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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
130/263

設定にて(其の壱)

 清水寺をうっかり破壊してしまったその日の夕、美心は比奈乃を抱き締め号泣していた。


「お、お婆ちゃんどうしたの?」


「良かっだぁぁぁ! 本当に本当に何も無くでぇぇぇ!」


 比奈乃は今回の事件についてまったく知らない。

 そして、大好きな祖母の号泣する表情……すぐに何らかのごっこ遊びをしているのだろうと予想する。

 泣き疲れ眠りこけてしまった美心を起こさぬよう部屋から出て寄宿舎へ向かう比奈乃。

 自身も星々の庭園の幹部の役になりきり近くに居た隊員に声をかける。


「スピカ、少し良いかしら?」


「はっ!」


 数日前、夜更けに悪魔教との小競り合いがあったのは比奈乃も聞き及んでいる。

 恐らく今回のごっこ遊びも悪魔教という大勢のエキストラを使ったものだと信じて疑わない比奈乃。

 因みに彼女はシリウスの報告から初めて知った悪魔教という存在もシリウスが考え出し美心が採用した設定の1つだと思っている。

 今までごっこ遊びで出てきた悪役の設定の中で最も巨大な組織である悪魔教を比奈乃は待ち望んでいた。

 悪役は巨大なほど壊し甲斐があるためである。

 

(きゅふふ……あのお婆ちゃんの泣き演技からして星々の庭園の庭園の誰かが悪魔教に殺られたという設定なんだわ。尊い仲間が倒される展開も悪の巨大組織相手なら最早必然の設定! さて、誰が殺られたのか私も悲しい気持ちを堪えて聞く演技をしなければ……)


「マスターが自室で物思いに耽っていたわ。あの様子は尋常ではなかった。誰が犠牲になったの?」


「犠牲……ですか?」


 スピカは悲しい目をして話しかける比奈乃の表情から全てを察する。

 

(そういえば、レグルスが朝に外出してから一切の音沙汰がない。まさか……レグルスが何者かに襲われ甚大な被害を負った!? 比奈乃様とレグルスは共にマスターのお世話をなさっているのは星々の庭園で知らない者はいない。学園から帰ってきてレグルスが居ないことに悲しむ比奈乃様はそれに気付き……そうだ、そうに違いない!)


「言葉にするのは辛い? でも、教えて。一体、誰が犠牲に?」


「レグルスが今朝から音沙汰がありません……」


 その名前を聞いた瞬間、比奈乃は歓喜した。


(レグルスですって!? てっきりモブ役に近い隊員が退場したのだと思っていたけれど……まさかのネームドが退場するなんて! お婆ちゃん、悪魔教という相手はそれほど強大な相手だということを皆に知らしめようと設定に盛り込んだのね!?)


「レグルスが……まさか、そんな!?」


 比奈乃が悲しむ様子を悟ったスピカは彼女の優しさが美心と同等の慈悲の持ち主であることを理解する。


「比奈乃様! 某らはどうすれば!?」


 比奈乃はスピカの焦りから彼女の感情を読み取った。


(レグルスが悪魔教に殺られたという設定に怒り心頭なのね……当然だわ。結成当初からお婆ちゃんと私のために尽くしてくれたレグルスが居なくなったという設定だもの。でも、ここで感情に任せて悪魔教を襲撃してしまうのは3流のごっこ遊びですること。今はその怒りと悲しみを胸に秘め奴らの小さな拠点を確実に減らしていくのが良いわね)


「そうね……すでに作戦は考えてあるわ。そのためには貴女達星々の庭園が必要。戌の刻、皆を大講堂に! 詳しい話はその時にするわ!」


 スピカに皆を集め緊急招集させるよう指示する比奈乃。


「皆……ですか?」


(星々の庭園全メンバーが必要だなんて……各地に散った隊員を集めるのに何ヶ月かかる? それを戌の刻までに……無理だ)


「時間は残酷にも刻一刻と過ぎていく……我々、星々の庭園(スターガーデン)より非情なのよ、時間というものは」


 そう言い放ち寄宿舎を離れる比奈乃。


(宿題を早く済ませないと……うっかりごっこ遊びの役に入り浸ってしまうと時間を忘れてしまうのよね。それに明日も生徒会の仕事がたくさんあるし。んもう、こんなに楽しそうな展開に参加出来ないだなんて! せめて、皆に楽しんでもらうために熱い展開を考えないと!)


 単に翌日も学校があることを面倒に思い、早く宿題を終わらせごっこ遊びの続きをしたい気持ちが漏れ出していただけであった。

 だが、スピカには彼女が急いでいるように見える原因をはっきりと理解《誤解》できていた。


(流石は比奈乃様だ。この僅かな時間からレグルスの救出作戦を既に導き出していたとは! 比奈乃様の慌ただしいご様子から察するにレグルスの身が危険なのは確実。時間が無いに等しいとも言っていた。それほどまでに絶望的な状況にレグルスが追い込まれていたとは……某は何故、今に至るまで気が付かなかった!? こんなだからシリウスのように悪魔の1体もまともに倒せん体たらくなのだ! この好機、絶対に逃してはならん。比奈乃様の命に忠実に従い某も!)


 そして、戌の刻……大講堂に集まる隊員達。

 大半がまだ幼い新メンバーであった。

 古参メンバーはスピカとデネボラ・コペルニクスのたった3人。


「比奈乃様、各地で任務に就いている隊員を集めることが出来ず申し訳ございません」


「ちょっと、ちょっと、レグルスが激ヤバでマ!?」


「2人共、比奈乃様の御前……五月蝿い」


「貴女達、聞きなさい。我々、星々の庭園を幼少期から支えてくれたレグルスが亡くなったわ」


「「えっ!?」」


 その無情な一言に隊員の多くは驚愕し呆気に取られてしまう。


「相手は憎き悪魔教……最後の姿を見たのはマスターただ1人。彼女は命尽き果てるその瞬間まで奮闘したそうよ」


(レグルスが……もう……居ない?)


「嘘だ! そんな……そんな!」


「マスターがこの場に居ない理由……皆も分かるでしょう」


(マスターはあまりの悲しみで動けない!?)


 レグルスが本当に死んだのだと理解した瞬間……皆が皆、取り乱した。

 号泣する者、怒りに打ち震える者、未だに実感できず戸惑う者など様々であった。


「わぁぁぁん、レグルスお姉ちゃぁぁぁん!」


「レグルスお姉様が……ううっ!」


 講堂内が悲しみに浸る頃、美心は昼の疲れで爆睡していたことなど隊員は知る由もなかった。

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