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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
109/263

寺屋敷にて(其の参)

『奴と私は学生時代から因縁があってな。奴の本名は忘れてしまったが、出家後の戒名は覚えている。外道罰虐平げどばち ぎゃくぴょん。奴はクズの中のクズで私も何度も痛い目を見せられた。幼い頃から悪の限りを尽くし欲望と本能だけで生きている哀れな奴でな、若かりし頃の私は見ていられなかった。だから、救いの手を差し伸べたのだ。だが、奴は使えるものをさんざん利用したあげく姿を消した』


「お義母様の御慈悲に預かっておきながら、それを奪って逃げたですって!?」


「ふふっ、幼少時から残念な奴だったんだね」


 まだまだ美心からの話は続く。


『次に再開したのは私がアラサーの時だ。奴は生い立ち不幸な少女を悪人に高値で売りつける奴隷商売のような事業をしていてな……』


「若い頃から今のようなことをしていたでござるか?」


「戒名の通り、まさに外道でございますです」


『その時は突然の邂逅だった。私は再び言葉で奴の行為を制止しようとした。だが、奴は私の言葉も聞かずまた姿を消してしまった』


(まったく聞く耳を持たないか……度し難いほどの愚者でござるな)


(マスターの優しさが全て裏目に出てしまった結果が今なのかな?)


(お義母様は人売りをしている尼僧まで助けようとした? ああっ……なんて……なんて……慈悲深いお方なの!)


 美心の過去の栄光を聞くことができ、幸せに満ち溢れるシリウス達4人。

 すでに瞳はハートになり、屈したはずのアンセル達も若干ドン引きしていた。


『アンセルや君達のように海外にまで人売りをしていることが分かったのはつい最近になってのことなのだ。私が奴を止められなかったばかりに……ううっ』


(酷い……マスターがそんな辛い思いをしていたなんて……)


(尼僧、マスターの御慈悲を無下にするなど絶対に許さないでござる!)


(マスターを今でも悲しませる尼僧はこの世界のゴミだ。必ず僕が屠ってくれる!)


(わたくしの名前を言っていただけたでございますか!? ああっ、マスター!)


 結局、アンセル達も美心の慈愛の深さに触れ屈してしまい目がハートになっていた。

 この会話で美心への忠誠心と尼僧に対する憎悪が激増した皆はやる気に満ち溢れる。

 そして、美心のビデオレターも終盤。


『最後になったが君達がこれを見ているということは近くにカペラが居るはずだろう。シリウスらは知っているだろうが彼女は無能な才女だ』


 ここで美心がカペラの設定を改めて皆に伝えた。

 無能呼ばわりすることで本当にモブであるとシリウス達に認知させるためである。


「えっ……無能……でございますですか?」


「無能ってなぁに?」


 アンセル達は美心からそのような言葉が出たことで戸惑ってしまう。

 だが、シリウスとリゲルは即座に理解する。

 

(無能だけど才女か……つまり、磨けば輝くってことですね? マスター!)


(無能なのにこちら側に送る意図? ふふっ、マスターの叡智にはまだまだ届かないな。だが、これだけは分かる。無能とマスターが仰った以上、カペラは無能中の無能! それはつまり優しく接してあげてねということだろう)


『いわゆる彼女のレアリティはコモンだ。因みにシリウスらはSRスーパーレアだと私は思っている』


(スーパーなレア!? それって私が特別な存在ってこと!? あ……ああっ、お義母様、お義母様、お義母様ぁぁぁ! 私にとってもお義母様はSSSRな御方でございます!)


(ふっ、僕がSRとはね。マスターも言ってくれる。もう、今すぐにでもマスターのお側で叡智に24時間触れていたいくらいだよ)


「意味がわからないでござるな」


「わちも~」


『カペラにはこの海外経験を経て立派に成長すると、私が見越して君達の下に送らせてもらった。彼女は戦闘では役に立たないだろうが知識はある。特に薬学に置いては信用に足るほどだ。病気にかかった際は彼女に診てもらうといい。感染症などの病気は治癒陰陽術でも効果がないからな。カペラをそちらに送った目的の1つでもある。愛する娘達が病気で倒れたなど私は悲しいからな……おっと、話が長くなってしまった。また会えるときを楽しみにしているぞ愛する我が娘達よ』


 そうして、ビデオレターは終了する。

 シリウス達は皆、涙を流し黒い画面をただ眺めていた。


「愛……する……娘……また仰っていただけた……お義母様ぁぁぁ!」


「わたくしが愛する娘……うれしいでございますです!」


「う、う、ううっ……私なんぞが愛娘なんて……すみませぇぇぇん!」


(ふふっ、皆……マスターの最後の言葉にすべて持っていかれたようだな。だが、僕は聞き逃さなかった! マスターはカペラに薬学があることを伝えたかったのだ。それはつまりカペラには医者という役割を与えなさいということなのだろう。だが、それは僕にとって居場所を1つ失うことになる。これは僕にとって非常によろしくないな……くっ、どうすれば!)


 この仲間の中で最も知識に優れた者という立場を確立させていたリゲルは戸惑いを隠せなかった。

 実際に彼女は5年前、尼僧の阿片で中毒症状を起こしたベガやアンセル達を治療した実績があり、医者に近い相談も隊員達から受けていた。

 だが、リゲルの知識の多くは美心の書き記した叡智の書から得たものである。

 バファリンやビオフェルミンなどまだ存在しないものも多く、彼女は妄想で彼女達のかかった病を診続けていた。


(マズい……僕が今までしてきた治療が適当だったことがみんなにバレれば……)


 リゲルは1人、自室に戻ろうと食堂を出て廊下を歩く。

 頭の中では悩みに悩む。

 カペラを貶めるといった悪いことも想像してしまうが、頭を横に振り考えないようにするリゲル。

 そして、自室に入ろうと扉を開けたその時だった。


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