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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
131/263

設定にて(其の弐)

 深夜、空腹で目が覚めた美心は寄宿舎の食堂へ向かう。

 この時間、専属の料理人も就寝中であるため24時間稼働している星々の庭園専用の食堂で遅い目の夕食を取るためである。


「あの子達も既に眠っているか。ま、たまには1人で食事というのも悪くない」


 ビュッフェ形式になっているため山盛りに料理をプレートにのせていく。

 食事中に聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「にゃふぅ……やっと帰ったにゃ」


「遅くなっちゃったの。ムジカ、朝から何も食べてないの。お腹ペコペコなの」


「ムジカが山陽道を大きく外れ迷ってしまったからだにゃ!」


「だって、だって、カノちゃんが近道したいって言うからなの」


「言い訳するにゃ! このっ、このっ、脂肪袋ばかり大きくにゃって!」


「ひゃぁぁぁ! カノちゃん、おっぱい叩かないでほしいの」


 美心が冷ややかな目で2人の戯れを見つめる。

 

(何やってんだ、あいつら? そう言えば、カノープスとムジカは薩摩藩に潜入捜査をしているとレグルスが言ってたな。ごっこ遊びで薩摩藩まで行くとは……さぞかし美味いものでもたくさん食べたのであろう。なんて、羨ましい)


「主だにゃ!」


「あっ、マスター!? し、失礼しましたなの! お食事中に……」


「いや、気にするな。2人は今、戻ったのか?」


 カノープスは美心の隣に座り美心の皿から料理を取り口に運ぶ。

 美味しそうに食べながら硫黄島での調査内容を報告する。


「ものすごく巨大な船の中で悪魔教の幹部とやらに出会ったにゃ。Bと呼ばれていた女性の正式名はおそらくずん。舞香様とやらをずっと心配していた様子だったにゃ」


 美心にはどちらも聞き覚えのある名である。

 

「舞香とずん……なるほど、そういうことか」


 全てを理解したかのような表情に2人は安堵する。


(流石だにゃ。敵の名を報告しただけで主は全てを悟ったにゃ)


(マスターはやっぱり全知全能の女神様なの!)


 これ以上の無用な報告は必要ないと感じたカノープスは席を立ち、美心にレグルスの居場所を尋ねる。


「レグルス? 自室に居なかったのか」


「任務から戻ったらレグルスちゃんに報告する規定なの。でも、何処にも見当たらなくて……」


 ふと美心の脳裏に昼間の出来事が思い浮かぶ。

 

(そう言えば、舞香が言ってたな。レグルスを奉行所で監禁していると……嘘だと思っていたが本当に居たら……俺が見捨てたと思われちまう! そんなのは駄目だ。どうする? ここに丁度、隊員が2人居るし……げへへ、そうだ。隊員は全員ごっこ遊びが大好き。適当な命令でも言ってレグルスの下へ向かわせれば……くくく)


 美心は冷や汗をかきながらも近くに居る隊員2人に悟られぬよう冷静を保ち、星々の庭園のマスターとして演技をする。

 

「レグルスか。あの子は今、奉行所に捕らわれている。とある冤罪にかけられてな……くっ、こんなことになってしまうなんて!」


 悲しむ美心の姿を見てカノープスは察する。


(主が泣いているにゃ。レグルスほどの腕の持ち主が捕まるにゃんて……主が傷付くのも当然だにゃ。主のためにゃらにゃろは何だってやってやるにゃ!)


 同時にムジカは驚愕し慌てふためく。


「た、大変なの! 早く助けてあげないと報告が遅れて怒られてしまうの! レグルスちゃんのお説教は長くて眠くなるの! 早く、早く脱獄させて報告……あれ、でも脱獄って罪なの。あわわわ!」


「ムジカ、主の前だにゃ。最後まで話を聞くにゃ」


「し、失礼しましたなの」


 美心はカノープスとムジカの2人に命令する。

 

「カノープスは東町奉行所に、ムジカは西町奉行所に潜入し、捕らわれているレグルスに我の言葉を伝えるのだ。伝えるだけで良い。決して、脱獄を手引してはならぬ。良いな!」


「主の勅命、たしかに受け取りましたにゃ!」


「早く見つけて帰還報告するの!」


 2人は体力が限界を迎えながらも崇敬する美心の命令に逆らうことは無い。

 

「主、それで何と伝えれば良いにゃ?」


「くくっ、今回の過ちはレグルス自らが招いたこと。俺は微塵も悪くない! だから……そうだな……もし裁判になったら論破してみせろ。それが無理なら耐えてみせろ。そう伝えるだけで良い」


「了解しましたなの!」


「やってやるにゃ!」


「今夜の任務はシークレットミッションだ。誰にも口外してはならぬ。良いな」


「主の勅命なんて誰もが望む大役だにゃ。自慢なんて絶対しないにゃ!」


 2人は最後の力を振り絞り食堂から去っていった。

 

「ふっ、これで俺は無責任な奴では無くなった。後はレグルスだけでなんとかやれるだろう。例え奉行所に捕まっていたとしてもあの子なら脱獄など簡単なこと。俺とレグルスの関係を知らない奉行所の役人はただの娘が逃げたと推測し、関所に検問を設ける程度だろう。数ヶ月ほどレグルスには屋敷から出てもらわなければ万事解決! よぉし、早いとこ食事を済ませて風呂で寛ぐとしよう! うん、そうしよう」


 微塵もレグルスを心配することなく美心は食事を続けた。

 その後も快適な時間を過ごし再び眠りに就く美心。

 一方、美心の言葉を伝える任務が完遂したカノープスはムジカと合流し屋敷へ戻った。

 今夜の出来事は他の隊員、誰一人として知ることはなく1週間が経過する。

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