カペラ②
長い稽古の後にやっと夕食です。
夕食にはお義母様も一緒です。
みんな、お義母様の隣を狙って喧嘩になるので食事中の席が決められてしまいました。
拙の隣は相変わらず叡智の書を読みながら食事をするリゲルちゃん。
「焼けたよ……真っ黒に……焦げ尽きた……真っ黒な灰に……ふふっ、なるほどなるほど」
……本当にどんな内容が書かれているのだろう?
気になって夜しか眠れません。
「さて、お前達に紹介したい子がいる。入ってきなさい」
食事の途中でお義母様から皆にお話。
今日はどうやらお義母様に救われた新しい子が来るようです。
どんな子なのかな、仲良くできると良いな。
「……はい……でござる」
「彼女の名はプロキオン。今はまだ心に大きな傷が残っているが、ここで生活すれば必ず良くなると私は期待している」
扉を開けて入ってきたプロキオンちゃんは大きいです。
シリウスちゃんより頭一つ分……いや、それ以上?
何歳なのかな?
後で訪ねたところシリウスちゃんと同じ7歳のようです。
7歳であの大きさって何を食べたらそんなに伸びるのだろう?
「ふふっ、君はこの世の全てに絶望しているようだね? その表情から見るだけで分かるよ。大丈夫さ、僕が君の心を開いてあげよう。よろしく、僕こそスターズの超新星リゲルだ!」
「………………」
「お義母様、この子は……」
「シリウス、君に任せよう。あまり厳しくせず……な」
「はっ、お義母様の仰せのままに」
ここに来たばかりの子はどの子も心を閉ざしています。
拙も同じだったし、シリウスちゃんやスピカちゃんも同様でした。
真っ先に新しい子に近寄るのはいつもリゲルちゃん。
彼女の声のかけ方はいつも謎の自信に満ちていてなんだか圧倒されます。
その後に続いてシリウスちゃんが声をかけ隣に座らせました。
他のみんなは夕食後の自由時間に声をかける子が多いです。
「よし、みんなで風呂にでも入るか」
「やった―――!」
「お義母様と入れる♪」
拙も一緒に入りたいけれど遠慮しました。
今日の食器洗いの当番だからです。
「良いなぁ、うちもお義母様と洗いっこしたいな~」
「デネボラちゃんも行ってきていいよ。拙、1人で大丈夫だから」
「え、そんな……悪いよぉ」
「いいから、いいから」
「じゃ、じゃぁ……お願いしちゃおっかな? カペラちゃん、あんがと」
拙と同じ当番のデネボラちゃんはすごく残念そうにしていたので行かせてあげることにしました。
お義母様が言っていました。
友達のわがままを聞いてあげるのもたまには吉。
また友達を喜ばすことができて拙は嬉しいです。
食器洗いをし終わった頃にはみんなお風呂から上がっていました。
今は就寝前の自由時間。
お義母様に甘える子や友達同士で遊ぶ子、1人で読書を楽しむ子などみんな自由に過ごしています。
拙はリゲルちゃんが読み終わった叡智の書第1巻を読んで勉学に励みます。
早速、本を開き目次を見てました。
「えっと……エ◯ァ初号機よりア◯カに乗りたいイッチ達の反応集? ビールマイスターよりガン◯ムマイスターになるべき100の理由? 聖剣エクスキャリバーという卑猥な一物とは、その謎に迫る?」
お義母様の至高な思考に触れたような感覚はしましたが、内容はよく分からず理解に苦しみました。
これが叡智というものなのかな?
リゲルちゃんが何度も読んでいる理由が叡智を理解するためだと納得できたので良しとします。
「ふぅ……お風呂に入ろ」
浴場に行くとお義母様が入っていました。
「わーい」
「ほらほら、走ると危ないぞ」
孫の比奈乃様と一緒のようです。
拙はこのまま入って良いのか脱衣所で悩みました。
「カペラか……気にせず入ってこい」
お義母様は凄いです。
気配を完全に断っていたのに気付かれてしまいました。
拙はお言葉に甘えバスタオルで前を隠し入りました。
「ふむ、栄養失調は完全に克服したようだな。良い肉の付き方をしている」
「お義母様のおかげです」
お義母様が背中を洗ってくれてとても嬉しいです。
今夜は良い夢が見られそう。
お風呂に浸かるとおもちゃで遊んでいる比奈乃様と目が合いました。
「あ、カペラだ! ざぁこ♡、ざぁこ♡」
「ふははは、雑魚か? 初級的メスガキプレイはマスターしたな、比奈乃!」
拙は意味が分かりませんでいたが取り敢えず微笑んでおきました。
その後もひたすら同じ言葉を繰り返されました。
たまに手や足を踏まれ言葉責めをさせられましたが、比奈乃様は楽しそうにやっているので拙も嬉しくなりました。
「ふぅ……」
お義母様と一緒にお風呂……至福な一時です。
「おばあちゃん、あたし上がる―――」
脱衣場へ走っていく比奈乃様の姿を見て拙はふと気づきました。
「お義母様……」
「ん?」
「どうして、拙の身体には皆に無いものが付いてるの?」
拙は勇気を出してお義母様に訪ねました。
この寄宿舎に居る子は拙以外に誰も付いていないことを拙は知っていたからです。
みんなと同じでないことが嫌で隠し続けてきました。
でも、みんなに隠し事をしているようで罪悪感はずっと心に残っています。
お義母様は優しく微笑み答えてくれました。
「くくっ、それはな……性器だ」
「聖……器?」
拙はふと思い出しました。
叡智の書第1巻に載っていた聖騎士が持つ武具の名前を……。
おそらく、叡智の書を読んでいなければ聖器の意味を一生理解できないままだと思います。
「もしかして……エクス……キャリバー?」
「ふぁっ!? ……ふ、ふははは、なるほど! そういう設定か!? そうだ、それこそ性剣エクス《《カリ》》バー! 新たな生命を創造するため必要な人類の至宝だ!」
「聖剣……新たな生命を創造……人類の……至宝……」
拙は驚愕しました。
まるで全身に電撃が流れたかのような感銘を受けたからです。
同時にふと疑問に思ったことがあります。
聖剣というからには剣のはず……どう見ても剣には見えません。
剣であるべきに必要な刃が無いからです
拙は考えました。
眼の前に居るお義母様に聞けばすぐに分かることですが、何事も聞いてばかりでは成長できないと思ったからです。