カペラ⑨
あれから3か月、拙は蝦夷地で新しい生活を始めました。
毎晩、京都に居るレグルスと陰陽術式無線でお話をしているので寂しくはありません。
それに函館近くにはアイヌの集落があり、ほぼ毎日足繁く通っています。
美味しい料理を頂き、拙の知らない狩りの知識などを身に着けることができました。
充実した生活の中で唯一気がかりなのはお義母様が去る間際に言い放った比奈音様を落とせという言葉。
その言葉の意味を1か月程度考えましたが、さすがに比奈乃様の母君を手に掛ける訳にはいかない。
お義母様もそういう意味で言った訳では無いことは2人の仲を知り理解できます。
拙はお義母様の言葉の意味を考えに考えましたが、最終的には今は気にしないことにしました。
もし、比奈音様が聖欲に駆られ拙の聖剣を奪おうとしてきたならば拙も自身の聖欲に従おうと思います。
「従業員の皆さん、明日からいよいよカカシマヤ松前藩店がオープンします。103号店でやっとこの北の大地に店を建てることが出来て私は本当に嬉しいです。お客様の多くは武士階級のお侍様やその奥方様が予想されるでしょう。マニュアルに従い適切な対応を……」
この聖域で働く者の多くは春夏秋冬財閥が募集し難関な入社試験に合格した優秀な者ばかりです。
何処かの武家屋敷や商家に雇われていた元女中や元下女が多く、拙は特例中の特例みたいです。
「さぁ、頑張るわよ―――!」
「明日のためにも今日は掃除を念入りに」
オープン前日となる本日は拙と従業員のみんなで開店準備を進めていきました。
そして、夕方。
従業員の皆さんは仕事を終え寮へと戻りました。
拙は1人残り店舗内の確認のため各階層を見回ります。
というのは口実で地下深くにある実験室へ向かいました。
何故、百貨店の地下にこのような部屋が存在するのか、全てはお義母様と比奈音様にしか分かりません。
拙は偶然、この部屋を発見し見たこともない伽羅倶梨に魅了されました。
遠心分離機に加熱冷却機器・様々な計測系など、どれも普段の生活では役に立たない伽羅倶梨ですが拙には分かります。
未知の物を発見するには必要な機材です。
ここでならば乳トロンジャマーを確実に作れる……拙は確信を持って研究を続けました。
「そろそろ帰ろう……」
夜遅くに寮へと戻り夕食を済ませた後、拙は自室に入りました。
「ふぅ、カペラくん……また研究室に籠もっていたでしょ? 貴方はまだ成長期なのだから夜遅くまでの行動は控えてね」
何故か比奈音様が拙のベッドの上に座っています。
それもバスローブの姿で……当然、拙は警戒しています。
「比奈音様……ご、ごめんなさいでありんす」
拙は頭を下げ比奈音様に謝りました。
何事もなくこの部屋から去ってもらえれば問題はありません。
拙は比奈音様と目を合わせることなく室内に入り部屋着に着替えます。
大丈夫、ここは拙の部屋です。
比奈音様が建てたとは言え拙のプライベートルームであることは明白。
いつもと同じように上着を脱ぎハンガーにかけ、次にスラックスを……。
「ねぇ、カペラくん。貴方、もしかしてだけど女性が怖いの?」
比奈音様の言葉の意味が分かりません。
女性が怖い?
拙は女性が怖いのではありません。
それならば、女性である拙自身が怖いことになってしまう。
拙が恐れるのはおっぱいのみ。
ムジカちゃんやこれから大きくなるであろう仲間達だけは別だと思いたいけれど、巨乳の持ち主は永久機関を武器に聖欲が発動すると野獣も同然の存在になる。
それも聖剣を持つ拙だけを相手に……これ以上に恐ろしいことはない。
拙は着替えを続けながら比奈音様の質問に答えます。
「女性ではなく……そ、その……あれ?」
スラックスを脱ぎ終えた後、ベッドに目をやると比奈音様の姿が忽然と消えています。
チュパ……
拙は一瞬、思考が停止してしまいました。
なんだか、拙の聖剣がぬるっとした感触に覆われている?
拙は恐る恐る目線を下に向けました。
すると、拙の聖剣の柄を比奈音様が握り口に含んでいる姿が目に映りました。
「んふふ……やっぱり、うちの夫より比べ物にならないくらい大きいわぁ。こんなの見たらもう我慢できないじゃない? 明日から忙しくなるし今夜は特別に……ね?」
比奈音様の仰る意味が分かりません。
それよりも拙の聖剣を口に含んだということは……食べられる!?
「ひっ!」
「大丈夫、比奈乃のためにも私が味見しておいてあげるだけだから……」
拙は恐怖で腰を抜かし、その場で座り込んでしまいました。
その間にも比奈音様は拙の聖剣を手で擦り舌で舐め回します。
拙は必死に比奈音様の頭を遠ざけようと手で押しますがまるで掃除機のように拙の聖剣を吸い込んで離れません。
「ひ、比奈音様……」
「んふふ、安心して。私が優しくヌいてあげるから……」
抜く!?
拙は比奈音様の言葉に悩みました。
拙がどれだけ聖剣の柄を引っ張っても剣が抜けることはありませんでした。
それを比奈音様なら抜けるとでも言うのでしょうか?
いいえ、確実に抜けるからこそ、このような行動に出たのでしょう。
聖欲に突き動かされた比奈音様を手に掛けるわけにもいかず、拙は鞘から抜ける剣を見るまで耐えることにしました。
ですが、やはり怖いです。
その恐怖とともに聖剣の柄も大きくなっていきます。
「しゅ、しゅごいぃぃぃ! まだまだ大きくなるなんてぇぇぇ♡」
拙でも驚きました。
これほどまでに熱く太く肥大化した柄を見たことがありません。
そうか……拙はやっと理解できました。
今こそ待ち望んだ聖剣が抜ける時なのでしょう。
変な感覚が拙の全身に満ちていくのが分かります。
ドクン!
「あはっ、いっぱい出たぁ♡」
???
拙の聖剣の柄の先から何かが出る感覚。
おかしいです。
聖剣が拙という鞘から抜けたわけではありません。
比奈音様が口を開いて拙が出したものを見せた時、拙は絶望しました。
ドロッとした液体です。
拙はその液体が何なのか考えに考え抜き1つの理論にたどり着きました。
柄が熱くなりすぎ、その熱で剣の部分が溶けてしまったのだと……。
そうです。
もう、聖剣は聖剣ではなくなってしまっていたわけです。
剣の無い柄だけの聖器など何の価値もありません。
それはつまり拙の価値もなくなったのと同等。
「さぁて、それじゃ……その巨根をこっちにも……」
比奈音様がバスローブを脱ぎます。
拙は比奈音様のたわわなおっぱいを見て戦慄しました。
もはや限界でした。
おっぱいは核融合炉……あまりにも恐ろしい代物です。
とても勝ち目などありませんし、その場で耐えることもできません。
「うわぁぁあぁぁぁ! おっぱい怖い! おっぱい怖い! おっぱい怖いぃぃぃ!」
拙は恐怖に取り憑かれ無我夢中で走り寮を飛び出しました。
そして、暗闇の蝦夷の大地を無心に駆け抜けました。