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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
135/263

覚醒にて(其の壱)

 カノープスはとある考えが脳内をよぎる。


(このままにゃ、レグルスが息絶えてしまうにゃ……にゃにゃ? レグルスの死……比奈乃様のあの不気味な微笑み……にゃっ!? も、もしかして……比奈乃様はすでにそうにゃる未来を知っていたにゃ!?)


 未来など誰にも知り得ない。

 普通ならそのような考えに至ることなどない。

 だが、星々の庭園内で読まない者など居ないという美心の記したラノベ叡智の書。

 カノープスも他の者と同じように叡智の書を拝読していた。

 結果、美心の妄想の産物が現実に存在するものだと思い込み……。


(比奈乃様は未来予知ができる能力を持っているにゃ。叡智の書に書いてあった以上、絶対にそうだにゃ! あの御方は主の孫娘……猫でいえば血統書付き高級猫みたいなものだにゃ! にゃろとは違い、生まれた時から何らかの特殊能力を有しているだろうと思っていたけれど……予知能力者だにゃんて、隊員の皆がいとも簡単に取り込まれるのも当然だにゃ)


 今に息を引き取ってもおかしくないレグルスを見てカノープスは決心する。

 

(予知能力は未来を知る……レグルスの死は絶対に変えられないんだにゃ。ここでにゃろがどんなに頑張ってもレグルスは息絶える。だったら……ここに捨て置き……そんなことできないにゃ! にゃぁぁぁ!)


 カノープスは心の重圧に押し潰されるかのように悩み続ける。

 だが、時間は残酷だ。

 倉庫の外、御池通りが何やら騒がしい。


「まだ、脱獄犯は遠くに行っちゃいねぇ! この辺りを徹底的に探せぇ!」


「仲間がいる可能性も高い。決して、1人で行動するな。脱獄犯は凶悪な殺人鬼である!」


 多くの岡っ引きが出動してレグルスを探している。

 殺人など犯していないレグルスにまた新たな冤罪を着せ、悪魔教と何も関わりのない岡っ引きまで連れ、喪不子与力の指揮下で捜索を開始している。


(まずいにゃ。こんな倉庫に身を隠していても、すぐに見つかってしまうにゃ)


 予想通り倉庫前に来た岡っ引きが3人扉を開け倉庫内に入ってきた。

 

「なんでぇ? 米俵ばかり……郷倉か。うわっ、米俵が破れて米が零れ落ちてしまっているじゃないか。こんな杜撰な管理……一言、言っておくか」


「な、なぁ? 今回の件、おかしくないか? 凶悪な殺人鬼が脱獄したって与力が言ってたけどよ、そもそも監禁した奴を見張る仕事なんてあったか?」


「確かにそうだな。俺もここ数日は牢に近付いたことも無い。誰かを囚えていたら見張り番が必要なはずだ」


 3人の岡っ引きは今回の突然の出動に軽く疑問を持っていた。

 軽く倉庫内を見渡すだけで外へ出て行った。


(にゃふぅ……助かったにゃ。レグルスに大量の米をかけ身を隠しただけで誤魔化せたにゃ)


 レグルスの身を覆う米を払い何度か呼びかけるカノープス。

 目を閉じたままレグルスは呟く。


「お……腹……空……い……た……」


「レグルス、もしかして何も食べていにゃかったのかにゃ? 米にゃ! ここにいっぱいある米を食うにゃ!」


 炊いていない米をレグルスの顔に近づけるカノープス。

 だが、レグルスは自力で食べられるほどの力さえ残っていない。


(他ににゃにか……栄養価の高い食べ物……飲み物でも……そうだにゃ!)


 カノープスは自身の指先を深く噛み出血した指をレグルスの口内に入れる。

 

「血液は液体の肉と揶揄されるほど肉に近い栄養価だにゃ。にゃろの血を飲むにゃ」


 微かだがレグルスの舌が動く。


(にゃろの血を飲んでくれているにゃ……早く早く目を覚ますにゃ!)


 指先からの出血はすぐに止まりレグルスの空腹を満たすほどでは無い。

 カノープスは思い切って手首を切り裂き大量の血をレグルスの口内に注ぎ込む。

 イカれた行動だがレグルスを助けたい思い一心でカノープスは血液を与え続ける。

 カノープスはレグルスの命を助けたい一心のあまり忘れていた。

 カペラの報告にあったように日本人少女の血液が特別な意味を持つことを……。


 ガバッ!


「にゃ!? やったにゃ!」


 突如、レグルスが身体を起こす。

 何故か彼女の特徴的な桃色の髪から色素が抜け白くなっていく。


「血ヲ……モット……クダサイマシ……」


 レグルスはカノープスを軽く抱擁し囁き、首筋を軽く噛んだ。

 

「にゃあ、レグルス!? ちょっ……にゃぁぁぁ」


 少しの間、2人の間に沈黙が流れる。

 やがて、レグルスがカノープスの首筋から唇を離し一言。


「カノープス、助かりましたわ。このお礼はいつか必ず……」


 カノープスの眼の前に居るレグルスは髪の色が薄い桃色になり瞳の色も変わっていた。

 まるでルビーのように赤く美しい瞳、瞳孔が特徴的なそれは美心と同様の瞳であることにカノープスは気付く。

 

(レグルスが……主化したにゃ? レグルスが主と同じ存在に高まったということかにゃ?)


「どうかしまして?」


「にゃ、にゃんでもないにゃ。早く屋敷へ帰るにゃ」


「そうですわね。比奈乃様に話を伺わなければ……」


 レグルスは自身の変化に未だ気付いていない。

 何もなかったかのように自然と立ち上がり、カノープスと共に倉庫の出口へと足を運ばせる。

 そして、出口の扉を開けようとしたその時……。


 ドゴォォォン!


 何かが上空から降り落ち倉庫の屋根を貫通する。

 

「なっ……何が起きましたの?」


「くんかくんか……にゃっ!? 誰か居るにゃ!」


 コッコッコッ……


 煙が晴れるとそこに立っていたのはスーツ姿の男。

 サングラスをかけ現代的な見た目に明治の世では異色に感じる。

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