カペラ⑦
あれから拙はパッド入りブラを常に装着して生活しています。
たまに気配を消し背後から胸を掴もうとする仲間が居るため、常に周囲を警戒していなければなりません。
それは勿論、寝る時もです。
同室のカノープスちゃんがたまに恨めしそうに拙の胸も睨むようになったためです。
「何故、にゃろより先にカペラの方がおっきくなるにゃ!」
「まぁまぁ、カノちゃんだってきっと大きくなるの」
「このっ、このっ! 脂肪袋は黙っているにゃ!」
「ひゃぁぁぁ! カノちゃん、何度もムジカのおっぱいを叩かないでほしいの!」
そのおかげなのか拙は周囲に舞う細菌の気配さえにも気付けるほどの警戒心を取得しました。
すべて、お義母様の計算通りなのでしょうか。
拙は確実に強くなっています。
これなら核融合炉を内蔵しているおっぱいを装備しなくても……いいえ、安心はできません。
乳トロンジャマーも毎晩欠かさずに作ろうといろいろ試していますが、やはり自分で一から開発するのは困難を極めるようです。
………………。
シリウスちゃんやリゲルちゃん・プロキオンさん・ベガちゃんの4人が日本を去りはや3ヶ月。
「カペラ、シリウスちゃん達が居なくなって寂しくない?」
スターズ改め星々の庭園の仲間は各藩へ潜入し調査任務しているため顔を合わせる機会が少なくなりました。
今、寄宿舎に居るのは拙と同じヒーラーであるデネボラちゃんとお義母様の側付きとなったレグルスちゃん。
他はお義母様が日本中から新しく連れてきた子ども達が大半です。
拙達が1期生だとすると2期生や3期生といったところでしょうか。
不幸な生い立ちを持つ子ども達に同情しつつも、拙は無能な娘を演じる必要があります。
後輩達に立派な姿を見せ憧れられてはならない……目立たないように行動するのは大変です。
ある日のこと。
「カペラ、早速だが松前藩に向かってくれ。比奈音がお前を所望していてな……」
それは唐突でした。
拙が初めて京都を離れる日がやってきたのです。
行き先は蝦夷地。
あまりにも遠隔地であるため一度向かえば、そう易易と帰ってはこられないでしょう。
拙は悩みました。
いずれやって来る制裁戦争に勝てるため色々とすべきことがあるためです。
「マスターのご命令とあらば……ですが、戦争の準備で拙は少々難航しておりまして……」
「戦争?」
お義母様自身が仰った制裁戦争を覚えてなさらないのでしょうか?
それとも、拙がただ制裁戦争を心配しすぎているだけなのかな?
「はい、制さ……」
「くっくっくっ、そういうことか。今、幕府内で御前会議が開かれている。その内容をお前は知っているのだな?」
拙は幕府の内情など全く興味がありませんし知りません。
しかし、突然お義母様の口から放たれた幕府という言葉。
拙の先程の戦争という言葉と結びつけると結論は簡単に導き出されます。
「ま、まさか……幕府内で戦争が!?」
制裁戦争は何も自分の周囲で起こるとは限らない。
江戸には恐らく拙と同じ聖器を持つ者がおり、おそらく将軍様だと思いますが今まさに聖欲で野獣と化した人間達から襲撃を受けている最中なのでしょう。
大奥……混沌と化した場所だと叡智の書に書いてありましたが、なんてことでしょう、将軍様だけで相手に勝てるはずがない!
相手は核融合炉であるおっぱいを持つ人間達、エネルギーはほぼ無尽蔵です。
しかも、傷を付けてしまうと核ミサイル並みの爆発を起こし、その後の放射能汚染により人が住めなくなってしまう。
江戸城など跡形もなく消し飛び巨大なクレーターだけが何百年もそこに残ることになる。
おっぱいを持つ人間はもはや、それ個人が兵器なのだ。
拙はその対策のために何年もの時間を費やし着々と準備をしているというのに……まさか、制裁戦争が拙の知り得ない地で起きているとは!
拙は恐怖しました。
幕府内で将軍様の聖器を奪われたなら、次は拙を狙いにやって来るかもしれない。
乳トロンジャマーはまだ未完成。
反撃で相手を蹴散らすことは可能だが、暴力的な手段では相手の自爆を誘い放射能でこの地を汚してしまう。
「くくっ、そうだ。日露戦争の開戦に向けて幕府内では連日の会議。現在も幕府内は慌ただしくしているであろう」
お義母様は拙がこれ以上、恐怖しないため優しい口調で仰ってくださっているのはすぐに理解できました。
実際には会議ではなく戦争そのものが起きている。
戦争を会議と表現し話して下さるだけお義母様の優しさが伺えます。
ですが、ニチロ戦争とは何のことでしょう?
深く考える必要はありません。
お義母様は拙が怖くならないように話してくださっているのは今しがた理解できたことです。
おそらくニチロ戦争とは江戸城内で起きている制裁戦争のことなのでしょう。
「カペラよ、君死にたもふことなかれ。お前が日露戦争という下らぬごっこ遊びに参加する必要など無い! 一刻も早く松前藩へ向かうのだ! そ、そうでなければ……俺が……俺が比奈音に怒られてしまう!」
なんて……なんて拙は愚かだったのでしょう。
蝦夷地へ拙が向かわなければならないのは制裁戦争から身を守るためだったのだと、その時気が付きました。
それなのに拙は制裁戦争の準備が滞るため蝦夷地へ向かうことを一瞬なりとも拒めるかと思ってしまいました。
お義母様はすべて理解していらっしゃる。
拙が蝦夷地へ向かい、任務をこなしながら同時に乳トロンジャマーを完成させ制裁戦争に勝つ。
ここまでお義母様は考えてくださったのだと拙は自身の考えの至らなさに深く後悔しました。
「マスター、今すぐ出立の準備を致します!」
「うむ、これで俺は比奈音に怒られずにすむ」
拙はすぐに自室へ戻り出立の準備を整えます。
その時でした。
「比奈音様、直々のお呼びですって? カペラ、貴女……どんな手を使いましたの?」
扉に寄り掛かり拙に声をかけるのはレグルスちゃんでした。
シリウスちゃんやリゲルちゃんと最も仲良くしていた彼女のおかげでシリウス派はまだ存続できています。
拙は出かける前に話せて嬉しく思いました。
「レグルスちゃん……えっと、その……」
「ふんっ、しらばっくれるおつもりですのね? ま、良いですわ。今の妾は常にお義母様のお側に居られる立場。貴女は北の果てでその無能を曝け出さないよう努力することですわ」
拙には分かります。
レグルスちゃんらしい励まし方で一生懸命、拙を応援してくれているのだと。
「レグルスちゃん……ありがとうでありんす」
拙はレグルスちゃんに軽くハグをし別れの挨拶をしました。
「ちょっ! えっ!? わ、わ、わ、妾は貴女のことなど心配していないですわ! とっととお行きなさい!」
顔を赤くして去って行くレグルスちゃん。
叡智の書に記してあったツンデレ属性とやらを宿している拙の大事な友人です。
ハグして分かりましたが彼女のおっぱいはまだ未完成。
聖欲に突き動かされない状態でずっといてほしいと願うばかりです。
「準備出来たようだな? では、行くか」
「はいっ!」
函館までお義母様の飛翔で向かいました。
京都から約5分、移動中は呼吸をすることが出来ないほどの速さに驚きました。
流石はお義母様、日本の何処に居ても一瞬で助けに来て下さる淡い希望を胸に拙は開店準備中のカカシマヤに入りました。