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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
105/263

強襲にて(其の肆)

(どうして……どうしてこうなった!? こんなはずでは……)

 

 シリウスらを捕らえてから、すでに2時間。

 エゲレス陸軍第4部隊はその半数近くを失っていた。

 深い霧の森の中をいつまでも抜けられず、隊の士気もかなり下がっている。

 200名近くいた軍人達がたった1人の相手により、時間をかけ徐々に数を減らされていった結果である。

 それはまるで料理をする如くのよう鮮やかに、そして優雅に息の根を止められていく。

 時には鉄線で背後から暗殺され、時には落とし穴の中にある竹槍で、またある時には遠距離からの銃撃で軍人達が続々と数を失っていく。


「何をしている!? 守備陣形を守れ!」


「大佐、無理です! 奴はこの森の中、その隙を必ず突いてきています!」


 ニック大佐は冷静を装うが、心情は穏やかではなかった。

 たったの2時間で配下の軍人を確実に屠っていくその手際に称賛しつつも、自らの部隊が子ども相手に為す術もないことに憤りを感じていた。


「がーっはっは! 素晴らしい! 貴様は星々の庭園のメンバーだな?」


 森の中、大声で相手にも聞こえるよう問いかけるニック大佐。

 これ以上、配下を失うわけにはいかないため少しでも時間稼ぎをしようと試みる。


「それが何か?」


 相手が返事を返してくれたことにより安堵するニック大佐。

 彼は時間稼ぎをしつつ、この後の行動を考える。


「貴様の求めるものはわかっている。全員、お返ししよう。この度はすまなかった。だから、どうか姿を見せてくれないか?」


 パァン


 その問いかけに答えるかのように1発の銃弾がニック大佐の隣にいた軍人の脳天を貫く。


「す、すまない! 姿は見せなくてもいい! 装甲車ごと貴様の仲間を置いていく! だから、ここは大人しく撤退させてくれ!」


「8人もの子どもを殺しておいて?」


「それは本当に心から謝罪する! 我々も仕事で仕方なく殺ったのだ! 貴様も暗殺組織の一味なら分かるだろ! これは命令だったのだ!」


「……残り83人」


「た、頼む! この通りだ! 許してくれ!」


 スッ


 何処に潜んでいるかも分からない相手に対し頭を下げるニック大佐。

 配下の軍人にも合図をし、銃を収めさせる。


「ま、80人もいれば十分でありんすえ」


 ニック大佐が頭を上げた眼の前に居たのは1人の少女。

 目深に被ったフードをおろし顔を見せている。

 紫の髪に淡い桃色をした瞳……その美しさに一瞬ながら見とれてしまったことを後悔するニック大佐。

 だが、正気に戻ったニック大佐はゆっくりと気付かれないよう右手を腰に回す。


 ニヤッ


(このタイミングで姿を現す……馬鹿め、私の早撃ちであの少女と同じく動きを封じてくれるわ!)


 ニック大佐は隠し持っていた拳銃で相手に向かい放つ。

 だが、それは愚策であった。

 何の準備もせずに相手が姿を現すはずなど無いと考えが至った時にはもう手遅れであった。


「ぎやぁぁぁ!」


 ニック大佐の隣にいた死体が突然、動き出し彼の右腕に噛みつく。

 それだけでは無かった。

 すでに死亡した軍人がゾンビとなり、第4部隊を恐怖のどん底に叩きつけられていく。


「ほ……本物の化け物だ!」


「うわぁぁぁ、逃げろ!」


「け、ケイト……嘘……だよな? や、止め……ぎゃぁぁぁ!」

 

 陣形が崩れ、皆散り散りに森の中を走り去っていく軍人達。

 ニック大佐も恐怖で身体が動かず、その場で腰を落としたまま立ち上がれない。


「な、何が起こっ……た?」


 悪魔教から知らされていたはずの陰陽術の性質。

 エゲレスなどの海外では賢者の石を使わずして使うことはできない。

 星々の庭園エゲレス支部を襲撃するきっかけの1つでもある。

 素材になる日本人少女の血液、それを効率的に集めるため強襲したはずであった。

 それが何故、今こうやって追い詰められている?

 彼は理解が追いつかず頭の中が混乱する。

 

「自己紹介が遅れてしまいもうしたね。拙の名はカペラ。この通り、死者を操るネクロマンサーでありんす」


「ね……ネクロ……マンサー……?」


「それと……広域展開『癒』!」


 心地の良い風が森の中を通り抜けていく。

 ニック大佐は噛みつかれたはずの右腕の傷が無くなっていることに気付いた。

 それだけではない。

 辛うじて生きていた大傷の軍人も傷が塞がりゆっくりと腰を上げる。


「このようにヒーラーでもありんすえ」


「ば、馬鹿な! あの傷を一瞬で……」


 ニック大佐は再び問い詰める。 

 なぜ、陰陽術が使えるのかと。

 なぜ、我らの傷を治療したのかと。


「簡単なこと。拙の血液を使いジャップストーンを錬成したからにありんすえ」


 カペラが袖をめくると独特な輝きを放つ赤い石で作られたブレスレットが腕に付けられていた。

 

「己が血で……作り出した……?? あれの錬成は一個人が用意できる設備では無理……ま、まさか!?」


 ニック大佐は気付く。

 彼女達の背後にあるのは世界的にも類を見ないほどの超巨大企業、春夏秋冬財閥。

 一国の軍部、その中でも本隊には知られず秘密裏に結成された第4部隊は、様々な死産家から資金提供を受け、ようやく整った設備で賢者の石を作り出した。

 それ以上の資金を潤沢に使える春夏秋冬財閥が錬成した賢者の石は、更に高純度であったことなど、カペラの腕に付けられているブレスレットの輝きを見れば一目瞭然であった。

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