カペラ⑤
あれから毎晩、お義母様から教わった通り自身の聖剣に陰陽術をかけ続けました。
おかげさまで12歳を迎えた拙は今でも聖剣の暴発に誰も巻き込まず過ごせています。
ですが、生死を操ることはまだ出来ません。
神の領域に触れるほどの陰陽術……お義母様はすでに拙は極めていると仰って下さいましたが死んだ虫でさえ息を吹き返すことはありませんでした。
「マスター、拙は……まだ生死を操れていません! 何が駄目なのかお教え下さい」
「えっ、精子を操る? ああ、オ……ごほっごほっ……んんっ! ナニーのことか」
女に!?
拙は確かにお義母様がそう言ったのを聞き逃しませんでした。
風邪をこじらせるためマスク越しでしたが偉大なお義母様の言葉を聞き逃すことなどありません。
「す、すまんな……ごほっごほっ、カペラ。今日は少し調子が悪くてな……」
拙は考えました。
女に……言葉の続きは?
「女に……女に……女に……」
拙は悩みながら部屋に戻りました。
自室に居るカノープスちゃんがムジカちゃんといつも通り楽しそうにお話をしています。
「ムジカ、ばっかりズルいにゃ! どうしたら、そんなに大きく育つにゃ!」
「し、知らないの……ムジカは寝て起きて食べて動いて……みんなと同じことをしているだけなの」
「にゃぁぁぁ! このっ、このっ、脂肪袋にゃ! にゃろにも少し分けるにゃ!」
「ひゃぁぁぁ! カノちゃん、ムジカのおっぱい叩かないでほしいの」
そうか……拙は気づきました。
女に拙はまだなりきれていない。
拙の胸はまだ他の子達のように大きくなってきていません。
拙だって女の子のはず……。
京都にやってきたばかりの頃、お義母様が仰っていました。
『良い! 完全な男の娘だ! やはり、俺の目に狂いはなかった! カペラ、お前にはメイクも教えないとな』
『お義母様、拙って男なのですか?』
『……くくっ、いいや。お前は女の子をも凌駕する上位の存在。男でありながら娘なのだ』
『娘……拙はお義母様の娘?』
『そうだ……』
今でもはっきりと覚えています。
拙は娘……つまり女の子なのです。
皆と同じであるから、ここに居させてもらえる。
でも、皆が成長していくと拙と異なる部分が目でわかります。
「にゃふぅぅぅ……この柔らかさ……雲の上みたいにゃぁ」
「か、カノちゃん。ムジカのおっぱいに顔を埋めないでほしいの」
特に拙と同室のムジカちゃんは大きく育ちすぎです。
中に何が入っているのでしょうか?
カノープスちゃんが脂肪って言っていたけれど、拙にはそれだけとはとても思えません。
お義母様は風邪で体調を崩しているし……聞きたくても聞けない。
「にゃ? カペラもこっちくるにゃ」
カノープスちゃんに声をかけられたのでムジカの隣に座りました。
「カペラも触ってみるにゃ。こいつはヤバい代物だにゃ」
「ひぇ……や、やなの。触らないでほしいの」
拙は悩みました。
触った感触で中に何が詰まっているのか分かるかもしれない。
でも、ムジカちゃんは嫌がっているので無理には触れません。
「ムジカ、独占は許さにゃいにゃ! おっぱいはみんなの共有財産にゃ!」
「共有財産って無茶苦茶なの……ひぃ!」
カノープスちゃんが拙の腕を掴みムジカちゃんの胸に手を押し付けました。
「どうにゃ? 最高な揉み心地だにゃ」
すぐに手を離すべきか悩みましたが何故か手が離れようとしません。
拙はすぐにその謎を解明すべく脳をフル回転させました。
「ふむ……」
「カペラちゃん、真剣な眼差しで揉まないでほしいの!」
触った感触では確かに脂肪が詰まっているだけのように思えます。
しかし、何故なのでしょう?
ずっと触っていていたい……不思議とそんな感じにさせる魅力がある。
「やっ……んっ! あっ……」
拙はムジカちゃんの胸を揉みながら考えました。
この懐かしい感じ……そうだ、拙のおかっちゃ。
拙は赤子の頃にこの柔らかさに包まれ育ったことを思い出しました。
そして、お義母様もまた同じものを持っている。
そこから考察するに内部に詰まっているのはやはり脂肪だけではない。
拙の聖剣と同じようにこのたわわな実りには絶対に秘密がある。
拙は目を閉じ全集中し、ひたすらムジカちゃんの胸を揉み続けました。
「んっ……ああっ! カペラちゃ……」
「にゃ……か、カペラ。そこらへんで勘弁してやるにゃ」
「えっ?」
ムジカちゃんを見ると彼女の顔は何故か火照っており瞳も潤い、いつものムジカちゃんからは想像できないほど魅力的に見えました。
「あ、ご……ごめんでありんす」
拙も突然、顔が熱くなり咄嗟に誤ってしまいました。
「にゃはは、ムジカ……その……にゃろも謝るにゃ。だから、その……怒らにゃいでほしいにゃ」
「うん……ムジカは2人が大好きだから怒らないの」
その後は楽しく会話をしカノープスちゃんはムジカちゃんに抱かれながら眠りにつきました。
拙は先程の感触を忘れない内に寄宿舎内にある図書館へ行き、おっぱいについて調べようと思います。
「はぁ、さっきの感触……あれは……」
「ふふっ、どうしたんだい? 君も調べ物かな?」
夜も遅い中、リゲルちゃんはいつも図書館にいます。
夏だからでしょうか。
彼女は下着姿のままで図書館に来たようです。
拙の視線が何故か彼女の胸に行ってしまいます。
ムジカちゃんとは比べ物にならないほど極小。
でも、拙の胸板よりは少し山がある。
人によって成長速度が異なるためなのか、それとも人によってサイズが異なるのか疑問が次々に湧いてきます。
「えっと、調べ物をしようと思って……」
「ふふっ、知識は人を大きく成長させる。君は人より努力しなくてはいけない分大変だろう。よし、僕も手伝ってあげよう。何について調べるんだい?」
「おっぱいについて調べようと思うでありんす」
「へっ!? お……おっぱ……げふんげふん! な、なるほど……君も小さいからねぇ」
リゲルちゃんが珍しくへどもどしています。
ですが、すぐに落ち着きを取り戻しリゲルちゃんが知っているおっぱいについて話してくれました。
「ふふっ、マスターの叡智の書によると僕達の胸には無限の可能性が詰まっているようだよ」
「可能性? そんな概念的なものには興味ないでありんすえ。もっと、構造的なものを拙は識る必要がありんす」
「構造的なものか……ふっ、君も余程自分の胸について不満があるようだね」
不満?
ふと思い返すとカノープスちゃんはムジカちゃんのおっぱいに対して嫉妬しているような雰囲気がありました。
自分にもよこせと言っていたよう……な?
「ああっ! ま、まさか!」
拙は思い出しました。
聖欲は聖なるものを持っている人から奪い取りたいという欲望のことを。
カノープスちゃんがムジカちゃんのおっぱいを奪い取ろうとした行動が聖欲から来た衝動だとすると……おっぱいは聖器!?
ムジカちゃんも拙と同じ聖器を持つ者だと気付いた瞬間、拙は恐怖で腰を抜かしました。
「ど、どうしたんだい? 身体でも悪いのかい?」
「せ……制裁……戦争が……始まってしまった……」