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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
129/263

清水にて(其の弐)

 美心はふと思う。

 舞香の家臣であるアンバーをうっかり消したことを謝罪しても、それだけで終わらない。

 なぜ、ここに舞香が居るのか。

 それは拉致された比奈乃の命を彼女が握っているためである。

 言うことを聞かなければ可愛い孫娘を殺される。

 悪魔教徒は教祖である舞香の言う事なら何でも聞く。

 惨たらしく八つ裂きにし比奈乃の血液でさえ賢者の石の素材にするだろう。

 勿論、すべて美心の妄想である。

 

「ど……どうして痛しの君が磨呂に平伏すのですぅ? 平伏して踏まれたいのは磨呂なのですぅ! 早く立ち上がって磨呂を……磨呂をこれでもかと踏んづけてくださぁぁぁい!」


(こ、こいつ……踏まれたことを口実に俺を有罪にするつもりだな!? なんて悪辣な……そんなあからさまな罠に乗るわけないだろ! だが、言う事を聞かなければ比奈乃が……ぐぅ、どうすれば良いんだ!?)


 舞香の言葉が嘘八百だと信じて疑わない美心は地面に頭を付けたまま土下座を止めようとしない。

 そんな美心を見て悪魔教徒の1人が言葉を放つ。


「きゃははは! 星々の庭園のメンバーの1人、レグルスは薄暗い牢屋の中! ミストレス様のお言葉1つで奴は笞打・石抱責・海老責・釣責とありとあらゆる拷問の後、磔で火炙り、更に遺体を斬首で晒し首だ。ざまぁ、ざまぁ、ざまぁぁぁ!」


「佛問!」


「し、失礼いたしました! ミストレス様」


 舞香はすっかり忘れていたことを思い出したかのように美心に話しかける。


「コホン……貴女が拾った娘の1人であるレグルスはとある奉行所で預かっています。佛問が口を滑らせてしまいましたが、すでに奉行と与力は買収済み。磨呂の指示1つでどのような刑も実行できます。どうですか? 磨呂の言う事を潔く聞いてくれるなら釈放も簡単でしょう」


(何故、レグルスの名が出てくる? あいつがそう簡単に捕まるはずがない。嘘だな……舞香め、攫ってもいない者を如何にも囚えたかのように言いやがって!)


 何故、比奈乃以外の名前が出てきたのか。

 レグルスが捕まったなど到底考えられない。

 美心は嘘を吐き続ける舞香のことなど微塵も信じていなかった。

 

「比奈乃は……比奈乃は何処にやったんだ!?」


「えっ? 痛しの君のお孫さん……知りませんが」


 拉致計画を立てた張本人が知らないはずもない。

 口からでまかせばかり言う舞香に対し、美心もそろそろキレかけていた。

 だが、迂闊に手を出すことなど出来ない。

 何処で幕府の者が見ているか分からないためである。


(比奈乃を拉致したことを隠すなんて……何を考えている!? こうなりゃ!)


「う、ううっ……比奈乃だけは……比奈乃だけは助けてほしい」


 ならばと最後にやってみせたのは美心の特技、泣き落とし。

 男性相手ならば成功率100%であるが女性には効果が無い場合もある。

 美心のこの行動はもはや賭けであった。

 幼い頃から同じ学園に通っていた舞香には通じるかもしれない。

 通じなくても周囲にいる悪魔教徒の誰かがかかってくれれば道が拓けるかもしれない。

 だが、悪魔教信者は性格がネジ曲がった者ばかり。

 結果は……。


「あ、あの春夏秋冬美心が涙を!?」


「ぎゃははは、こりゃ良い! よほど悔しい思いをしているのだろう」


「ざまぁぁぁ!」


「もっと泣き喚け! すべての女の憧れであったあの方を誑し込んだ雌豚め!」


「ミストレス様、こいつの着物も剥がし取りねぇよ男性にしてやりましょう!」


「家畜以下の扱いを一生してやるわ! 貴様の食事はこれから毎日、あたしらのうんこだ!」


「きゃはは、きったなぁい」


「ついでに飲み物は小便で良いんじゃね?」


「ぎゃははは、ウケるぅ」


 調子に乗った悪魔教徒達は美心にこれでもかと罵詈雑言を浴びせ続ける。

 

(あっか―――ん! こいつら、誰一人として涙を流す女性から同情を買う素振りさえ見せねぇ! むしろ、隙を見せたら全力で襲いかかる野獣の如き口撃をしてきやがる!)


 そして、美心の前に立つ舞香は全身を小刻みに震わせてこう言い放つ。


「な、なんで痛しの君が罵られているんですかぁ!? やだやだやだぁぁぁ! 磨呂も罵られたいですぅ! 痛しの君ばかりズルいですぅ!」


 幼児退行したかのようにその場で倒れ込み手足をバタバタとさせる。


(舞香、お前は泣き喚くのかぃ! 駄目だ……こいつらに無駄な時間ばかり奪われていく。俺は比奈乃を助けたいだけなのに!)


 そもそも、比奈乃は攫われてもいない。

 そのことに気付くことなく時間だけが過ぎていく。

 美心はこのカオスな状況を打つ手が無かった。


 ニチャア

 

「良いことを思いついたわぁ。その比奈乃とやらも拉致して、ねぇよ男性にしてやんよ。そいつの食事もわたくし達の汚物! ぎゃははは、ほらほらほら! もっと泣いて詫たら気が変わるかも知れないわよぉ?」


 調子に乗り過ぎた悪魔教徒の1人、佛問が誰も思いがけない提案を発する。

 その言葉を放った瞬間の出来事であった。

 空が厚い雲に覆われ雷鳴が鳴り響く。


「な……なんだ? 突然、空が!?」


「夕立かしら?」


 ゴゴゴゴゴ……


 空気が振動している。

 振動は徐々に大きくなり、やがて真空の層を発生させるに至る。


「痛っ!」


「何よこれぇ!? いつの間にこんな傷が!?」


 その場に居た悪魔教徒の身体にまるでかまいたちが切り裂いたかのような切り傷が付いていく。


「ぎゃあああ、あたしの指がぁぁぁ……」


「一体、何が起こっているのよぉぉ……あら……え?」


 真空の層が発生した場所によっては気が付くと指を切り落とされていた者、身体と頭が離れている者と、その範囲は徐々に広がり周囲は血の海へと変わる。


「あああっ、痛しの君! やっと、その気になってくれたのですぅ! 磨呂の身体にも極上の傷を加えてくださぁぁぁい!」


 舞香は嬉しさの余り絶頂し、その場で気を失ってしまう。

 この現象を起こしたのは美心の怒りに打ち震える身に空気が反応した結果であり、その怒りを招いたのは佛問の言葉である。


「貴様らぁぁぁ、俺の孫娘にうんこを食わせたのかぁぁぁ!」


(うんこの致死率は25%! ミス◯ちゃんねるで俺はその事実に驚愕したのを覚えている。そんな危険なものを比奈乃に食わせるとは正に悪の所業! 絶対に許さんぞ、外道共ぉぉぉ!)


 いつもながら早とちりに言葉を捉えてしまう美心の怒りによって、空気の振動は清水寺全体を覆い本堂を木っ端微塵に破壊してしまった。

 修理費5億、死者23名……突如として起こった清水寺の消滅は神の神罰が降ったのだと日本中に噂が広がったのだとか。

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