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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
133/263

誤解にて(其の壱)

 美心のスケジュールを管理する者が居ないため、徐々に春夏秋冬財閥で混乱が生じ始める。


「美心様は何処へお行きなさった? 本日の午後から大黒屋の商人と新事業について会合があるというのに……」


「えっ? 本日の予定ではカカシマヤ開店20周年記念パーティーが二条城で行われるはずでは?」


 事務室ではその影響が顕著であった。

 自由気ままな美心を扱えるのは今やレグルスのみ。

 一般の社員に美心が扱えるはずもなく、予定していたスケジュールをこなせない日々が続いていた。

 ドタキャンされたことによる会合者達の心象を悪くする出来事が連日続いていた。


「これ以上、商人達の心象を悪くするわけにはいかない!」


「というわけで比奈乃様! 今は貴女様にしか任せる手がないのです」


 事務員達に懇願される比奈乃。

 だが、彼女には学校がある。

 生徒会長をしている以上、家の仕事にまで手が回せるはずがなかった。

 そして、ふと比奈乃は気付く。

 あれから1週間、レグルスの姿を見ていないことに。


「レグルスは?」


「それが……ここ数日、何処にもおられないのです」


(レグルス……もしかして、死亡者扱いになったという演技を続けるため仕事を休んでいるのかな? 確かに春夏秋冬邸に居たら隊員達の目に着く。悪魔教との苛烈な戦いによって亡くなった設定である以上、隊員達から姿を隠すのは当然のことだと思うけれど……ごっこ遊びということはみんな知っている。流石に仕事をサボってまでごっこ遊びに浸るなんて許せないわ。私だって嫌なのに学校へ行ってごっこ遊びを我慢しているんだから!)


「私は仕事のことなんて分からないし、レグルスを連れてくるわ!」


「お願いします」


 比奈乃は足早にレグルスの私室へ行く。

 扉を開けると中には隊員が3人。

 

「うっ、うっうっ……レグルスぅ」


「レグルスちゃん、居なくなっちゃったの」


「ふにゃぁ……にゃんでにゃろがこんなことを……」


「デネボラ、ムジカ、カノープス……貴女達、何をしているの?」


 3人はレグルスの遺品を整理していた。

 デネボラが2人を誘ったのだと言う。

 比奈乃はそれを知り深く感動する。


(大切な仲間の死を乗り越えるために必要な遺品整理。地味なシーンだけど、これはこれで良い! 3人が互いに抱き締め合い号泣する展開なんて尊すぎるわ! レグルスはここには居ないみたいだし、3人と一緒に私もやろうっと)


 比奈乃は事務員との約束などそっちのけでごっこ遊びに勤しむことにした。

 すでに彼女の脳内では泣ける展開にどうやって3人を導くのか設定を作り込んでいく。

 黙々とレグルスの持ち物を箱に詰めていく3人。


「あ……これって……うちが幼い頃にレグルスへプレゼントしたブローチ……大切に持っていてくれていたんだ。レグ……ルス……う……うわぁぁぁん!」


「デネボラちゃん、そんなに泣くとムジカも……悲しく……なっちゃうの……うえぇぇぇん!」


(良いっ! 涙腺の弱い2人がする遺品整理イベント、悲しみがじんじんと伝わってきて尊すぎる!)


 自ずと表情が緩む比奈乃は口を開くことを我慢し黙々と遺品整理を続ける。

 下手に話すとニヤケ顔で場の空気が台無しになってしまうためである。

 

(比奈乃様までどうしてレグルスの私物を片付けているにゃ? にゃろとムジカ以外では主と比奈乃様だけがレグルスの生存を知っているはずにゃのに……まさか、主以外ではにゃろとムジカだけしか知らない!? 何故にゃ……比奈乃様にまでレグルスが亡くなっていることにする理由……主の偉大なる考えなどにゃろの小さい頭では理解できるはずがにゃい。ここは大人しくするのが正解だにゃ)


 美心から勅命を受けたカノープスは寄宿舎へ帰った後、レグルスが何故か亡くなったことになっていることに疑問を持っていた。

 隊員の誰かに聞こうと考えたが、レグルスの生存と居場所を何故カノープスだけが知っているのか追求されるのが嫌だったため黙認することにした。

 

「なんで……なんで……帰ってきたらレグルスちゃんが死んでいたの? ムジカ、もっと話したかったの―――!」


「にゃ!?」


 号泣するムジカを見て驚くカノープス。

 だが、彼女はすぐに理解した。


(おつむの弱いムジカだにゃ。この1週間で周りの言葉に影響を受け続け、遂にはレグルスが本当に亡くなったものだと信じて疑わなくなってしまっているにゃ!)


 呆れを通り越し急激に疲れた感覚に陥るカノープス。

 彼女は1人、部屋を出て去っていった。


「カノープス、あの子のあんなに辛い表情を見るのは始めて……」


「カノちゃんは涙を誰にも見せたくないの。きっと、トイレに行って思い切り泣くつもりなの。待っていてあげるの」

 

(これはこれで良い! カノープスはツンデレ属性がかなり強いキャラ。誰にも見られない場所で1人、涙を流すなんて……分かっているわね! 尊い!) 


 比奈乃も表情筋が自ずと緩むことに耐えられなくなり、部屋を飛び出してしまった。

 そして、今まで耐えていた表情筋が一気に緩む。


 ニヤァ


「んもぅ! あの子達、可愛すぎるよぉぉぉ! レグルスが亡くなった設定でここまでしてくれるなんて! あはははは、尊すぎてもう笑いが……あは、あははははは!」


 今にも尊死する勢いで顔を真っ赤にしニヤける比奈乃。

 両手で顔を隠すも笑みが溢れて見える。

 それを天井裏からうっかり目撃してしまうカノープスは恐怖で身が凍えた。


(比奈乃様がレグルスの死をあんなに喜ぶにゃんて……仲間の死にあの喜びよう……まるで悪魔……はっ!? も、もしかして……比奈乃様は……そうか! 主の考えが何となく理解できたにゃ! レグルスの生存を孫にまで隠す理由……もしかして、比奈乃様は悪魔教信者かもしれないにゃ!?)


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