まえたパパに立ち食い蕎麦を奢らせ、いざ食べようとしたところに何かが降り落ちてくる音が近くで聞こえた。

 パパはその音が気になり美心を置いて倉庫の方へ行ってしまったのである。

 まだ、代金を支払っていない美心は蕎麦の代金を渋々支払いパパを追いかける。

 

(パパ渇で自身が金を払うなど禁忌に触れる一大事だ。俺が欲しいものはすべてATMに貢がせることが大前提なのに……あろうことかATMに逃げられるとは絶対にあってならないこと。そんで追いかけて来てみれば腹にでかい穴を空けて死んでるし……って、あいつは!?)


 美心は男の姿を見た途端、パパの事など脳内から一瞬で吹き飛んでしまった。

 

(このパパ渇の失態は全て貴様の仕業か! 舞香といい、この男といい……毎度毎度、俺の邪魔をしやがって……許さん、許さんぞぉぉぉ! 俺が蕎麦の代金を支払ってしまったこの恨み……果たさせてもらう!)


 パパ渇で初めての失策をしてしまったことを根に持つ美心は男に全ての恨みを男に押し付ける。

 肉片一片たりとも残さぬほどズタズタにしてやろうとジャップ・ザ・リッパーの姿に陰陽幻術で服装を変える。

 そして、登場シーンにもこだわり颯爽とレグルスの前に登場し今に至る。


 バキッ!

 ドゴッ!

 ズガガガガ!


 男の攻撃を全て足で受け止める美心。

 両手は丼ぶりと箸で手が塞がっている。


(早く……早く食べないと……蕎麦が!)


 男の攻撃を受け止めながら蕎麦が伸びない内に完食を目指す。

 だが、美心は苦戦していた。


 ドゴッ!


「くそっ、汁が……汁が溢れる! 俺が代金を払った蕎麦なんだ! 汁の一滴とも無駄にせず食いたいのに……くそぉぉぉ!」


 男の目にも止まらぬ速度で繰り出されるパンチやキックは普通の人間なら腹に穴が空くほどの威力である。

 それをすべて下腿で受け止めるとどうしても片足立ちになってしまい、バランスを崩してしまう。

 男は美心の様子がいつもと異なることに勘付く。


「くくく、焦っているようだな。そういうことか、そこで倒れている少女の命が気になるのだな! 安心しろ。奴はキャットハラスメントで死刑確定。貴様の後をすぐさま追わせてやる」


 バキッ!

 ドゴッ!

 ズガガガガ!


 レグルスは美心の戦い方がいつもと異なることに違和感を感じる。

 

(おかしい……お義母様なら攻撃を受け止めると同時に相手にカウンターを与えることも容易なはず。ずっと防御に徹して何かを狙っている?)


「にゃふぅ……いたたた。にゃっ!? 歯が折れてるにゃ!」


 カノープスが意識を取り戻したことによってレグルスは察した。


(そうか! お義母様はカノープスが目覚めるまで男のヘイトを自身に向けさせていた!? うっ、ううっ……お義母様が妾達を守るために……)


 レグルスと男の勘違いは続く。


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