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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
108/263

寺屋敷にて(其の弐)

「今から皆にマスターからの言葉を送るでありんす」


「えっ?」


「なっ!?」


「お義母様に会えるの!?」


 カペラが機械のボタンを押すと食堂の白い壁に玉座の映像が投影される。

 陰陽術式蒸気機関で起動するプロジェクターのような機械である。


「す、凄い……いつの間にこのような機械が……」


「しっ、みんな静かに」


 映像の中で玉座に向かい歩き座る美心。


「あ、ああっ……マスター……」


「マスター」


「ふぇぇぇ……マスターぁぁぁ」


「なんとも感慨深いでござるな……ぐすっ」


 美心が映像に写っただけでシリウス・リゲル・プロキオン・ベガの4人は涙を零し感動してしまう。

 反面、日本人牧場で育ったアンセルやフーユェー、その他の子ども達は居を突かれたかのように唖然としている。


(えっ、このお婆さんがマスター?)


(神だと伺っておりましたのに、こんなの単なるババアではありませんか!)


(シリウスさん達、もしかして私達を騙して……た?)


 彼女達の目には綺麗な着物を羽織ったただのお婆さんにしか見えなかったのだ。

 大人に対して絶対に屈してはならない。

 彼女達は悪魔教や尼僧に騙されたという悲惨な過去を持つ。

 その経験から信じられるのは同年代の少女達だけだと心に決めていたのである。

 そして、映像の中で美心がこちらに向かって口を開く。


『久しぶりだなシリウス。それにリゲル・ベガ・プロキオン。我が愛する娘達よ……』


(愛する!? うっ、うううっ……マスターはまだ私達を娘と……)


(ふふっ、マスター。そのような甘い言葉を投げかけないでくれ。僕は……もう……自分の心に屈してしまいそうだよ! いや、屈した! お義母様ぁぁぁ!)


「ぶぇぇぇん! お義母様ぁぁぁ!」


「しっ、ベガ。声を出して泣かないでござるよ……ぐすっずずっ」


 美心のたった一言で再び涙を零す4人。

 シリウス達のそのような姿を一回も見かけたことのないアンセル達は冷たい目で美心を見る。


『悪魔やその眷属と戦ったそうだな。怖い思いをさせてしまった……許せ。それにオカブ……本名は瑠流だったな。惜しい娘を失わせてしまった……これも我に責任がある』


 ほろり


 一粒の涙が美心の瞳からこぼれ落ちる。

 

(瑠流!? このお婆さん、瑠流のことまで知っているでございますですか? 瑠流の死を本気で悲しんでくれているでございますです? なんて……なんて慈悲深い……このような大人が居たなんて……ああっ)


 日本人牧場出身のメンバーで最初に屈したのはアンセルだった。

 見たことも無いはずの、すでに朽ち果て一生見ることのできないオカブを気にかけ、さらに自分の娘のように悲しみ涙を流してくれている美心の姿に心を強く撃たれたのだ。


「マスターは神……」


 勿論、この程度の演技をすることは美心にとっては簡単なことである。

 瑠流の件もシリウスから送られてきた手紙に記しており、たまたま覚えていただけに過ぎない。

 だが、アンセルにとっては自分の目に写った美心こそが真実である。

 アンセルは美心がシリウスから聞いた通りの慈愛に満ちた菩薩のような方であると即座に理解した。

 自然と涙が溢れるアンセル。


「う、ううっ……マスター……マスター……マスタァァァ」


(ふふっ、アンセルもお義母様の慈愛の深さを理解してくれたようね。私も嬉しいわ)


『日本から連れ去られた悲劇の娘達よ。すまなかった……星々の庭園はそのような子どもを救うために結成したというのに……君達を……ぐすっ、保護できず……う、ううっ……本当に救えなくてすまなかったぁぁぁ! うわぁぁぁ!』


 すべて演技である。

 若干、オーバーリアクションかと思うほどに泣き崩れる演技をし、涙を流し続ける美心。

 相手の心を掴むには共有してあげること。

 彼女達には悲惨な過去がある。

 それを理解してあげていると相手の目にも確実に伝わるように美心は泣き続ける。

 それはフーユェーや子ども達を屈しさせるには十分な威力だった。


「わたくしが日本から連れ去られた責任をさも自分にあるかのように思って下さるなんて……やはり神でございますですわ!」


「そ、そうよ! 私達の仕えるべき偉大なお方はマスター以外に有り得ない!」


「マスター! 貴女の責任ではございません! 憎きはあの尼僧とかいう下劣な悪魔です!」


 そして、録画映像はまだ続く。


『こほん……取り乱してすまない。君達は我が娘として暖かく迎えよう。将来を不安に思うこともない。私が君達をサポートする。夢があるのなら、それを叶えてやろう。なんでも言うが良い! 私は君達の義母なのだから!』


「な、なんて……なんて……優しいお方……」


「我のお義母様はこの方だった……」


「お義母様、これからもずっと貴女の下で仕えさせていただきます!」


「「わぁぁぁ、マスター最高! マスターは神!」」


 星々の庭園エゲレス支部の隊員、全てが美心に屈した瞬間であった。


「ふふっ、みんな幸せそうな表情をしている」


「当然よ。お義母様の御慈悲を受けることができたもの」


「ふぇぇぇ、良かったねぇぇぇ。アンセルぅぅぅ」


「はいでございますです。これからもベガちゃんとずっと一緒に居れるでございますです」


 さらに美心の録画映像は続く。


『おっと、そうだった。話は変わるが尼僧に会ったそうだな?』


「尼僧! あの極悪を極めたかのような悪僧をマスターも知っている!?」


「ふふっ、マスターはこの世界で知らないことなどないだろ」


「当然でござるな」


 シリウス達は真剣な表情で美心の話を聞く。

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